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王都の変貌-1


「これは……」


燈継達一行は、グランザール王国の王都へと帰還した。

燈継の記憶にある王都は、魔王との戦闘で激しく損害を受けていた。

それから、今日に至るまでの数ヵ月。王都は完全に復興していた。

これはつまり、マルテの計画が上手く行った事の証明。


(流石だマルテ。王国を手に入れたみたいだな)


マルテに会う為王城を目指して歩いていると、巡回兵が以前よりも多い事に気付く。

鎧や紋章から見るにグランザール王国軍の騎士ではない。

それも、人間種のみならず多種族で構成されているようだった。

王都で長らく暮らしていたローシェは、その見慣れない騎士達に強く違和感を抱いた。


「勇者様。この騎士達は一体……」

「さあ、他国の騎士ではなそうだが……」


この時、見慣れない騎士に対して、燈継にはもしかしたらという心当たりはあった。

帝国との戦争勃発の危機において、マルテが燈継を含む共存派のメンバーに告げた秘策。

その秘策にあった星界騎士団。確証がないこの場では、その発言を控えた。


「ふむ、私も分からないな。新たに編成された王国の騎士団ではないのか?」

「戦争中でしょ。傭兵でも雇ったんじゃないの?」

「成程。そうかもしれませんね」


初めて王都へ来た時よりも、住民達の活気は溢れている。

あれだけの被害を出した王都は、てっきり暗い雰囲気に覆われていると思っていた燈継だが、どうやらマルテの類稀な政治手腕を侮っていた様だ。

それに、以前よりも魔族達の姿を見掛ける気がする。


(権力を手にした事で、上からの改革を行っているのか。これなら、血を流さずに共和制へ移行できるんじゃないか)


