表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/179

強行偵察-5


「帰るよ。二人共」


アーラインの一声で、ゼルドリオンは即座にその場を離脱。

幸いにも、エーデリオスはゼルドリオンの事を気にも留めず、アーラインの実力を推し量る様に注視していた。


「ほう……随分と長生きしているようだな」


アーラインの強さを見て、千年以上の時を生きて来たという確信を得たエーデリオス。

経験は強さとなる。アーラインの戦いを直接見ていなくとも、ザバルトをこの短時間で撃破した事実がそれを証明した。

一方、ゼノスと対峙するローズも同じく、その場を離脱。

全ての攻撃を容易くいなしていたローズにとって、ゼノスを振り払うのは容易い事だった。


「じゃあね。次に会うまでに、誰かに殺されている事を願っているわ」

「ちっ!待ちやがれ!」


周囲一帯に斬撃を飛ばし、全力で刀を振るうゼノス。

その刃はローズ本体に届く事なく、全ての斬撃が水飛沫と共に弾け飛んだ。

水面鏡(アクアスクリーン)>と<水の虚像(アクアフェイク)>の併用によって、最後まで本体を捉えさせなかったローズ。

ゼノスも全力を出していないとはいえ、相性の悪さから全力を出す事が難しい。

そして、ゼルドリオンに続いてローズもアーラインのもとへ集結した。


「まさか、本当にあの悪魔を……」

「……」

「ん?どうしたの二人共?」

「あんた……その左腕は……」


ローズとゼルドリオンの視線の先は、アーラインの左腕。

そこには、本来あるはずの左腕が無い。

正確には、肘から指先までが綺麗に切断されているようだった。

出血はない。だが、二人が驚くのは当然。


「ああ、気にしないで。どうにでもなるから」


その言葉の直後、アーラインの消失した左腕の断面から、無数の細い木の根が生えだした。

木の根同士が複雑に絡み合い、重なり合い、次第に失われた左腕を形成していく。

そして、完全に再現された木製の左腕。アーラインの意志を受けて、その左腕は拳を握っては開いてを繰り返す。


「まあ、こんなもんかな」

「成程ね。一分の種が分かったわ」

「流石。じゃあ、やる事もやったし帰ろうか」

「あの化物が、そう簡単に我らを帰すと思うか?」


ゼルドリオンの視線に合わせて、二人もエーデリオスを見つめた。

距離はあるが、その距離はエーデリオスの間合い。

その気になれば、即座に戦闘は始まる。

エーデリオスと実際に戦ったゼルドリオンは、より脅威を感じていた。

だが、それでもアーラインの余裕の笑みは崩れない。


「大丈夫。置き土産していくから」

「何?」

「置き土産?」

「異界接続<封印解除・夢世界>」

「「っ!?」」


二人の疑問に答えるよりも早く、アーラインは動いた。

空を覆う虹色の空間。歪みと共に虹色がより不気味な色へと変色していく。

そして、虹の渦が出来上がり、その中心から這い出るそれは……。


「おいおい。何だあれは?随分と面白そうじゃねえか」

「ほう……随分と懐かしいな。まさか、エルフに封じられているとはな」

「知っているのか?」

「ああ。あれは、<邪神竜>だ」


ゼノスと違い、エーデリオスは知っていた。

それはつまり、邪神竜がその時代の存在だということ。

虹を黒く染め上げるその竜は、遂にその全貌を明らかにした。


「グォオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


破滅の咆哮。

その産声で、周囲全てを闇の魔力で吹き飛ばす。

敵味方の区別は無く、存在そのものが破滅の象徴。

この地で暴れる存在としては、これ以上最適な存在は居ない。


「あんなのを飼いならしてるなんて……今日一番驚いたわ」

「全くだ。あれは、我らが祖先の中でも、取り分け異端として扱われる存在だ。無論、悪い意味でだ」

「まあ、封印を解除しただけだよ」

「そもそも、あれを封印してる事が有り得ないのよ」


邪神竜の封印を解除した時点で、三人は即座にその場を離脱。

既にアトラシアが遠く見える程まで、距離を取っていた。

今から追撃が来るとは考えにくい。

つまり、この偵察任務は成功した。


