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竜の故郷-3


竜王死後、(ドラゴン)族に絶対的な強さを持つ(ドラゴン)は生まれなかった。

今より千年前、一体の純血種の(ドラゴン)が生まれた。

その(ドラゴン)は、何よりも魔法の知識を求めた。

誇り高き(ドラゴン)族に生まれながら、エルフや人間種に魔法を学んだ。

やがて、世界でも指折りの魔導師となったその(ドラゴン)は、大魔導竜と呼ばれた。

その名はゼルドリオン。竜王死後、最強の(ドラゴン)である。


「しかし、まさか蒼義の息子が勇者として召喚されるとはな。レイラはさぞ喜んでいただろう」

「父とは仲が良かったんですか?」

「ああ。我は蒼義の世界について知りたくてな。日が暮れるまで話した事もある」

「そ、そうですか……」

「それで?勇者が何故ここに来た?」

「それは……」

「それについては、今から三竜将の皆様にご説明いたします。どうか、大魔導竜様もご同席ください」

「ほう。良いだろう」


ゼルドリオンを加えてローデリア火山の頂上を目指す一行は、頂上付近にある大きな洞窟までやって来た。

その洞窟は、三竜将が守る聖域。

三竜将は常にその洞窟に身を置き、決して聖域が犯されない様に守り続けている。

長い洞窟を僅かな灯りで進む道中、燈継がリネットに尋ねる。


「三竜将の皆様は、何を守っているんですか?」

「十三至宝の一つ<竜王の種ロード・オブ・ドラゴン・シード>です」

「「っ!?」」

「じゅ、十三至宝!?(ドラゴン)族が十三至宝を持っているなんて、聞いたことないわよ!」

「はい!私もその様な話は聞いた事がありません」


燈継とラーベの驚きは、その存在を知っていた上での驚き。

アテラとローシェは、そもそもその存在を知らなかったからこその驚き。

知らなかった二人が驚くのは当然だろう。

(ドラゴン)族は<竜王の種ロード・オブ・ドラゴン・シード>の存在を隠している訳でも、公にしている訳でもない。

しかし、(ドラゴン)族が他種族と交流を持つ機会が少ない為、その存在が広く知れ渡る事はない。

それ故に、所在が判明していると言っても、人間種の中で知っている者は多くないだろう。

実際、アテラとローシェは噂すら聞いた事が無かった。


長い時を生きる長命種だからこそ、その存在を耳にする機会がある。

燈継とローシェに関しては、アーラインから聞かされていた。

では、何故知っていた二人も驚いたのか。

それは、所在が判明している十三至宝の中で、<竜王の種ロード・オブ・ドラゴン・シード>が最強の十三至宝と謳われているから。

話に聞く最強の十三至宝の実物が見れるかもしれないという、期待を込めた驚きだった。


「相変わらず老人共は、意味も無くあれを守っているのか」

「大魔導竜様。竜王様を軽んじる様な発言はおやめください」

「阿呆が。逆だ。あれを扱える存在など、精々エリオ・リンドハルムぐらいだろう。もっとも、エリオには必要ないが」

「あの……<竜王の種ロード・オブ・ドラゴン・シード>は、一体どの様な十三至宝なのですか?」


所在を知っていても、<竜王の種ロード・オブ・ドラゴン・シード>の力を目の当たりした者は少ないだろう。

それが一体どんな十三至宝なのか、何故十三至宝最強と言われるのか。


「<竜王の種ロード・オブ・ドラゴン・シード>は竜王様の死後、竜王様の体が小さな光へと変化したものです」

「つまり……武具ではないと?」

「はい。竜王様の力が宿る小さな光。その光を身に宿した者は、竜王様の力を得ると言われています」

「だが、そもそも竜王の力を扱える存在など、さっき言った通りエリオぐらいだろう。それ以外の者が身に宿せば、竜王の力に耐え切れずに内側から破壊される」

「それは、大魔導竜様もですか?」

「ああ。我でも耐えきれないだろう」

「……」


大魔導竜ゼルドリオンですら、耐えられない程の力。

それは確かに、十三至宝最強に相応しいと謳われるのも納得できる。

しかし、これ程までに扱えない力は、果たして十三至宝として相応しいのだろうか。

そんな疑問を心の中に留め、燈継は洞窟の中に出来た広い空間にやって来た。

その広い空間に居座るのは、三体の(ドラゴン)

