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竜の故郷-1


「勇者よ。先程は我らを守ってくれたようだな。感謝する」

「イースランド王!いえ、勇者としての務めを果たしたまでです」


十王会議が行われていた会場を出ると、イースランド王に声を掛けられた燈継。

イースランドの若き王と呼ばれる彼は二十代半ばであり、実際に他の王達よりも遥かに若い。

それでも、十王会議でのイースランド王の立ち回りを見ていると、彼が如何に聡明な王であるかを理解できる。


「勇者よ。君達はこれから、厳しい戦いが続くだろう。もし我らイースランド王国に出来る事があれば、遠慮なく申してくれ。声を掛けたのは、それを伝えたかったからだ」

「ありがとうございます。イースランド王。その時が来れば、お力添えいただきます」

「ああ。それと……アテラ、そう畏まる必要はないぞ」


イースランド王の言葉で背後を振り返ると、アテラが片膝を突いて跪いていた。

アテラの行動は当然と言えば当然。目の前に自国の王が立っているのなら、跪いて敬意を表す。

堅苦しいのは不要だと王直々に許されても、直ぐにはアテラの体は立ち上がらない。


「しかし……」

「君の父には何度も救われて来た。民は勿論、我が王家も救われた。だからこそ、彼の娘である君にそんなに畏まられると、私も心苦しい」

「承知いたしました。陛下」

「それでいい」


アテラは立ち上がり、イースランド王と目を合わせた。

周りにはイースランド王の家臣や護衛達が居るが、その様子を見ても彼らがアテラに悪印象を持つことは無い。

イースランド王国に生きる者で、アテラの父を知らない者は居ないだろう。

彼に救われた者は多い。直接救われたのが自分ではなくても、家族や親戚が救われている。

命を賭してイースランド王国を守った英雄。

そんな英雄の娘は今、魔王を討つ為に勇者一行に同行している。敬意を抱かないはずがない。

だからこそ、イースランド王は問う。


「アテラ、紅き雷は健在か?」


アテラは、誇りを胸に答える。


「はい。失われる事無く、燦然と輝いております」

「素晴らしい。その輝きは、海を越えて私のもとへ伝わるだろう。魔王討伐の報せと共にな」

「はい。必ずや」

「では、君達の健闘を祈る」


イースランド王と別れた後、燈継は再びレイラのもとへ訪れていた。

ここで別れたら、しばらく会えないであろう二人。

レイラは別れを惜しんで、燈継を抱き締めて中々離さない。


「か、母さん、そろそろ……」

「駄目だ。まだ離さん」


燈継はこれからリネット達と共に、(ドラゴン)族の住むローデリア火山へと向かう。

他でもない、魔王と戦う為に。

双方強大な力を持つ魔王軍と(ドラゴン)族の戦いは激化するだろう。

燈継がクリスタル王国を旅立った時から、不安や心配が尽きたことは無い。

最愛の息子を常に想い続けて、無事に戦いを終える事だけを願っている。


そして、願う事しか出来ない。

共に戦い、燈継を守りたい。そんな思いが幾度となく頭を過る。

当然、エルフの女王であるレイラが国を離れる訳にはいかない。

抱きしめる事が出来る距離に居る。そんな束の間の幸せを噛み締めたレイラは、ようやく燈継から離れた、


「すまない燈継。次抱き締めるのは何時になるのかと考えると、今の内にたっぷりと抱き締めておこうと思ってな」

「大丈夫だよ。また会えるから」

「ああ……そうだな」


燈継の目には、確固たる強い意志が宿っている。

勇者に相応しい凛々しく、力強く、頼もしい目だった。

五百年前、同じ目をした勇者に恋をした。

燈継は成長した。父の面影を感じる程に。

十王会議でも感じた燈継の成長を、改めて確かめたレイラ。


「これ以上引き留めると、リネット達を待たせてしまうな」

「うん。行くよ」

「くれぐれも、気を付けるんだぞ」

「ありがとう。母さんも、気を付けて」


レイラに別れを告げて歩き出そうとした燈継は、何かを思い出したように振り返る。

何か伝え忘れた事があったのか。レイラがそう考えていると、迷いの表情を見せながら、燈継は恐る恐る尋ねた。


「母さんは……俺の名前の意味を知っていたの?」

「……」


熾綜家に言い伝わる先祖の行いと、名付けの風習。

恐らく燈継の名を決めたのは、父である蒼義だろう。その時、蒼義はレイラに熾綜家について話したのか。

燈継はそれが知りたかった。

燈継の真剣な眼差しを受けて、レイラは意を決して真実を話す。


「ああ。燈継の名前の意味は知っていた。熾綜家の事も、蒼義から聞いた」

「反対しなかったの?」

「勿論した。それでも、何か確信を持っていたらしく蒼義が折れる事は無かった。しかし、私は勿論、蒼義も理解していなかったはずだ。その名前が冥界の扉を開く為の鍵になるとは」

「そっか」

「……怒らないのか?」

「別に怒らないよ。父さんは、この名前には意味があると言っていた。元の世界では何の意味が無くても、この世界でなら意味がある。実際、父さんの言っていた事は正しかった。母さんに怒る理由なんてないよ」

「すまない」


申し訳なさそうにするレイラに対して、燈継は気にする様子はない。

初めて聞かされた時は、勿論怒りはあった。

それでも、この名前が無ければジュトスを倒す事は出来なかっただろう。魔王を討つ為にもこの力は必要となる。

それに、燈継は理解していた。


「燈継。私も蒼義も、其方を愛している事は確かだ。燈継という名も、熾綜家の言い伝えとは別に蒼義と共に考えた。『決して消えない希望の(ともしび)を受け継ぐ』という意味だ」

「大丈夫。二人に愛されてる事は、もう十分教えてもらったから心配いらないよ。それに、名前は何となくそんな意味だと思ってた」

「そうか。其方は立派に成長したな……今日だけで何度そう思ったか」


別れの挨拶を終えたが、もう一度燈継を抱き締めるレイラ。

何度抱き締めても、五百年分の愛情を注ぐには足りない。

時間が許す限り、一人の母として燈継に愛を注ぐ。

そして、二人は勇者とエルフの女王に戻る。


「じゃあ。行ってきます」

「ああ。武運を祈る」


レイラに別れを告げた燈継は、急ぎ早に集合場所へ向かう。

そこには既に燈継以外の全員が集合しており、後は燈継が揃うのを待っていた。

ラーベ、ローシェ、アテラの勇者一行と、(ドラゴン)族代表のリネットと、その護衛であろう二人の竜人の男性。

そう、これより勇者一行は、リネット達と共に(ドラゴン)族の故郷であるローデリア火山へと向かう。


「すみません。お待たせしました」

「いえ、大丈夫ですよ。むしろ、もう少しお二人の時間を過ごされても良かったのに」

「大丈夫です。魔王を倒した後なら、いくらでもその時間が作れますので」

「流石は勇者様。頼もしい限りです」


頭部に生えている太く鋭い二本の角と、首や腕の皮膚にある青い鱗が特徴的なリネット。

しかし、それ以外は基本的には美しい人間種の女性であり、その笑みからも優しさが感じられる。

護衛であろう二人の竜人の男性も、角の形や鱗の色で違いはあるが、基本的には人間種に近い。

それが竜人の特徴である。


「では行きましょう。我らが故郷。ローデリア火山へ」

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