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ローデリア火山攻防戦-1


「その程度か。(ドラゴン)の一撃とは」

「舐めるなよ……小童が!」

「それはこちらの台詞だ。魔王軍幹部<凶星>のラドネ。この私が居る限り、貴様如きでは魔王様に傷一つ付けられない」

「幹部だと?そうか。ようやく幹部共が出て来たのか……」


(今の魔力……これは、十王会議を攻撃した奴か……)


ヴォルドルフの一撃を防いだ魔王軍幹部ラドネ。その者に対して、燈継は即座に思い当たった。

十王会議で上空より放たれた一撃。勇者の聖剣の<絶対不可侵聖域>で防いだが、燈継はその一撃がどれ程の威力を秘めていたか理解していた。

紛うことなき強敵。少なくとも、ヴォルドルフが勝てる相手ではなかった。

ここでヴォルドルフを倒される訳にはいかない。そう考えた燈継の行動は早かった。


「大炎竜様。奴は私にお任せください」

「分かった。頼んだぞ勇者よ」

「はっ!お任せを!」

「っ!」


ヴォルドルフの背より一直線に突撃した燈継に対し、驚いた様子でラドネはそれを受け止めた。

燈継の勢いに圧されたラドネは、意図的に魔王から距離を取らされている事に気が付く。

何とか押し返そうとするも、燈継の勢いが止まることは無い。

魔王から側近達を分断する。それこそが燈継の狙いであった。

しかし、燈継のこの行動は、魔王にはいささか理解出来なかった。

勇者が戦場から離れるという事は、魔王にとってはむしろ願っても無い好都合。


(それを理解していないとでも?いや、それは有り得ない。あの勇者が意味も無く戦場から離れる事は考えられない。つまり、何か策があるという事か)


「今だ!皆の者!奴らに我ら(ドラゴン)族の力を思い知らせる時だ!」

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」


魔王が思考を巡らせる中、ヴォルドルフは他の(ドラゴン)達を率いて攻撃を開始した。

他の側近も魔王軍幹部なら、その実力は相当なものだろう。

しかし、数では(ドラゴン)族が勝る。数的有利を生かさない手は無い。


「などと考えているのだろうが、数でも我々が勝る」

「っ!?」

「「「グギャアアアアアアアアア!!!」」」


魔王の背後に展開された巨大な魔法陣。

それは、魔王が今日という日に向けて温存していた手札の一つ。

魔法陣から這い出て来るのは、黒鱗の(ドラゴン)

赤く光る眼光、鋭い牙を剥き出しにした咆哮。

彼らに知能は無く、あるのは唯ひたすらの凶暴性。

五百年前の魔王軍との戦いでも脅威だった存在。魔竜である。


「魔竜か!だが!」

「グギャアアアアアアアアア!!!」


最初に魔法陣から出て来た魔竜とヴォルドルフが、勢いそのままに激突。

背後からは次々と魔竜が這い出て来る中、ヴォルドルフは早々に目の前の魔竜を葬るつもりだった。

しかし、魔竜の力は想像以上であり、ヴォルドルフと互角の力を見せる。


(これは……出し惜しみ出来る相手ではないか)


魔王軍幹部との戦いを見越して魔力を温存するつもりだったヴォルドルフだが、魔竜の力を見るなり即座に魔力を惜しまず巨大な火球を放つ。

至近距離で火球の爆発を受けた魔竜は、咆哮を上げながら肉体を燃やされた。

完全に肉体を焼かれた魔竜は、大地に倒れ動く気配はない。


(我の力を以てして、魔竜一体にこれ程力を使わされるか。ならば、他の者達は……)


周囲を見渡せば、魔竜と戦う(ドラゴン)達は苦戦していた。

三竜将のヴォルドルフですら手加減出来ない魔竜に対し、他の(ドラゴン)達が苦戦するのは必然。

燈継と共に真っ先に打って出たヴォルドルフだが、冷静な判断も持ち合わせていた。

今いる場所は、ローゼリア火山からは少し離れた上空。

つまりは、ここに来ているのが全戦力ではない。

燈継が離れた今、分が悪いと判断したヴォルドルフの行動は早かった。


「下がるぞお前達!目の前の魔竜を引き離し、後退せよ!」

(何?(ドラゴン)族が下がるのか……)


魔王はヴォルドルフの号令を疑ったが、魔竜と交戦中の(ドラゴン)達はその号令に従い即座に後退して行く。

自分達の力に絶対的な自信を持ち合わせている(ドラゴン)族なら、後退するという判断はしないと考えていた魔王は、その行動に警戒した。


(勇者の入れ知恵か?伏兵でも居るのか?どちらにせよ、勇者が孤立しているのは我々にとっては好都合。なら、いっそのこと孤立している勇者を叩くか?……いや、そんな()()は受けていない。私は私の役目を果たすだけだ)


