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第一話 運命のバケツヘッド


「スルリグ……! スルリグ!」


 うす暗い洞窟の奥深く、具体的に言えば地下5階に位置する階層の玄室の1つ。


 聖職者の若い女性が横になっている銀の鎖帷子を着た髭男に蹴りを入れた。髭男は薄汚い顔を歪ませてうずくまる。


「うげぇ……何だよもぅ……」


 スルリグと呼ばれた髭男は開いているのか閉じているのか分からない様な目で起き上がり、眉に皺を寄せて辺りを見渡す。


「交代の時間。今日のシフトは前衛だから、目が醒めたらサッサと前線まで行って! あんまり長くは保たないよ!」


 聖職者の女性はそう言い放つと、スタスタと部屋を出て前線の方へ行ってしまった。


「……はぁ、いつまで続くんだこれ」


 スルリグはため息を突きながら立ち上がり、傍らに掛けてあった騎士剣と鋼鉄の騎士盾を拾い上げた。


 剣には薄く“国王陛下御下賜”と刻まれているが、何度も研ぎ直したからだろうか、その銘文は元々の形を知る人だけが読める程度に薄くなっている。


 スルリグはその場で剣を抜き、二三振り回す。


「神々の恩寵は……二段階ほど取り戻したか」


 剣を鞘に納めて腰に佩く。


 “神々の恩寵”……とは、迷宮の魔物を倒した際に、その遺骸から“経験値”と呼ばれる霊的な力を吸収し、寝ている間に自身の力が強化される神秘の現象だ。


 スルリグは王命によりこの迷宮でニ年間(・・・)、次々と押し寄せる魔物(魔法生物達)と戦っては玄室で休息を取るという生活を送ってきた。


 故に、本来ならば恐ろしい程の“経験値”を取得している筈なのだが、“神々の恩寵”の力は殆ど上昇していなかった。


 それは何故かと言うと、貯めた“経験値”を吸い取る魔物の存在が原因だ。


 定期的に現れては、スルリグ達が魔物を斬り裂いて貯めた“経験値”をこ削ぎ取っていく厄介者。


 名を“霞のロードヴァンパイア”……と言った。


 一昨日の夜も迷宮の闇を斬り裂き現れては、スルリグとその仲間達を薙ぎ倒して、スルリグ達が折角貯めた“経験値”を根こそぎ強奪して行ったのだ。


 仲間達は一段階程“神々の恩寵”を下げる程度であったが、何故かスルリグは連撃を喰らい三段階も“神々の恩寵”を下げられてしまった。


 本来“神々の恩寵”と言うものは、ニ段階上がればそれで軍の階級が上がる程、劇的に戦闘能力が変化する魔法の力だ。


 故に、彼の上司は今のスルリグではまともに戦闘が出来無いと判断して、昨日の戦闘ではスルリグを後衛に配置していた。


 騎士である彼が後衛で魔法使い達に混ざってガシャガシャとボウガンを連射しているだけ……というのは屈辱ではあった。


 だが、前衛に比べて危険の少ない後衛。更に銀の鎖帷子を着けていたスルリグは、たまに飛んでくる敵の攻撃を受けども負傷する事はなく、結果ニ交替分の十二時間に及ぶ連続戦闘を耐え抜いて……ぶっ倒れたのだ。


 そして交代ニ回分の睡眠を取った結果、目覚めた際の“神々の恩寵”はニ段階特進していた……という訳だ。


 恩寵の数値は最も高い状態ではないが、これなら前衛も行けるだろうと確信したスルリグは鳥の意匠を付けたバケツヘルメットを被り、玄室を出た。


 その日が運命の一日となる事を知らずに……。

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