「一先ず、皆無事に帰れそうで何よりだね」

「私達はそうだけど、あんたの左腕は大丈夫なの?」

「さっきも言ったけど、大丈夫だよ。精霊魔法の扱いとしては、むしろ正しい」

「成程、精霊魔法……いや、正しくは精霊契約によるものか」

「ご名答」


精霊契約。

それは、精霊と契約を結ぶことで、詠唱を破棄して精霊魔法を行使できる唯一の手段。

では、そもそも精霊との契約とは何か。

簡単に言うのならば、等価交換。自身から精霊に対価となる物を差し出す事で、精霊が直接精霊魔法を行使する。

故に、使用者は詠唱を破棄出来る。


そして、契約を結んだ精霊は、契約者の命令に忠実に従う。

それにより、詠唱を破棄する以外の使い道も生まれる。

今回アーラインが行ったのは<精霊昇華>。

精霊昇華とは、契約した精霊の命と引き換えに、その精霊が持つ力以上の精霊魔法を発現させる行い。


アーラインは<炎霊(イフリート)>との契約の対価に、自身の左腕を差し出していた。

そして、<炎霊(イフリート)>の命と引き換えに精霊昇華を行い、ザバルトを一撃で焼き尽くす炎を生み出した。

精霊昇華を行なえば、対価として差し出した物は消滅する。

それは、神聖魔法であっても決して治癒できない代償。

だから、アーラインは木の根によって編み出した左腕を代用している。

当然その左腕も……。


「じゃあ、今あんたの左腕になってるそれも?」

「うん。これも精霊魔法によるものだよ」

「何体の精霊と契約してるの?」

「さあ?忘れちゃったよ」


そんなはずはない。

全て記憶している。何体の精霊と契約して、何を差し出したか。

忘れる事は無い。絶対に。

数多の精霊契約の行きつく先。アーラインはそれを知っていた。

自分にだけ聞こえる忌々しい女の声が、それを物語っている。


(この声も、最近更にうるさくなった。僕もそろそろかな)


誰にも語られる事のない胸中。

語らず、決して悟らせない。

だから、この世界でアーラインの行く末を知る者は居ないだろう。

たった一人、エリオ・リンドハルムを除いて。


「僕はこの情報を女王陛下に伝えて、連合各国へ通達させる。二人は自国に対して報告してくれればいい」

「分かった。はあ、あの若造と話すのは気乗りしないわね」

「……」

「随分と元気がないね、ゼルドリオン。あのダークエルフの事なら、別に気にしなくてもいいよ」

「あのダークエルフに勝てない事は気にしておらん。恐らく、お主かレイラが片を付けるはずだからな」

「うん。任せてくれていいよ」

「我が気にしているのは、故郷だ。燈継やリネットが居るとはいえ、魔王軍を撃退出来たのか。今はそれが気掛かりだ」

「そうだね。じゃあ、帰りも……」


エリオがそう言いかけた瞬間、遠く離れたアトラシアで起きる爆発的な魔力の波動。

体に伝わる震動で、三人はアトラシアを振り返った。

何が起きたかは分からない。ただ、確実なのは……。


「嘘でしょ……こんなに早く……」

「つくづく、化物だな。あのダークエルフは」

「そうだね……」


邪神竜が敗れた。

その三人の確信は、事実として起きていた。

エーデリオスの足元には、塵となって消えて行く邪神竜の残骸がある。

巨大な建造物が立ち並んでいたアトラシアは、その殆どが見るも無残な更地となっていた。

激闘。凄まじい力と力のぶつかり合い。当然、それに耐えられる建造物は無いだろう。


「おいおい。そんなに簡単に終わらせたら、つまらないだろう」

「ゼノス。貴様では時間がかかり過ぎる」

「楽しんでこそだろ。戦いは」

「一緒にするな。私にとって戦いは復讐だ」

「あっそ。まあ、その復讐とやらが終わったら、俺が相手だ」

「好きにしろ」


ゼノスは刀を鞘に納め、無傷で残された巨人族の王城へ向かう。

エーデリオスは、邪神竜との戦いで巨人族の王城だけは破壊させない立ち回りをしていた。

その理由は、ただ純粋に自身の寝床があったから。

それ以外に理由はない。魔王軍の幹部なれど、他の者など知った事ではない。

復讐の前では、全てが無意味なのだから。


「エルフの女王……必ずこの手で……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