マルテが権力を握った事で、間違いなくグランザール王国の状況は良くなってきている。

理想が現実となれば、当初予定していた共存派による革命ではなく、マルテの政策で王制から共和制への移行が果たされる。

血が流れない変革。これこそが最大の理想だろう。

考え事をしながら歩いていると、いつの間にか城の門までやって来た。

門番に声を掛けようとした時、先に門番から声を掛けられた。


「お待ちしておりました!勇者様!」

「ああ……マルテ王女にお会いしたいのだが」

「はい。直ぐにご案内致します」


王都へ入る時に城門を通るが、その時既に勇者一行が王都へ帰還した事は知られていた。

報せを受け取ったマルテは、勇者一行に歩いて城へ来るように伝え、燈継達は言われた通りに歩いて来た。

何故マルテがそうさせたか、今なら理解できる。変貌した王都を見せる為だろう。


マルテの待つ部屋へ案内される道中、城内の変化にも気づいた。

豪華絢爛な装飾品が見当たらない。歴代国王の自画像等はあるが、その他芸術作品が殆ど取り除かれていた。

芸術を否定はしないが、マルテの中での優先順位は現時点では低い。

色々と金が必要だからこそ、マルテが不要と判断した物は片っ端から売り払っていた。

マルテの待つ部屋へやって来た一行。案内役が扉をノックすると、中から声が聞こえた。


「入りなさい」


案内役が扉を開けると、背筋を伸ばしてソファに座るマルテが見えた。

燈継とマルテの目が合うと、マルテは席を立って燈継を出迎える。

ゆっくりと近づいた二人は自然と握手を交わした。


「元気そうで何よりね」

「マルテも、上手くやったようだな」

「当然でしょ」


二人は多くを語らないが、相手の言いたい事は理解出来た。

マルテは、燈継が帝国で重傷を負いアルムスタ聖国へ移送されたとの報告を受けていた。

勇者無くして魔王へ勝利する事は出来ない。勇者の身を案じるのは当然のこと。

マルテにとってはそれだけではなく、計画達成の為に勇者は必要不可欠な存在。

だからこそ、心から燈継の無事を祈っていた。


一方で、燈継は王国の事を気に掛けていながらも、様々な要因が重なり戻る事は出来なかった。

帝国軍の勝利は知っていた。

しかし、それ以降の王国の動向を知らなかった燈継。

ようやく訪れた王都を見て、マルテの秘策が全て上手く行った事を知る事が出来た。


「ローシェも久しぶりね。元気そうで良かったわ」

「はい。王女殿下もご壮健そうで何よりです」


燈継が勇者として召喚されるまでは、この二人はよく話をする関係だった。

マルテの計画には、ローシェも欠かせない存在である。

国家間の争いには介入しない神官だが、ローシェの存在が王都の民の心に安寧を与えていた。

マルテの計画が実行され王都が混乱に陥ったとしても、心優しき王国の聖女が心の拠り所となれば、少しは混乱も落ち着くだろう。


マルテは計画の為なら手段を選ばない。実際に、実の兄に刺客を差し向け暗殺している。

こんな事をローシェに知られると彼女に悪印象を与えてしまう。

それだけは避けたいマルテは、常にローシェを気に掛けるようにしていた。


「守護者様も、より頼もしくなられましたね」

「お褒めに預かり光栄です。王女殿下」

「それから貴方は……」


アテラを見たマルテは、自分と同じ紅い髪の見覚えのない少女に思考を巡らせた。

燈継に同行している以上、勇者の仲間として迎えたという事は推測出来た。

問題は、彼女の立場。

どの国の出身か、政治的立場、燈継達に隠している思惑はないか。

そんなマルテに対し、アテラは片膝をついた。


「お初にお目にかかります、王女殿下。イースランド王国、リッテンノーグ侯爵家が長女。アテラ・リッテンノーグです。以後、お見知りおきを」

「アテラ、そんなに堅苦しくなくて大丈夫よ。歳も近そうだし、燈継の仲間なら尚更ね」


マルテはアテラに手を差しだした。

イースランド王国の侯爵家の娘。これは、アテラにとっては嬉しい誤算だった。

ここ最近、対帝国同盟としてイースランド王国とは急接近している。

そんな中、イースランド王国の侯爵家と親交を深める事が出来れば、イースランド王国とはより密な連携を取る事が出来るはずだ。


「では、お言葉に甘えて……改めて、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくね。私達、傍から見たら姉妹に見えるかしら?」

「王女殿下と姉妹に見られるなら光栄です」


深紅の姫と呼ばれるマルテと、紅の天才魔導師と呼ばれるアテラ。

この美しき紅い絆を祝い、二人は握手を交わした。

二人のやり取りを見て、燈継は一先ず安心を覚えた。


(マルテの事だからどうせ色々と考えているだろうが……アテラとは仲良く出来そうだな。というか、アテラもああいう振る舞いが出来るんだな)


初対面の印象が悪すぎるあまり、アテラの礼節を弁えた振る舞いに新鮮味を感じた燈継。

マルテに関しても、常に計画の事を考えている為、その計画にとって脅威になる存在には容赦しない。

そんなマルテがあからさまに友好を示すのは、アテラがむしろマルテにとって有益な存在だということ。

一行がマルテとの挨拶を済ませたところで、マルテと燈継は席に着いて話始めた。


「すまない。俺のせいで、戻って来るのが遅れた」

「貴方が無事ならそれでいい。何も問題ないわ」

「なら良かった。それに、俺もただ寄り道してたわけじゃない。もう二度と負けはしない。次魔王と会った時、決着を付ける」

「……確かに、より頼もしくなったみたいね」


マルテが初めて燈継を見た時よりも、今の燈継には頼もしさを感じる。

大きな壁を乗り越えた事で生まれた絶対的な自信。その自信を裏付けする圧倒的な実力。

勇者として纏う風格が、これまでの比ではない。

魔王軍に必ず勝利出来るという希望の光を輝かせ、連合を勝利へと導く真の勇者。

今の燈継の協力があれば、マルテの計画は全て上手く行く。


「それで、あの見慣れない紋章の騎士達は……」

「ああ、彼らは星界騎士団。各国から精鋭を選出した、星界の巫女を守護するための騎士団よ」

「っ!よろしいのですか王女殿下!他国の戦力を王都に駐留させて……」

「大丈夫よローシェ。帝国軍単体なら最悪だけど、星界騎士団は多国籍の騎士で構成されている。帝国出身の騎士もいるけれど、実際は何の権限もない。騎士団を率いるのは(ドラゴン)族の英雄。彼の指揮下よ」

「じゃあ、星界騎士団は誰の指揮下なんだ?」

「連合の共同戦力だから、連合の指揮下という感じね。もっとも、今は私の指揮下にあるけど」

「だろうな」


この王都では、マルテが完全に権力を掌握している。

星界騎士団を動かすには連合による決定が必要だが、そもそも星界の巫女を守る為の騎士団。

王都から離れる事のない星界騎士団は、マルテの手中にある。

星界の巫女を守る名目とはいえ、魔王軍は当然、その他の敵から襲撃があった際、星界騎士団はそれを全力で排除しなければならい。

星界の巫女の脅威となる存在は、全て排除する。

その性質を利用して、マルテは星界騎士団を王都の防衛戦力として利用していた。


「それで、今後の計画は?」

「一週間後、連合主要国八カ国及び中立の二カ国による十王会議が開かれる。そこに、貴方も参加してもらう」

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