勝者の末路-2
「星界騎士団だと……」
「はい。本日同席している皆様には、既に星界騎士団に所属する代表者を選出していただいております」
「お待ちください!この様な暴挙が許されるはずがない!今一度、我が帝国を交えて協議していただきたい!」
「ご冗談を。我々は帝国から警告を受けて、早急に対応したまでの事。一刻も早く星界の巫女の保全に務めるべきだと言って来たのは、帝国ではありませんか」
「だからこそ!何故我々を除外してその様な話が進んでいる!」
「帝国を除外?今こうしてお伝えしているではありませんか」
「は?」
「星界の巫女を最も重要視している帝国であれば、当然星界騎士団に参加してくださいますよね?」
「っ!?」
(何だこれは!?何が起きている!)
突如、マルテから宣言された星界騎士団。
王国の戦力だけでは、星界の巫女を守り切れない。
だから、星界の巫女を守護する役目は最強の軍隊を持つ帝国こそが相応しい。
戦場でそれは証明された。
しかし、星界の巫女は王国と帝国間だけの問題ではない。
魔王軍との戦争は、全ての国に関わる重大な事態。
ならば、帝国軍のみならず、連合加盟国から精鋭を結集させて星界の巫女を守護する騎士団を作ればいい。
戦力が多いに越した事はないのだから。
(だがそれは建前だ!本心は帝国軍だけを王都に駐留させない為の星界騎士団!反帝国勢力の軍隊を王都に駐留させる事で、帝国軍の抑止力とするつもりか!だがこれは……)
王国軍の敗北から僅か三日しか経っていない。
つまり、たった三日間で、魔族を含めてイースランド王国やパルトデール王国と手を結んだ事になる。
それならば、あまりにも早すぎる。
魔族達はともかく、イースランド王国とパルトデール王国に関しては、完全なる帝国の同盟国ではないにしろ、そう簡単に帝国と関係を悪化させる事はしないはずだ。
(だとすると……事前に話が付いていた?馬鹿な……有り得ない!もしそうなら、この女は初めから王国が敗北する事を予期していたことになる!そんな事が有り得るのか?世間知らずの王女が出来る芸当ではないぞ……いや、まだこの女が仕組んだとは限らない……まさか!勇者が!?)
(帝国の優位性はその軍事力。周辺国は帝国の軍事力を恐れ協力姿勢を見せているけれど、実際は帝国の強硬姿勢に不満を募らせている。だから、簡単に付け入る隙が出来るのよ)
人間種国家の中でも列強として数えられるグランザール王国、ロイセン帝国、イースランド王国、パルトデール王国は、それぞれが絶妙な関係で均衡を保っていた。
その中でも、帝国の軍事力は他列強より頭一つ抜けている為、他列強国に対して常に優位に立つ事が出来た。
グランザールは連合の盟主としての威信を懸けて、帝国とは常に険悪な関係。
パルトデールは自国が損害を被らない様、国際情勢を鑑みてグランザール王国と帝国のどちらかに付いた。
島国であるイースランドは、帝国に協調姿勢を取りつつも大陸に関与せず不干渉を保っていた。
イースランド海軍は連合内でも最大数の艦隊を有しており、大陸からイースランドへの侵攻上陸は不可能に近い。
もし仮に帝国が大陸を支配しても、侵攻してこないのであれば協力関係を結んでいた方が自国にとって利益になる。
しかし、イースランドの考えは甘かった。
帝国は常に兵器開発を行っており、イースランドの諜報員が掴んだ新兵器が完成した場合、イースランドの安全は保障できないと報告が上がっている。
その上で帝国がグランザールを支配すれば、大陸に確固たる覇権国家が誕生する。グランザールを吸収した次は、自国が標的にされるかもしれない。
何より竜族の存在が後押しとなり、国家方針を大幅に見直したイースランドは、瀕死のグランザールに付く事を決定した。
(魔族はともかく、イースランドとパルトデールが動いたのは……間違いなく竜族の存在。彼らが居るから、この二カ国は瀕死のグランザールに付いたに違いない……くそっ!今は星界騎士団を何とかしなければ……このままでは、帝国は完全に主導権を失う)
「さて、星界騎士団について話を進めましょう」
「お待ちください!」
「まだ何か?」
「我が帝国は、星界騎士団に参加するつもりはありません。これは、我々の与り知らぬ所で決められた事。星界騎士団を結成するのは構いませんが、我が帝国は帝国軍のみで星界の巫女をお守り致します」
「それはそれは……随分と独善的ですね」
「それは、我が帝国に対する侮辱ですか?」
