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魔法の才


エルフの中にごく一部、上位種のハイエルフが存在する。

ハイエルフの特徴は通常のエルフよりも美しく、何よりの特徴は保有する膨大な魔力。他の種族と比べても、ハイエルの魔力量は群を抜いている。

当然、エルフの頂点に立つ女王はハイエルフであり、その息子は、人間との混血とは言えハイエルフの血を引いている。

エルフの血が流れている事が未だに信じられないが、母に鏡を見せられて驚愕の真実を目の当たりにした。

鏡に映っていたのは、勿論自分自身。だがその容姿は、元の世界に居た頃と少し違っていた。

まず、顔立ちが何処にでも居そうな高校生から、自分をゲームのキャラメイクで美化した様な顔立ちになっていた。

そして、目の色が母と同じく美しい青色になっていた。耳が長くなったり、髪が金色に染まったりと言う事は無かったが、これが現在の自分の容姿だった。

これは、この世界の魔力に触れた事で、この世界での本当の姿に戻った状態らしい。


「元の世界で使い道が無かった魔力も、この世界でなら、勇者様の本当の力を発揮できます」


エルフの国で目覚めて五日目。

前日まで母である女王が盛大な宴を三日三晩催し、現在はこの世界について講義を受けている。

最初の目的である星界(せいかい)の巫女は、隣国のグランザール王国の王都に居るらしい。

グランザール王国に行けば、当然ながら国王や貴族とも関わる機会があり、この世界の常識やルールを身に付けている必要がある。

初めは母直々に教えると意気込んでいたが、三日三晩お祭り状態で仕事を全て放棄していたらしく、現在は大臣達に強制連行されて、溜まった仕事の処理に追われている。

講師を務めるのは、エルフの国の学校で教師を務めるミストーリア先生。彼女も例に漏れず大変美しい。


「魔力と言われても、いまいち実感が無いというか」

「魔力のない世界から来たのなら仕方ない事です。徐々に慣れていきますよ」

「だと良いのですが」

「魔力の扱いを覚える為にも、魔法の講義を致しましょう」


エルフが存在するならば、当然魔法も存在する。

何よりもこの魔法の講義を心待ちにしていた。もし魔法を使えたらと、誰もが一度は考えた事が有るはずだ。


「魔法にはいくつか種類があります。そして、使用者の魔力の属性によって扱える魔法の適正があります」


生命が保有する魔力には属性がある。

炎、水、風、地、光、闇の六属性に加えて、極めて希少な特別な属性と、どれにも属さない無属性の場合もある。

基本的に一つの生命が保有する魔力の属性は一つ。極稀に、二つの属性を持つ者が居る。

そして、三つ以上の属性を持つ者は歴史に名を刻まれる。


「まずは勇者様の魔力属性を調べましょう。この魔生石(マジックストーン)に魔力を込めて下さい」


ミストーリアが取り出したのは、手の平サイズの丸く透明な石。それを机に置いて「どうぞ」と促されたが、燈継は困惑した表情で尋ねた。


「すみません、魔力を込めるってどうやれば」

「体から何かこう、内に秘めたる力をはぁっ!みたいな感じです」

(すげぇ、全く分からん。今までそのスタイルで授業やってたのか)