白き鱗の(ドラゴン)、青い鱗の(ドラゴン)、赤い鱗の(ドラゴン)

一体だけでも威圧感を感じる中、三体の(ドラゴン)の視線が一斉に燈継に集まった。


「三竜将の皆様。不肖リネット、只今戻りました」

「ご苦労リネット。しかし、客人を連れての帰還とはな」

「はい。大白竜様。こちらは、勇者一行の皆様でございます」

「ほう……やはりそうか。五百年ぶりで見間違えたと思ったが、勇者の聖剣の気配を感じた」


白き(ドラゴン)から視線を向けられた燈継は、怯む事なく一歩前へ進み出た。


「お初にお目にかかります。聖剣に選ばれし勇者、熾綜 燈継(しそう ひつぎ)と申します」

「よくぞ来た勇者よ。我は大白竜キルトルシアだ」

「我は大炎竜ヴォルドルフ」

「私は大海竜モーゼです。勇者よ、貴方の来訪を我ら一同心より歓迎します」

「ありがとうございます」


白き(ドラゴン)から始まり、赤き(ドラゴン)、青き(ドラゴン)が続いて名を名乗る。

長き時間を生きた、威厳ある声を響かせるキルトルシア。

最強の種族に相応しい力強い声を発するヴォルドルフ。

そして、大海竜モーゼは唯一女性と思しき慈悲を感じられる声だった。


「それで?勇者は我らに一体何用かな?」

「此度は、(ドラゴン)族の皆様のお力添え頂きたく参りました」

「何?我らの力を?」

「成程。ゼルドリオン……貴様が起きた事も関係していそうだな」

「さあな。勇者が何をしに来たかは我も知らない」

「それについては、私から説明いたします」


リネットは、十王会議での出来事を説明した。

エルフの女王レイラによる偵察部隊の編制と、偵察部隊にゼルドリオンが指名されたこと。

連合軍最高司令官として帝国の将軍が選ばれ、連合の中心戦力に帝国軍が選ばれたこと。

そして、(ドラゴン)族へ攻撃を行うという魔王の宣言。

それら全ての説明を聞いた三竜将は、怒ったり慌てる様子を見せず、淡々と事態を把握していた。


「そうか……次の標的は我ら(ドラゴン)族か」

「大白竜様。今こそ、我ら(ドラゴン)族が結束する時でございます。どうか、皆様にお呼びかけ下さい」

「ふむ……」

「リネットよ。お主の言う事は最もだ。(ドラゴン)族の結束は必要不可欠だとな」

「それでは、大炎竜様……」

「だが、そう簡単ではないのも事実だ。竜人ならともかく、我を含めて純血種の(ドラゴン)は傲慢だ。襲って来る敵に一致団結して立ち向かうのではなく、各々が自らの力で愚かな敵を粉砕する。それが我らだ」

「しかし、魔王軍は強大です。油断してはなりません」

「私からもお願いします。皆様のお力が必要なんです」

「……」


燈継は躊躇する事なく三竜将に対して頭を下げた。

その想いに応えたいと思う反面、それが如何に難しいかを理解している三竜将。

誰も言葉が出ない沈黙中、ゼルドリオンが声をあげた。


「おいリネット」

「何でしょうか?」

「魔王軍から来るかも知れないという状況で、レイラは我が偵察部隊に加わるべきだと判断したのか?」

「はい。初めは偵察部隊から外す事も考えておられましたが、私がその必要は無いとの提言をいたしました。最終的には、クリスタル女王はそれを受け入れる形で、大魔導竜様は偵察部隊に加わる事になりました」