「ザキエル。(ドラゴン)族というのは、後退するのか?」

「い、いえ!五百年前の戦場では、血塗れになりながらも猛進してきた奴らです!その奴らが後退するなど……一体何が……」

「そうか。もしかしたら、(ドラゴン)族の力も弱体化しているのかも知れないな」

「何と!その様な事が!?」

「しかし、油断は出来ん。何らかの策があるのかも知れない」

(ドラゴン)族が策を用いるというのも信じられませんが」

「策を用いなければならない程、(ドラゴン)族は弱体化している。そう考えれば合点は行く」

「流石は魔王様!素晴らしいご慧眼です!」


今だ召喚され続ける魔竜を引き連れて、ローゼリア火山を目指す魔王軍。

伏兵を警戒して地上に注意を払いながら進軍する魔王は、魔竜達を先行させていた。

何らかの策があると警戒している魔王。突如として全方位から感じた魔力に気付いた瞬間、自らの推測が正しかったと理解した。

たが、この程度で狼狽える魔王ではない。


「ヴァリア!」

「はっ!」


全方位から迫り来る攻撃は、(ドラゴン)による魔力を込めた強力な一撃と、竜人による魔法攻撃。

どれか一つでも強力な攻撃に対し、それを一人で任された魔王の側近ヴァリア。

ヴァリアがその力を発揮した瞬間、魔王達に迫り来る攻撃は全てが有らぬ方向へと進路を変えて飛んでいく。

彼方でそれらの攻撃が着弾して、大地を揺らし衝撃が伝わる。

狙い定めた一撃は、何らかの魔法により進路が変わった。

そんな芸当が出来る以上、相当な実力者である事は間違いない。

だからこそ、魔王からは引き離す必要がある。


「<絶空>」

「っ!?」


空を絶つ斬撃。

ヴァリアは自分の肉体が両断される寸前、その斬撃の軌道を逸らしつつ自身も回避する事で事なきを得た。

その際、回避に伴い激しい動作をした事で黒いフードも外れた。

明かされた素顔は人間にも思える。色が抜けた白髪。赤い瞳。

どこか旧魔王軍幹部ゼノスと同じ雰囲気を漂わせる彼もまた、魔王軍幹部の一人である。


「強い。相当な実力者だ」

「はい。魔王から引き離すには、少し厄介な魔法を使う様ですね」

「仕方ない。リネット殿にご助力願うとしよう」


地上からヴァリアを狙ったラーベだが、惜しくも斬撃は届かなった。

燈継の立てた作戦で魔王に対しアテラをぶつける為にも、魔王の周囲に侍る側近達は引き離したいラーベとローシェ。

正面から側近達にぶつかるのも手の一つではあるが、魔王の側近を相手に無策で挑むのは危険。

側近達の隙を突く為の策として、魔王軍を包囲した。

それに対し、魔王は自分達が包囲されている現状に対し思考を巡らせていた。


(どういう事だ。何故こうも容易く包囲されている。仮に我々の襲撃タイミングを予測していたとして、身を潜める(ドラゴン)達に、我らが一切気が付かなかったというのか?どうもおかしい。完全に策に嵌められている。まさか、()()()が読み違えたのか?)


側近達を引き連れた時から、この魔王は魔王軍幹部<双面>ルクスが演じていた。

この事実は、限られた者しか知らない。

本物の魔王から伝えられた通りに行動しているルクスは、魔王が(ドラゴン)族の策を読み違えたと考えた。

そんな魔王演じるルクスの前に、青い閃光が輝く。

それと同時、先行していた魔竜達が複数体消滅した。


「あれが……竜人の力か」


人の身に宿る(ドラゴン)の力。

(ドラゴン)の力を解放する事で、体を(ドラゴン)に変化させる事が出来る。

それが竜人。

美しき青き鱗を纏い、リネットは魔王軍の前に立ちはだかる。

大きさは人間の体を保ちながら、(ドラゴン)の翼を広げ、(ドラゴン)の鱗という鎧を纏う。

頭部に生えた二本の鋭い角が少し伸びている。


しかし、それでも人としての美しさは一切失われていない。

いや、むしろ美しさは増している。

宝石の様に輝き美しい青い髪、青い瞳。

頬に青い鱗はあれど、その鱗すれも美しいと感じられるだろう。


「我ら(ドラゴン)族の誇りに懸けて。ここで魔王を討ち、戦いを終わらせます」

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