集いし精鋭
「こ、これは……」
「私は……勝利の報告を……しようと……それが、どうして……」
その事実に気が付いたのは、魔王軍が撤退してから約二十分が過ぎた頃だった。
既に一緒に居たローシェと燈継のもとへ、ラーベとアテラが合流。
そこで、燈継が魔王軍から連れ出したサリアと出会う。
実情は話した。しかし、納得はしていない様子だった。特にラーベは、サリアを強く危険視している。
それでも、その場は一度引き下がり、竜族と合流した。
リネット、ヴォルドルフ、モーゼは、傷だらけにながらも、勝利の余韻を燈継と分かち合った。
その後だ。魔王軍との戦いの裏で起きていた、衝撃の事実に気が付いたのは。
魔王軍との戦いにおいても、ただ一人聖域に残り続け、十三至宝<竜王の種>を守り続けていた大白竜キルトルシア。
そのキルトルシアが、何者かによって殺されていた。
「何が起きたんだ……」
「もし仮に……大白竜様を倒す様な魔王軍が居たとして、戦いの形跡も無く敗北するとは思えません!たとえ魔王軍との戦いの最中だとしても、大白竜様が戦闘していれば気が付くはず!それなのに!」
「気付けなかった」
(間違いない!これは魔王の仕業だ!だが、リネットさんの言う通り、戦闘が起きていれば必ず気付いた!離れていても、魔力は感じる事が出来た!そのはずが……)
気が付かなかった。
一切の魔力を感じず、気配も感じる事が出来なかった。
魔王軍には、それを可能にする者が居る。
しかし、今それ以上に危惧すべきなのは……。
「<竜王の種>が……奪われた……」
キルトルシアが敗れたという事は、彼が守護していた<竜王の種>が奪われたという事。
魔王に十三至宝が奪われた。
それも、現在所在が判明している十三至宝の中で、最強と言われている<竜王の種>を。
(まさか……魔王の狙いは竜族の殲滅ではなく……初めから!)
一方、目的を果たした魔王も衝撃の事実を知る。
「な、何!?サリアが連れ去られた!?」
「は、はい。勇者の狙いは不明ですが……サリアを一目見た瞬間、勇者の雰囲気が突然変わり……サリアを……」
「……」
ラドネから聞かされた、サリア誘拐の事実。
あまりに想定外の報告に、魔王は頭に手を当てて思考を巡らせた。
(勇者の狙いは何だ?サリアを奪った所で、一体何の意味が……くそっ!サリアは保険だった。それを奪われるとは……どうする?奪い返すべきか?いや、焦る必要は無い。彼女と結んだ契約により、サリアは私に敵対行為は取れない。離れていても命令は出来る。いざとなれば、自力で勇者のもとを離れさせれば……)
魔王がサリアと結んだ契約は、いわば奴隷契約に近い。
いざとなれば、サリアの意志を無視して魔王の命令は実行される。
サリアは抗う事など無意味と知っている。抵抗する意志は無いはずだ。
その確信を持つ魔王が、唯一不可解なのは燈継の狙い。
一体何を狙って、サリアを誘拐したのか。
「まあいい。私の目的は果たした」
「それが<竜王の種>ですね」
「ああ。勇者の強さは脅威だ。だが、これを手にした以上、私も戦えるが……」
魔王の手にあるのは、白き輝きを放つ光の種子。
それこそ、十三至宝<竜王の種>。
竜王の力が眠るとされる光の種子は、資格無き者が手にしても、竜王の力は手に入らずその身が朽ち果てるのみ。
しかし、大魔導竜ゼルドリオンは言った。
その力に耐えられるのは、世界最強の魔導師エリオ・リンドハルムぐらいであろうと。
ゼルドリオン自身も耐えられないという程の力。
それを、魔王が扱えるのか。
「これを使うのは、まだ先の事だ。今はまだその時ではない」
「承知いたしました」
「ルクスとヴァリアは?」
「先にレフィリアの大地へ帰還しています」
「よし。我々も帰還するぞ」
「はっ!」
「さて……連合の偵察部隊はどうなったかな?」
ローデリア火山で激戦が行われる前日。
通達された集合地点に、エルフの女王レイラによって選出された精鋭達が集った。
「やあ。二人共久しぶりだね」
クリスタル王国より、守護者の称号を持つアーライン・ステイル。
五百年前の魔王軍との戦いでも、幹部を討ち取った実力者。
かつてはエリオ・リンドハルムより直々に精霊魔法を習い、そして燈継に戦いを教えた男。
「全くだ。また顔を合わせる事になるとはな……アーライン」
「嫌なのかい?」
「今回ばかりは、そうでもない。燈継との出会いに免じてな」
「へぇ燈継と会ったんだね」
「ああ。伝言も預かっているぞ」
「燈継はなんて?」
「『武運を祈る』とな」
「ふふっ。嬉しい限りだね」
竜族より、大魔導竜ゼルドリオン。
アーラインと同じく、五百年の魔王軍との戦いで、先代勇者と共に戦った竜。
最強の種族と謳われる竜でありならが、彼は他種族より魔法を学んだ。
その過程で、レイラに頭が上がらなくなったのだが……。
それでも、彼女がゼルドリオンの実力を認めているのは変わらない。
だから、選ばれた。
「アーライン。まずあんたは、一番最後に来た事を、私に詫びるべきね」
「遅刻はしてないよ」
「それでも、私は一時間待った。あんたとこの女王が、うちの王様に何を言ったかは知らないけど……あの若造!レイラの名を出して脅して来たぞ!」
「成程、それで早く来ちゃった訳だね」
美しくなびく金髪。
紅い瞳の右眼と、蒼い瞳の左眼。
美の女神と言われても、何も知らない者はそれを信じるだろう。
イースランド王国最強の魔導師と言われる存在。
ロンディウスの魔女。その名をローズ・マリー・エリザス。
「ロンディウスの魔女か。こうして会うのは始めてたが……レイラに抱くその怒り、仲良く出来そうだ」
「あら?大魔導竜様もあの女王にお怒りですか?」
「ああ。恩はある。だが、それを振りかざしてくるところが気に喰わん」
「激しく同意します」
「仲良くなれそうで良かったよ」
連合より選出された三名の精鋭。
これより、連合の命運を懸けた強行偵察が行われる。