「侮辱?それはこちらの台詞です。まさか……魔王軍との戦争の最中、一方的な宣戦布告をしたにもかかわらず、いざ開戦事由となった星界の巫女を連合一体となって守護しようとすれば、それには参加しないと言い……私は幼子を相手しているのですか?」
「貴様……いくら王女とは言え、それ以上は許容の範囲を超えるぞ」
「超えたら何だと言うのですか?魔王軍との戦争の最中、連合に加盟していながら他国と協調姿勢をとれないとは……果たして帝国は、連合に加盟している意味があるのですか?」
「っ!?それは……」
「連合に加盟している以上、この星界騎士団には何らかの形で参加していただきます。当然、星界騎士団結成の切っ掛けを作った帝国ならば、最大限の協力を得られると信じております」
(この女……間違いない。この女が、全ての元凶だ……)
ダステルは、マルテとの会話で全てを理解した。
マルテが全ての元凶であり、星界騎士団の発足者だと。
それだけではない。帝国が宣戦布告した時から、既にこの計画は始動していたに違いない。
これは、グランザールの敗北を予測していなければ有り得ない事態。
この時、ダステルは初めてマルテに恐怖した。自分よりも遥か年下の少女が、たった一人で帝国にナイフを突き付けている。
そして、そのナイフは帝国の心臓に迫っていた。
「まず初めに、星界騎士団を率いる騎士団長ですが、この座には竜人族から選出されたドラフニール殿を推薦致します」
「ありがとうございます王女殿下。我が竜人族から選出したドラフニールは、五百年前の魔王軍との戦争でも戦果を上げた英雄でございます」
「ほお……竜人のドラフニールとは、伝説に語られる魔竜殺しではありませんか。それは実に頼もしい」
「そうですね。彼ならば、星界騎士団の団長に相応しいでしょう」
「……」
各国の外交官達が、次々に賛同意見を口にした。
そこには、初めから決まっていた事を再確認する様な白々しさがあった。
半強制的に星界騎士団に参加させられたが、このまま黙っている訳にもいかない。
今はマルテに主導権を握られているが、帝国の絶対的優位は変わっていない。時間と共に再び形勢は帝国に傾く。
未来の帝国を信じて、ダステルは覚悟を決めた。
「では、星界騎士団の団長はドラフニール殿にお任せ致しましょう。反対意見はございますか?」
「異議申し立てます。騎士団長の座は、我が帝国から選出させていただきたい」
「候補がいらっしゃるのですか?」
「我が帝国が誇る皇帝騎士の一人、十三至宝魔剣ザンダリオンの所有者。ヴォルフ・ウェルナーを推薦致します」
「ああ……彼ですか」
「我が帝国軍の実力は戦場で証明されました。彼以上の適任はいなかと」
「確かに、十三至宝の所有者というのは魅力的ですが……その彼、我が王国の騎士に敗れましたよね?」
「っ!?」
「凶悪な魔王軍と戦う以上、ここは歴戦の英雄であるドラフニール殿にお任せするのが良いかと」
(皇帝騎士の敗北……こんな事態にならなければ、どうにでもできた物を……よりによって、最悪の状況で利用された)
「ヴォルフ・ウェルナー殿には、副団長をお任せしたいと思いますが……如何ですか?」
「……いいでしょう」
「では、これで騎士団長と副団長は決まりましたね。さて次は……」
協議とは名ばかりの決定事項の再確認。
既に帝国以外の各国は星界騎士団の全容を理解した上で、帝国に対して強制的に賛成を引き出す為の茶番。
ダステルは介入の余地なく、補佐として付いてきたルベルトは、事態を飲み込めずに放心状態。
完全なる外交上の敗北を受け入れるしかなかった。
「では、最後に賠償金の話を致しましょう」
「っ!?」
ここで、ダステルは失意の中から立ち上がる。
そうだ。星界騎士団を結成したからと言って、帝国が戦争に勝利した事には変わりない。
賠償金を搾り取ってグランザールの国力を低下させれば、確実に治安は乱れ革命の炎が燃え上がる。
帝国が支援している革命派閥に武器を供給して、帝国の傀儡政権を樹立させれば、形態は違うが帝国の支配と何ら変わりない。
帝国が付け入る隙があるとすれば、そこしかない。
「その件は、こちらで金額を固めております」
「ん?何か勘違いされているようですが、我が王国から賠償金を払う事はありません」
「……は?」
「帝国から我が王国に対して支払われる賠償金のお話です」
ダステルの思考は再び停止した。
マルテの言葉が何一つ理解出来なかった。
賠償金とは、基本的に戦勝国が敗戦国に課す。
何をどう解釈すれば、戦勝国が敗戦国に賠償金を支払うと言うのか?
