幕間
「魔王様!貴方の忠実なる僕、ザキエル!只今復活いたしました!」
「……」
「おや?この空気は一体……」
例によって、いつの間にか死んでいたザキエルは魔王城で復活を果たす。
しかし、意気揚々と復活を告げたザキエルとは正反対に、魔王には重い空気が流れていた。
それは、ローデリア火山から帰還した魔王に、ゼノスとエーデリオが告げた衝撃の報告によるもの。
「ザバルトが……討たれた。だと?」
「ああ。いつの間にか死んでたぜ」
「え?えええ!あのザバルトが死んだのですか!?」
魔王の問い掛けに対し、ゼノスは軽い口調で答えた。
元より仲間意識がある訳ではない。強い相手と戦う事を目的としているゼノスにとって、死んだ存在に興味は無い。
一方、ザキエルは衝撃を受ける。
ゼノスと同じく仲間意識は無かったが、魔王軍幹部がやられたという事実が、何よりも衝撃だった。
「誰にやられた?」
「アーラインだ」
「奴か……」
「おのれアーラインめ!またしても我ら魔王軍の邪魔をするか!」
「誰にやられたか?」の問いに対して、魔王がその名を聞くのは二度目となる。
一度目は契約魔将ルシエラを討たれた時。あの時も、想定外の戦力喪失となった。
ザキエルはその名が余程嫌いなのか、一人怒り狂う。
無理もないだろう。五百年前から、アーラインには一方的にやられている。
その恨みはこの場にいる誰よりも強い。
「外の惨状は、ザバルトとアーラインの戦闘によるものか?」
「いいや。都市をぶっ壊したのはそこのダークエルフと、アーラインの野郎が召喚した黒い竜……邪神竜だったか?そいつらが暴れたせいだ」
「邪神竜……あれは確か、ルシエラが保有していたはずだったが……アーラインに奪われていたのか」
邪神竜。竜王亡き後、世界に破滅をもたらさんと産声を上げた悪しき竜。
誕生したその瞬間から、世界の敵となった絶対悪。
当時の邪神竜を止められる者は少なく、破壊の限りを尽くした。
そんな邪神竜の前に立ちはだかったのは、一人の魔導師。
邪神竜の力を削ぎ落し、古代魔法へと封じ込めた。
やがてその古代魔法は、吸血鬼の真祖と呼ばれる存在の手に渡り、その真祖を裏切ったルシエラが邪神竜を手に入れた。
そして、アーラインが封印という形で邪神竜を奪い取り、その封印を解いて召喚。最後にはエーデリオスによって討たれた。
「魔王様。あのエルフを殺すなら、私にお任せください」
「エーデリオス……いや、まだいい。想定外の痛手ではあるが、アーラインを殺すのは最終決戦でも問題ない」
「承知いたしました」
(想定外だが、致命的ではない。邪神竜を倒したエーデリオスは、アーラインにも引けを取らないだろう。焦る必要は無い。ここで判断を間違えば、私の計画の調整が困難になる)
跪いて魔王に進言したエーデリオス。
魔王はそれを見て、今一度冷静になって思考した。
魔王軍幹部のエーデリオスは、魔王に忠誠を誓っている。
故に、裏切りも無ければ、ルシエラの様な独断行動も無い。
実力もラドネと並んで、最高の戦力。
全て問題ない。計画に支障はない。
(とはいえ、やはりザバルトの喪失は痛手だ。連合側の戦力も多少削るか。先代魔王との戦いを生き抜いた猛者がいいが……そう言えば、都合よく連合の精鋭が集まる場所があったな。ついでに彼女の事も……)
「ゼノス」
「何だ?」
「グランザール王国の王都へ向かえ」
「お?次の戦いか?だが、今のグランザール王国に強い奴は居ないだろう?」
「居るぞ。ドラフニールと聞けば、お前も知っているか?」
「聞いたことあるな……」
「私は知ってますよ!<魔竜殺し>などと大層な二つ名を付けられた竜人ですね!」
「ああ!あいつか!なら、多少は楽しめそうだな!」
ザキエルによって記憶が呼び起こされたゼノスは、見るからに表情が明るくなる。
強者と戦える。それが何よりも嬉しかった。
偵察部隊との戦いは、強者ではあったが力と力のぶつかり合いでは無かった。
アーラインもローズも、ゼノスと正面から戦う事はせず、それがゼノスにとっては何よりも不満だった。
その不満が解消されるなら、喜んで何処へでも向かう。
「そのついでに、殺して欲しい人間が居る」
「誰だ?」
「星界の巫女だ」
(勇者によるサリア誘拐……想定外のザバルトの喪失。何事も思い通りには行かない。だが、着実に私の計画は前に進んでいる。これでいい。最後に勝つのは……この私だ!)