第二話 直下の戦線
補足:直下の戦線とは、地下五階の魔法生物がわいてくる所の戦線を王国騎士団が受け持っている隙に裏口から冒険者が忍び込んでクリアを目指すというストーリーです。
玄室を出たスルリグは咄嗟に首を横に捻り、正面から飛んできた毛玉を避ける。べチッと音を立てて壁に跳ね返り、ゴロリと転がったソレはまだ死んだ事にも気付いてなさそうな若い女の……聖職者の生首だった。
「クソッ! また忍者共かッ!」
スルリグはそう叫びながら、自らを起こしに来ていた若い女の聖職者の身体の方を探すと、最前線に並び立って激戦を繰り広げている騎士達の戦線にポッカリと空いたスペースを見付けた。
「あそこか……!」
運悪く何らかの攻撃でパーティの前衛が斃されて、後衛職の神官の首が飛ばされた所……なのだろう。彼はそう判断し、空いた前衛の隙間を埋めるべく、ジャラジャラと鎖帷子を揺らしながら突撃して行く。
「ウォオオオオ!」
ガゴン!
全身金属製の武装をした騎士が助走を付けた会心のシールドバッシュ。
猛牛が激突する様な音が鳴り響き、味方後衛の魔術師にトドメを刺そうとしていた敵前衛の軽歩兵……“ローニン”が跳ね飛ばされた。
それと同時にスルリグの騎士盾が眩い光を放つ。
「ウオオオ我が誇りある王国騎士団の騎士盾よ! 我が同胞を護り給え!」
これは聖騎士や神官の使う“祝福”よりも遥かに強力な騎士の切り札だ。
騎士盾に刻まれた防御紋を広範囲に散らす強力な防御結界。それを張る事によって一時的に紙装甲の後衛も前衛の様な防御能力を得る事が出来る。
「今のうちに敵の数を減らせ! 魔術師!」
「ままま……魔法切れです!」
「クソが! なら引っ込んでろ!」
スルリグは逃げる魔術師を背にして、そう吐き捨てながらチラリと床を見た。転がってる味方の死体の数は五つ。
一部隊は前衛三人後衛三人の六人で成り立っている。五つの死体があると言う事は、一時的にであれこの戦線を彼一人で受ける事を表していた。
残る敵の数は“ローニン”一体と“ニンジャ”一体。
「まぁイケるっちゃイケるが……もぅ今日は昨日の半分も働かねぇぜ……!」
スルリグは盾と剣を器用に使い、敵二体の攻撃を弾き飛ばしていく。
先程使った騎士盾の効果は元々硬いスルリグの防御能力も強化される為、敵の攻撃もそれなりのものでなければ通らない。
それを理解している“ローニン”と“ニンジャ”は一か八かの首斬を狙っているらしいとスルリグは当たりを付ける。
(闇雲に刃を振り回して居るのは囮だな……そこだッ!)
一瞬の隙を突いたかに見えた“ニンジャ”のクリティカルヒットはスルリグのシールドバッシュによって弾かれ、武器を失った“ニンジャ”は即逃走するが、それを逃がすスルリグではない。
「シッッ!!」
騎士剣の柄頭ギリギリを掴んだ速攻の突きを放つと、吸い込まれるように“ニンジャ”の頭を貫いた。
“ニンジャ”は八歩程逃げた後、糸が切れたように倒れ込む。
それを見ていた“ローニン”……の首がスルリグの居る正面を向くと、剣を振りかぶるバケツヘッドと目があった。
……それが彼の見た最後の映像となった。
「戦場でよそ見たぁお大臣じゃねぇか。まぁウチの連中も人の事ァ言えねぇが……」
スルリグは戦意を喪失したローニンに剣を打ち下ろした後、ビウと振り回して血糊を飛ばし、ゆっくりと鞘へ納める。
間一髪ではあったが、スルリグの活躍により崩壊寸前だった前線の一つが持ち直したのだった。
その隙に、後方に控えていた手負いの爆装士が飛び出してきて叫ぶ。
「スマン、スルリグ! 一時間だけ一人で持ち堪えてくれ! その間にそこに倒れているパーティーメンバーの遺体を収容して地上へ送る……! もぅ予算はないがクソッタレ共のケツ引っ叩いてでも生き返らせてくる!」
彼は返事を聞く間もなく遺体を二つ担いで廊下の先にある階段を登って行った。
「無茶言うなよな……! 俺もその死体になっちまうぞ……どうすんだこれ……!」
スルリグの目の前には“ボーンゴーレム”と呼ばれる骨で作られた魔法生物が六体も現れた。
この魔物の腕は六本あり、そのそれぞれが常人の筋力を超越している。それが全て剣や斧等の武器を持っているのだから、騎士盾の防御力をもってしても攻撃を防ぎ切れるものではない。
(ロクロクサンジュウロク。人間にして十八人分の腕か……畜生。こんなものが地上へ出たら一瞬で国が終わっちまう)
「騎士盾よ……願わくば我を救い給え!」
盾の防御紋が弱々しく輝いた。