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竜の一撃


「良く聞け若造共!魔王軍は逃げ回るだけの獲物ではない。愚かにも我らを狩りに来る。そんな中、戦いを知らないお前達は魔王軍の格好の獲物だ。よって、我ら(ドラゴン)の戦い方を教えてやろう」


三竜将の一人である、大炎竜ヴォルドルフによって集められた純血種の若い(ドラゴン)達。

時間は無いが、生まれ持つ(ドラゴン)としてのポテンシャルを発揮できれば、それだけで十分な戦力となる。

檄を飛ばされた若い(ドラゴン)達は、これまでにない雰囲気を持つヴォルドルフに恐怖していた。

こんなにも真剣なヴォルドルフを初めて見た若い(ドラゴン)達は、次第にヴォルドルフの言葉に従い戦う術を身に付けてい行く。

その様子を見ていた燈継は、想定以上に順調な様子に安堵していた。


「燈継。順調の様だな」

「大魔導竜様……」


そんな燈継のもとへ舞い降りたのは、大魔導竜ゼルドリオン。

先代勇者である父の盟友にして、世界屈指の魔導師。

ゼルドリオンは威厳ある(ドラゴン)であるが、燈継へ語り掛ける声色は非常に優しい。

実際、燈継という名前で呼んでいる。

それ程にゼルドリオンは歓迎していた。盟友である蒼義の息子を。


「ゼルドリオンで良い。盟友の子なら尚更な」

「ですが……」

「我が良いと言えば良い。全く、そういう所も蒼義とよく似ているな」

「父さんとですか?」

「ああ。我に敬意を払うその姿勢はよく似ている。だがな燈継、女の趣味は見習うべきではない。魔神の様な女を見初めるなよ」

「はあ……」


母との間に何があったのか。

ゼルドリオンとレイラの遠慮のない物言いは、ある意味信頼しているからこそだろう。

レイラはゼルドリオンを信頼しているからこそ、偵察部隊を任せた。

ゼルドリオンはレイラを信頼しているからこそ、偵察部隊を引き受けた。

それに加え、燈継の存在が大きい。

盟友の子である燈継が(ドラゴン)族と共に戦うからこそ、安心してレフィリアの大地へ向かう事が出来る。


「燈継、勝算はあるのか?」

「はい。ここで魔王を討つつもりです」

「そう簡単に魔王は討てないと思うがな」

「……簡単ではないのは分かっています。ですが、それでもやらなければなりません。それが、勇者としての私の使命です」

「そうか。なら、我も自らの使命を果たさねばな。必ずや魔王の拠点を暴いて見せよう。もし燈継が魔王を討てば、後は拠点に攻め入り残党共を掃討して終わりにする」

「お任せください。そして、どうかご武運を。ゼルドリオン」

「ああ。互いの武運を祈るとしよう」


勇者一行がローデリア火山に来て、早くも一週間が過ぎていた。

魔王軍の襲撃に備え、準備は万全へと至る。

戦いを知らない若き(ドラゴン)達も、体と心の準備が完了していた。

連合最強の種族である以上、一度その気になれば成長は早い。

リネット率いる竜人達も準備は万端。後は迎え撃つだけである。

そして、それは同時にゼルドリオンの旅立ちの時を迎えた。


「では、行って来る。リネット、後は頼んだぞ。頭の固い三竜将では心配だからな。お前と燈継に任せる」

「はい。大魔導竜様も、どうかご武運を」

「ゼルドリオン。どうかアーラインにもお伝えください。武運を祈ると」

「ああ。しかと伝えておこう。あやつも喜ぶだろうな」


ゼルドリオンを見送り、いよいよローデリア火山の緊張感は頂点に達していた。

いつ魔王軍が攻めてきてもおかしくない状況で、緊張するなという方が難しい。

これまでの奇襲と違い、来ると分かっているからこその緊張感。魔王はそれを利用していた。


「緊張の糸はそう長くは続かない。どこかで必ずその糸が切れる」

