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美しい世界


 皆んなの言う、美しい世界が見えないというだけで、彼女達から可哀想な子みたいな人扱いされる俺。


「元気だしてください主さま。私たちが付いていますから」


「ハデスさま……かわいそう……。大丈夫だよ、きっとそのうち見えるようになるよ!」


「エンの言う通りです。根気強く頑張りましょう」


「…………(ぽんぽん)」


 トウカ、エン、シェーネに、それぞれの言葉で慰められる。

 べ、別に気にしてなんかないし! 俺はただ生きてるだけで幸せだし? そんなのこれっぽっちも興味ないんですけどー?


 あと、クジョウは無言で頭を優しくポンポンするのやめてくれ。

 そんな風に優しくされたら好きになってしまう。


「もういいから。別に俺は気にしてないから。あまり優しくしないでくれ……」


 変に優しくされたら勘違いしてしまいそうになる。

 こちとら、それで痛い目に遭ってる経験がある。

 友人くらいの距離感が俺にはちょうどいい。

 

「それより、何か他の話をしよう。これからどうするか、とか」


「そうですか? では話を変えましょう」


 俺がこの話題を変えようと提案すると、トウカが別の話題を振ってくれる。

 メイドに憧れていたというだけあって、トウカは気配りが上手い。


「あっ、そうそう! 主さまにお願いしたいことがあるのでした!」


 今思い出したという風に、トウカは手を叩いて俺に近づいてくる。

 相変わらず距離感の近い奴だ。


「最初に私が生贄として大狼に食べられてから、こうして他に、この子たち三人が死んだわけですが」


「なんかノリ軽くない?」


 死ってそんな軽いモノじゃないと思うんだけど。

 不死身になって、そのへんの倫理観がガバガバになっているのかもしれない。


 こちらの様子を伺うように、トウカは指を組んでお願いのポーズをとって、上目遣いで俺を見てくる。

 かわいい。

 

「大狼は一年に一回ペースで生贄を要求しているようですね。それでお願いしたいことなんですけど……」


 4年前にトウカ、3年前にクジョウ、2年前にシェーネ、1年前にエン。

 きっちり一年ペースで生贄が選ばれている。


「死んでいたので時間感覚がたしかではないのですが……今年の生贄がそろそろ選ばれる頃です。できればその子が死ぬ前に、主さまのお力でお救いくださいませんか?」


「ああ、なるほど」


 大狼に喰われて死ぬのはさぞかし痛くて苦しいだろう。

 その前に生贄となる子を助けようって話だな。


「もちろんだ。でも具体的にはどうやって助ける?」


 やっぱり大狼を倒すのが最善策だろうか。

 身体能力が強化されてる今なら、家屋よりも大きな化け物だって倒せるかもしれない。

 それに不死身なのだから牙で噛まれても、爪で裂かれても死ぬことはない。

 

「助ける方法は主さまなら簡単ですよ。生贄の女の子を私たちと同じように不死身にして、この苦しみに溢れた世界から解き放って上げてください!」


「あ、助けるってそういう………」


 人生の苦しみから、とかそっち方面の救済の提案をトウカはしてくる。

 

「それは良い提案ですね。ハデス様、どうかそのお力で哀れな生贄の少女を救済して頂けませんか?」


 トウカの話に、真面目なシェーネまでもが乗っかってくる。

 エンとクジョウは何かを言ってくる事こそないが、その目は如実に賛成の意思を示していた。

 

「………俺は、死そのものが嫌いだ。だから、誰も死なないようにしたい」


 皆んなは、黙って俺の話を聞いてくれる。

 

 誰にも死んで欲しくないし、俺自身も死にたくない。

 それが、嘘偽りのない今の俺の本心だ。

 

 だが、むやみやたらと人を不死身に変えていいものなのだろうか。

 トウカ達のように、もともと死んでいた人間を生き返らせるのはいい。

 けど、生きた人間まで不死に、ゾンビに変えるのは正しい行いなのか、俺には分からない。


「不死身にするかはともかく、とりあえず今年の生贄の子が喰われる前に、大狼に会いに行こう」


 俺がそう言うと、皆んなは優しく受け入れ、頷いてくれた。


 結局、生きた人をゾンビに変えていいのかという答えは、すぐに出なかった。


 誰にも死んで欲しくない。

 だが、それを他人にまで押し付けるのは違う気がする。

 これはただの俺のエゴなのだから。


 本心では、全ての人間を不老不死のゾンビにしてやりたいと思っているが、日本で育った倫理観がそれの実行を邪魔してくる。


 答えが出ないまま、俺たちは大狼がいるという洞窟の最深部まで向かっていった。



 

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