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十王会議-6


「さて……魔王として、私もこの会議に参加させてもらうとしよう」


人の形をした黒い影の言葉に、その場に居る者は沈黙で応えた。

その黒い影が本体ではないにせよ、魔王である事には違いない。

それに、何らかの攻撃をしてくるかもしれない以上、臨戦態勢は解けない。

他の者が黒い影を見ている中、燈継は突き破られた天井から上空を見上げた。


(いる。戦う気はないのか?なら、こちらから……)


「止めておけ勇者よ。今日は戦うつもりはない。そちらが手を出してこない限りは」

「っ!」


まるで、燈継の心を読んだかのような言葉を掛ける黒い影。

実際、燈継は黒い影を無視して、上空に居るであろう魔王本体のもとへ行くつもりだった。

燈継達からすれば、先に攻撃を仕掛けて来たのは魔王だ。

戦いの火蓋は既に切られている。それなのに、魔王は戦うつもりはないという。


「先に手を出したくせに、随分と都合がいいな」

「挨拶代わりだ。各国の王が集うなら、こちらも最低限の礼儀を払わないとな」

「何をしに来た?」

「そうだな。単刀直入に言うなら、我々の次の攻撃目標を告げに来た」

「「「っ!?」」」


魔王の言葉に衝撃が走る。

これまで予告なしの奇襲で各国を苦しめて来た魔王が、自ら次の攻撃目標を告げるという。

魔王の言葉を信じられる訳がない。

だが、更に紡がれる魔王の言葉は、それ以上に信じられる内容ではなかった。

魔王の影は、竜人のリネットに指を差して告げた。


「我々の次の攻撃目標は(ドラゴン)族。そして、その殲滅だ」

「「「っ!?」」」

「本気で言っているのですか?我ら(ドラゴン)族を殲滅すると」

「ああ。逆に聞くが、出来ないとでも?」

「ええ。我ら(ドラゴン)族に敗北は有り得ません。返り討ちにしてみせます」

「やはり、(ドラゴン)とは傲慢だな。だからこそ、狙いやすい」


(ドラゴン)族を代表するリネットは、魔王を相手に一歩も引く様子はない。

それは当然のこと。最強の種族たる(ドラゴン)族に恐れるものは何も無い。あってはならないのだ。

たとえ、相手が魔王だとしても、(ドラゴン)族に敗北はない。

魔王軍と(ドラゴン)族がぶつかるとして、その勝敗は全く予想は付かない。

だが、それは全て魔王の言葉に嘘偽りが無ければの話。

これまで散々魔王に奇襲を掛けられた燈継は、魔王の言葉に疑いを持っている。


「その言葉を信じろと?」

「疑いたければ好きにしろ。勇者一行が来ることは想定している。もし来なければ、楽に(ドラゴン)族の殲滅が出来る。ただ、それだけだ」

「……」


燈継には返す言葉がない。

魔王の言う通り、先に攻撃目標を告げられたのなら、勇者一行はそこへ行くしかない。

それが勇者としての使命。魔王が来ると分かっていて、別の場所へ行く訳にはいかない。

どうあがいたところで、魔王に先手を取られた。

全ては魔王の計画通りに物事が進んでいる。そんな錯覚を覚える程、魔王には一方的にやられている。

こんな状況でも冷静に思考を巡らせるマルテは、負けじと魔王に攻撃を仕掛ける。


「一ついいかしら?」

「何かな?グランザールの王女よ」

「貴方が(ドラゴン)族へ攻撃を仕掛けるなら、その隙に私達は貴方の拠点を攻撃する」

「やれるものならやってみろ。短期間で連合軍の連携が取れるとは思えない。それに、広大なレフィリアの大地を行軍するのに、一体どれだけの物資が必要になる?それらの準備は万端なのか?そんなはずはない。お前達連合軍が動き出せるのは、早くても数ヵ月はかかる」

「……」


(そういう事か。マルテの狙いは、魔王の口からレフィリアの大地に拠点があると引き出すこと。まあ、実際に偵察部隊が現地を見ないと確証には至らないが……それでも、魔王の口からレフィリアの大地の名を引き出させた事は大きい)


燈継がマルテの狙いに気付いた様に、数名の王達もマルテの発言の意図を理解していた。

だが、それ以上に脅威を感じた。魔王があまりにも連合に対する情報を握っているから。

連合軍の連携はそう簡単ではない。最高司令官と中心戦力が決まったところで、それは変わらない。

調整に調整を重ね、莫大な物資を用意しても、それでも万全とは言えないだろう。

魔王はそれを完全に理解していた。


「それでも攻めて来るというのなら……いいだろう、歓迎しよう。たとえ偵察部隊でも、連合軍全軍が相手でもな」


(完全に読まれてる……いいえ、これはもう読みという次元じゃない。こちらの動向を完全に把握されている。だとすれば、間違いなく内通者がいる。もしくは、それに匹敵するだけの情報収集の手段を持っているということね)