「……お言葉が何一つ理解できません。我が帝国は戦争に勝利致しました。戦勝国が敗戦国に賠償金を支払うと?どうすれば、戦争に敗北して賠償金が支払われると言うのですか?」
「単純な話です。魔王軍との戦争の最中、我が王国軍は帝国軍によって壊滅的な損害を被りました。これに対し損害賠償を求めるのは当然の事では?」
「それは……我が帝国軍こそが、星界の巫女を守護するに相応しいと証明する為」
「それは結構ですが、今は魔王軍との戦争の最中ですよ?一方的に王国軍を蹂躙するのは構いませんが、こちらは魔王軍との戦いに備えて集めた戦力を失いました。魔王襲撃を受けた王都復興の為にも、王国軍再建の為にも、帝国軍が損害賠償を支払うのは当然かと……」
「であれば、王国軍再建まで、我が帝国軍がグランザール王国をお守り致します。これで如何でしょう」
「有難いご提案ですが、帝国軍にはもっと重要な役割がございます」
「グランザール王国を守る以上に重要な役割とは?」
「ここで協議する議題ではないかもしれませんが、魔王軍に対する連合の主戦力は、帝国軍にお任せしたいと思っております」
「っ!?」
(まさか!いや、偶然か?この女……我が帝国の野望。皇帝陛下の野望を知っての事か?有り得ない……だが、ここで王都に帝国軍を割くよりも……ここは、引くしかないか)
(この反応……恐らく当たりを引いた。本当、欲望に忠実な人ほど読みやすいわ)
「ふう……いいでしょう。しかし、賠償金という名目ではなく、あくまでも魔王襲撃を受けた王都復興の為、支援金をお支払い致します」
「名目に拘るつもりはありませんが、早急かつ意義のある金額を要求致します。魔王軍との戦争は始まっているのです。王国軍の再建こそが、現状の最優先と認識しております」
「……帰国後、直ぐに手続きを致しましょう」
「ありがとうございます。ああそれと……」
(まだ何かあるのか……)
「魔王軍との決戦に備えて、帝国軍が此度の戦争で使用した魔導砲。あれを連合各国に配備する事を要求致します」
「……は?」
この講和会議において、帝国は戦勝国であるにもかかわらず屈辱的な条約を結ばされた。
帝国の当初の目的とは程遠く、王都に駐留させるはずだった帝国軍は、マルテに仕組まれていた星界騎士団によって除外された。
その星界騎士団は、騎士団長の座を竜人族に奪われ、皇帝騎士であるヴォルフが魔族の下に付くという事態に陥る。
それに加えて、支援金という名の賠償金を支払わされ、挙句の果てには帝国の技術の結晶である魔導砲すらも、魔王軍との戦争期間中は各国へ配備させる事になってしまった。
これもすべて、対帝国包囲網が完全に組まれていたから。
軍事力を行使する帝国自身、常に包囲網を組まれる事は想定していたがタイミングと相手が悪すぎた。
グランザール、イースランド、パルトデールが包囲を組んだ所で、帝国はそれを脅威と認識しない。
グランザール、エルフ族、獣人族が包囲を組んでも、帝国の脅威ではない。
竜族が帝国に制裁を下す為、竜が群れを成して帝国へ侵攻しても、帝国はそれを耐え抜く備えがある。
だが、それら全ての国で包囲網が組まれた時、帝国の軍事力を以てしても勝つ事は困難。
帝国はこの最悪の事態を回避する為、常に周辺国の動向に目を光らせていた。
グランザールと魔族は帝国の仮想敵国。
だからこそ、中立を保っているイースランドとパルトデールだけは、確実に抑えておかなければいけなかった。
(それが、この様か……恐ろしい女だ。我々が星界の巫女を持ち出した時点で、この光景を思い描いたに違いない。たった一人で、絶体絶命の窮地を覆した。だが……この星界騎士団は、今のグランザール王国にはかなり響くはずだ。人間主義者による革命の火種は燻っている。その彼らが、この多種族で編成された星界騎士団を受け入れるかどうかはこの女次第だが……恐らく、無策ではないのだろう)
この戦争で帝国は何一つ得られなかった。
当初の目的を達成できなかったという意味では、帝国は確実な敗北を喫した。
だが、グランザール王国と比べれば損失は大きい訳ではない。
例え帝国が包囲網を組まれたとしても、魔王軍との戦争が終われば……。
(ふう……何とか上手く行ったみたいね。それにしても、お父様が倒れてくれたのは本当に助かった。もし邪魔になりそうなら、死なない程度に毒を盛って眠って貰おうとしていたけれど……手間が省けてよかったわ。だけど、これは計画の第一歩に過ぎない。燈継が魔王を倒すまでの間は、何としてもこの国を維持して見せる。そして、勇者という正義の存在が帰還した時、この国は生まれ変わる)
計画は始まった。ここまで来た以上、もう後戻りは出来ない。
どれだけ多くの血が流れようとも、この国を生まれ変わらせる。
その為に王位を捨てろと言うのなら、喜んで捨てて見せよう。
人間も魔族も、純血種も混血種も、全ての国民が平等に権利が与えられた国を作る。
それが、自らに課せられた使命なのだから……。