「ふむ……レイラの事だ。悩んだ末での判断だろう」

「ご不満でしたか?」

「そうだな。本心を言えば気に入らないが……偵察部隊の人選を聞くに、レイラの本気度が窺える。どちらも負けられないからこそ、その判断を下したのだろう」

「大魔導竜様は、母の事を信頼しておられるのですね」

「あの女の強さはよく知っているからな。それに、レイラに逆らうと面倒だ。気を付けるんだぞ燈継」

「はあ……」


レイラとゼルドリオンの間に何かあったのかは間違いないが、どうやらゼルドリオンはレイラを信頼している。

そして、レイラもゼルドリオンを信頼している。

この二人の信頼関係あってこその、ゼルドリオンを偵察部隊とした決断。

たとえ三竜将であっても、それに異を唱える者はいない。


「そうか……ゼルドリオン不在の中、魔王軍の襲撃か」

「キルトルシア、それは何の問題もないであろう。我ら三竜将に加えて、勇者も居る。魔王軍の撃退は可能だ。問題があるとすれば、他の(ドラゴン)達だ。我らはともかく、五百年前の魔王軍との戦いを経験していない(ドラゴン)も居る。実戦を知らない(ドラゴン)は、その力の使い方を知らない」

「では、私から皆に呼びかけるとしましょう。それでどれだけの(ドラゴン)が従うかは分かりませんが……」

「貴様では駄目だモーゼ。貴様は甘すぎる。ここは、我に任せろ。腑抜けた(ドラゴン)共を叩き直してやる」

「そうだな。ではヴォルドルフよ。頼んだぞ」


入り込む余地のない三竜将達の会話を聞いて、燈継は安堵していた。

先程は傲慢と自ら言っていたヴォルドルフだが、力強さだけではなく冷静さも持ち合わせており、今の現状を冷静に分析している。

何が必要かを理解して行動する三竜将が居れば、(ドラゴン)族が一致団結する事も難しくはないだろう。


「勇者よ。魔王がいつ来るかの予測は出来るか?」

「そうですね……私が知る魔王ならば、我々が最も望んでいない状況で襲撃に来るかと」

「となれば、ゼルドリオンが偵察に旅立った後だな」

「恐らくは」

「先代魔王と違い、此度の魔王は随分と臆病だな」

「ですが、くれぐれも油断なさらぬようお気を付けください。魔王は非常に狡猾です」

「そうだな。では、勇者の知る魔王の情報を教えてもらうとしよう」

「はい。では……」


燈継が語る魔王の恐ろしさは、強さではない。

魔王軍そのものが底知れないということ。

あと何人の契約魔将が居るのか、それとも他に魔王軍の幹部が居るのか。

未だ全貌が見えない魔王軍が、(ドラゴン)族を襲撃するのにどれだけの戦力を揃えて来るか。

恐らく、これまでで最大の戦力で襲撃に来るだろう。

最悪を想定した推測を語り、三竜将に最大限の警戒を促す燈継。

そして、三竜将はそれをしかと受け止めた。

勇者の語る言葉に疑いの余地なし。

五百年前より築き上げた勇者と(ドラゴン)族の関係は、燈継の想像以上に良好だった。


「ゼルドリオン。出発は少し待ってもらおう。お前が居る内に(ドラゴン)を纏め上げて、襲撃に備える」

「ああ。いいだろう」


ゼルドリオンが居る内は魔王軍が襲撃に来ないという燈継の推測をもとに、キルトルシアは計画を立てた。

逆を言えば、ゼルドリオンが偵察部隊へ行くタイミングをこちらで操作すれば、魔王軍の襲撃はある程度予測しやすい。

そうして三竜将達との話が終わり、ようやく燈継達は休息を取る事が出来た。

燈継達に与えられた寝床は、ローデリア火山の麓にある竜人達の住む家の中で一際大きい家。

竜人達を代表するリネットの自宅であり、部屋の数も小さな宿泊施設並みにある。


「はあ……疲れた」


一人部屋を与えられた燈継は、部屋へ案内されて直ぐにベッドに倒れ込んだ。

長旅で疲れた体は、戦闘とは違う疲労感がある。

ベッドで横になる内に眠気が限界に来た燈継は、そのまま瞼を閉じて眠りに就いた。

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