マルテはこの残酷な現実を、冷静に分析していた。

どうあがいた所で魔王に情報が筒抜けになるというのなら、それを前提に動くしかない。

事前に情報を握られても、成す術が無い状況を作るしかない。

それはつまり、全戦力を以てして魔王軍を叩き潰す事。


(だからこそ、魔王の(ドラゴン)族への襲撃は嘘じゃない。連合軍と正面からぶつかるとして、連合最強の種族である(ドラゴン)族は脅威になるはず。だから、連合の戦力が結集する前に(ドラゴン)族を殲滅しようとしている)


連合が取れるであろう数少ない手段は、当然魔王も理解している。

結局最後は、魔王軍と連合軍が正面からぶつかり合う。

お互いに全戦力を投入して行われる最終決戦で、この戦争の勝敗が決する。

敗北すれば次は無い。最終決戦の後は、勝者が敗者の残党狩りとなるだろう。

そんな最終決戦に向けて、魔王はあらゆる布石を打ってきた。

(ドラゴン)族への襲撃も、その布石の一つに過ぎない。


「では、ローデリア火山でまた会おう。(ドラゴン)族よ、逃げると言うなら構わない」

「ご冗談を。我ら(ドラゴン)族が故郷を捨てるなど有り得ません」

「知っているさ。だからこそ、纏めて殲滅出来て助かる。愚かなる(ドラゴン)族には、心からの感謝を」

「……」


リネットは魔王には応えない。

魔力を全身に滾らせて、無言で怒りの眼差しを向けている。

魔王からの侮辱は、(ドラゴン)族の誇りを傷付けた。

しかし、リネットはこれを好機と捉えている。


純血種の(ドラゴン)達は、控えめの表現をしても協調性は皆無だ。

温厚で理知的な(ドラゴン)もいるが、自分の力に絶対的な自信を持つ傲慢な(ドラゴン)も多い。

そんな純血種の(ドラゴン)達が魔王の襲撃を知れば、魔王に(ドラゴン)の力を思い知らせる為に、自然と団結して魔王に立ち向かうだろう。

連合最強の種族である(ドラゴン)族が本気を出せば、そこに敗北はない。


「ああそれと……勇者よ」

「何だ」

「楽しみにしている。目の前で(ドラゴン)族が殲滅された時の、貴様の絶望に染まる顔をな」

「俺もお前と決着を付けるのが楽しみだ」

「貴様と決着を付けるのは、最終決戦の時だ。それまでは、精々惨めに足掻いて私を楽しませてくれ」

「なら、次が最終決戦だ。終わらせてやるよ」

「はあ……まあ、意気込んでいるのは構わない。こちらもそれ相応の戦力をぶつける。精々死なないよう、全力を尽くしてくれ」

「当然だ」

「では、また会おう。連合の王達よ、(ドラゴン)族を殲滅した後は……貴様らだ」


その言葉を最後に、魔王の影は弾けた。

上空に感じた気配も消え、ここが激しい戦場となる事は無くなった安堵から、王達の緊張の糸が解ける。

(ドラゴン)族への襲撃と殲滅。魔王が宣言したそれは、あまりにも恐ろしかった。

連合最強の種族である(ドラゴン)族を殲滅するなど、いくら魔王でも出来るはずがない。

そう思いたいが、魔王の自信を見るに勝算はあるのだろう。

もし、もしも本当に(ドラゴン)族が殲滅されてしまえば……。


(何という奇跡!これは正に、神のお導きなのだ!帝国こそが、この世界を支配する絶対的な存在になるべきだと!神がそう告げている!)


思わず表情に出てしまいそうになる狂喜を、手で顔を覆って隠している。

傍から見れば、絶望に頭を抱えている様にしか見えない。

だが、実際は狂気乱舞に踊り狂いたい程だ。

無理もない。帝国からすれば、魔王の(ドラゴン)族殲滅宣言は予想だにしていない奇跡なのだから。

帝国が最も厄介な存在だと考えていた(ドラゴン)族を、魔王が排除してくれる。

(ドラゴン)族が消えれば、対帝国包囲網を形成する各国にも付け入る隙が生まれるだろう。

帝国にとって、(ドラゴン)族の殲滅は素晴らしい事でしかない。


(素晴らしい。実に素晴らしい。今回ばかりは、魔王を全力で応援するとしましょう)


愚かなる帝国。

そんな彼らが、自らの愚かさを知るのは……そう遠くはない。

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