「流石は魔王様!その瞬間を襲うという訳ですね」

「ああ。それに加えて、(ドラゴン)族に更なる衝撃を与える。そうすれば、早々に戦場は我ら魔王軍に蹂躙されるだろう」

「その為に奴と契約したのですね」

「そうだ。忘れられた存在。だからこそ、(ドラゴン)族には思い出させてやろう」


ゼルドリオンの旅立ちから三日目の夜、魔王はローデリア火山近くの森の中で待機していた。

そして、魔王の側には魔王によって選ばれた者達が控えている。

この(ドラゴン)族に対する襲撃において、確実に(ドラゴン)達を殺せる力を持つ者達。

勝算は十分。後は攻め入るだけだ。


「よし。行くぞ」

「ええ!奴ら(ドラゴン)族に目にもの見せてやりましょう!」


魔王が合図をすると同時に、魔王軍は一斉に上空へ飛び出した。

直前まで最小限に気配を抑えていた彼らに対し、(ドラゴン)族は突如として近くから現れた魔王軍に混乱するだろう。

そう考えていた魔王は、自分の計算が間違っていた事を思い知らされる。


「な、これはどういう!?まさか、我らの動きが……」

「ふん。読まれていたか……」

「まあ、今夜あたり来ると思っていたが……本当に来てくれるとはな」


ローデリア火山上空には、既に(ドラゴン)族達が待ち構えていた。

燈継が先頭のヴォルドルフの上に立ち、聖剣を魔王に向けている。

魔王達が気配を隠す事を辞めた瞬間から、勇者一行と(ドラゴン)族はその気配を察知して戦闘態勢に入っていた。

ここ数日は交代制で見張りをしていた。

それでも、魔王軍が動いていてから統率を取って迎撃するには、それなりの時間を要すると推測していた魔王だが、(ドラゴン)族は万全の準備の準備が出来ている。


これには、燈継の予測が的中した事が大きい。

三日目の夜。これは、魔王とのこれまでの戦いで燈継が予測した襲撃タイミング。

ゼルドリオンの旅立ちから即座に襲撃すると、最大限に警戒している(ドラゴン)族を相手にする事になる。

しかし、あまりにも襲撃が遅くなると、ゼルドリオンが偵察部隊から帰還する可能性がある。

それらを考慮して燈継が割り出した三日目の夜という予測が、見事的中した。

この日はいつもより見張りの人数を多くしていた(ドラゴン)族は、燈継に率いられ上空で魔王軍と対峙していた。


「見事だ勇者よ!先手は我らが取った。このまま突撃するぞ!」

「お気を付けてください大炎竜様。向こうの戦力がまだ読めません」


ザキエルの他、魔王の側に控えるのは黒いフードを深く被った3人。

それを見た燈継は魔王軍の戦力を読む。

黒いフードを被った3人が果たして魔王軍の幹部か、それとも契約魔将か。

どちらにせよ、どれ程の実力があるのかが問題だ。

それを計る為にも、燈継が先手を打とうとしたその時、先に大炎竜ヴォルドルフが動いた。


「灰と化せ。邪悪なる者共よ!」


ヴォルドルフの大きく開けた口から放たれたのは、超巨大な火球。

視界を覆い尽くす程の火球は、一直線に魔王達に向かっていく。

そして、着弾と同時に周囲一帯の木々が木端微塵になる程の衝撃が響く。

凄まじい一撃。しかし、それで仕留めたとは思えない。

空を覆う黒煙が晴れた時、片手を突き出し魔王の前に立ちはだかる一人の側近によって、防がれた事を理解した。

衝撃波によって外れた黒いフードの中から、その者の顔が明らかとなる。

美しかった。だが、その美しさが不気味に変わる程、感情のない冷たい表情。

その瞳に映るのは、ひたすらに終わらない闇そのもの。


「その程度か。(ドラゴン)の一撃とは」

「舐めるなよ……小童が!」

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