正直全く分からないが、目を閉じて集中力を高める。

頭の中で魔力の存在を意識し、血液と同様体全体を流れるイメージをする。

そして、机に置かれた魔生石(マジックストーン)に手の平を向けて、魔力送り込む。

何度かそのイメージを繰り返していると、魔生石(マジックストーン)に反応が現れる。


「これは!」


ミストーリアの驚きの声と共に目を開けると、魔生石(マジックストーン)が輝いていた。

そして、赤、青、緑、黄、白、黒と色を変えて点滅している。


「そんなっ!有り得ない!!」

「あの先生、この反応はどの属性を示してるんですか?」

「全てです!!」

「え?」

「六属性全てを示しているんです!!」


ミストーリアが驚くのも無理はない。炎、水、風、地、光、闇の六属性全ての魔力を保有する者は、歴史上存在が記されていないのだから。


「こんな事が起こるなんて信じられません……ですが」


彼女は未だ、自分がどれ程の奇跡を起こしたのか理解していない燈継を見て思考する。

普通なら到底信じられない事実。魔生石(マジックストーン)が異常だと疑うのが道理。

しかし……。


(十分に有り得る。ハイエルフの中でもクリスタル王家の血は別格!女王陛下を含めて、歴代の王は一人の例外なく凄まじい魔法の才を有していた。そこに先代勇者の血が加われば、この奇跡は起こりえる!)


「……勇者様」

「はい」

「勇者様ならば、どの様な試練でも乗り越える事が出来るでしょう」

「はぁ、ありがとうございます?」


何と返したら良いのか分からず謎の感謝をしてしまったが、この結果がどうやら凄いのは分かった。色んな魔法が使えるかもと期待が膨らむ。


「では、早速魔法の修業に取り掛かりましょう」

「お願いします!」

「勇者様なら直ぐに基礎をマスター出来るはずです」


彼女の言う通り、魔法の基礎である魔力の操作は直ぐに習得出来た。

魔力を体に巡らせ体全体を覆い、力が湧き上がる様な感覚。これが基礎の魔法<身体強化>。この<身体強化>を習得し、常時発動している状態を数時間保つ事が、魔法の修業の最初のステップ。

魔力の保有量が少なかったり魔法の才が乏しいと、この修業だけで数ヵ月掛かる事もあるという。


「流石です勇者様。疲労感などはありませんか?」

「はい。今のところは大丈夫です」


魔力を消費すれば疲労感や倦怠感といった感覚に襲われる。魔力の保有量が少ないと直ぐに疲労感に襲われ、魔法の才が乏しい者は魔力の制御が上手くいかず、魔力の消費量が多くなってしまう。

燈継は両親から受け継いだ才能、特にハイエルフの母から受け継いだ魔力と魔法の才によって、疲労感なく<身体強化>を発動し続けている。


「では次は、属性魔法を試してみましょう。室内は危険ですので外へ行きましょう」


宮廷の広い庭園にやって来た二人は、時間が惜しいとばかりに魔法の修業を開始した。


「まずは炎属性の初級魔法<火球(ファイアーボール)>からやってみましょう。まずは私が手本をお見せします」

「お願いします」


ミストーリアが空に向かって手の平を向けると、瞬く間に炎の球体が出現した。本来形の無い炎を球体に留めるのは、魔法というこの世界の奇跡だから成しえる事である。


「おお!凄い」

「これが<火球(ファイアーボール)>です。小さな炎を膨らませるイメージです」

「な、なるほど」

「そして、この炎の球体を放ちます」


ミストーリアが炎を手の平で押し出す様にすると、炎は空に打ちあがり霧散した。

それを見ていた燈継は、打ち上げ花火を見た少年の様に感嘆の声を上げていた。


(これが魔法っ!)


「では勇者様もやってみましょう」

「はい!」


深呼吸を何度か繰り返し心を落ち着かせ、右手を空にかざして頭の中で炎の球体をイメージする。


(えー、確か小さな炎を膨らませる。だったな)


頭の中でイメージするのは小さな炎の灯。それを徐々に大きくしていく。


(もっと、もっと大きく。イメージするんだ、炎の球体を)


その時、炎の球体を意識した燈継の脳裏に一つのイメージが浮かんだ。浮かんでしまった。



それは……「太陽」だった。



「勇者様!!」


ミストーリア声でイメージが途切れ現実に意識が戻される。そして、目を開けた燈継の目の前には、理解し難い光景が広がっていた。


「なんだ……これ」


右手を(かざ)した先に広がっていた青空は、赤く巨大な炎の球体によって覆われていた。

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