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幕間


「エリオさん。本当にお世話になりました」

「私は切っ掛けを与えたに過ぎない。そこから先は、二人の力さ」


勇者一行が魔法都市を発つのに際し、エリオが見送りにやって来た。

燈継は心からの感謝を述べる。

この魔法都市で得たゼロ魔法があれば、魔王軍の化物達に太刀打ち出来る。

その確信から来る自信が、自然と燈継を笑顔にさせた。


「アテラ、魔王軍は手強い。君は強いが、決して油断してはいけないよ」

「勿論です。エリオ様。エリオ様のお耳に私の活躍が届く様、精一杯務めを果たしてみせます」

「ああ。楽しみにしているよ」


この魔法都市で得た物の中で、アテラという新たな仲間も大きな存在だ。

彼女は燈継と同じくゼロ魔法を習得している。その実力は、世界最強の魔導師にして天才と言わしめる。

そんな彼女が勇者一行に加わるのは、燈継達にとって嬉しい誤算だった。


「まあ、こうして別れの挨拶をしているけれど、そう遠くない内に再会するだろう」

「?それは一体……」

「まあ、その時になれば分かるよ」

「そうですか……」

「さあ、君との再会を心待ちにしている人が大勢いる。彼らのもとへ行ってあげなさい」

「はい!本当にありがとうございました!」

「エリオ様!またお会いしましょう!」

「ああ!健闘を祈る」


エリオとの別れを済まし、燈継達は旅立った。

次の目的地はグランザール王国。本来であれば王国と帝国の戦争が終わり次第帰還する予定が、随分と遠回りしてしまった。

しかし、その遠回りで得た全ての経験が燈継達を強くした。

だから、無駄ではなかった。これまでの全てに、大きな意味があったのだから。


「そう言えば」

「どうした燈継?」

「いや、世界最強の魔導師の戦いを見たかったなと、そう思っただけだ。俺は魔法都市での戦いは見てないからな」

「そう言えばそうだな。エリオ殿が戦っている姿は見ていないな」

「ん?暴走していた魔獣達や、反旗を翻した魔導師達と戦っていたんだろ?ラーベは見てないのか?」

「ああ。私達が戦っている間も、エリオ殿の姿は見てないな」

「エリオ様なら、魔王軍の厄介な敵にずっと捕まっていたそうよ。そのせいで、魔獣や魔導師達とは戦っていないらしいわ」

「そうなのか……」


エリオが世界最強の魔導師である事に、最早疑いの余地は無い。

だからこそ燈継は、世界最強の魔導師の戦いをその目で見たいと思っていた。

どんな魔法を使うのか、どれ程に魔力操作が洗練されているのか。

目で見て盗める技術があるのではないかと、燈継は密かにそのタイミングを狙っていたのだが……。


「アテラなら見た事あるだろ?世界最強の魔導師の戦いを」

「いいえ。私も見た事ないわ」

「え?アテラでも見た事ないのか?かなり長い間、魔法都市に居たんだろ?」

「そうね。でも、エリオ様が戦っている姿は見た事が無いわ。授業で魔法を使う所は見た事あるけれど……戦いとなると、一度も無いわ」

「そうなると……アーラインなら知ってるのか?」

「私、あの人に会いたくないんだけど」

「違うなアテラ。今の俺達なら、あいつに勝てる」

「っ!?確かにそうね!」


前を歩く燈継とアテラは、非常に仲睦まじい様子で話している。

本気でぶつかり合い、共に修業をした事で気兼ねなく話せる間柄となった。

そんな二人を後ろから見守るラーベは、複雑な表情をしている。


「燈継に同年代の友人が出来るのはいいが……少し距離が近すぎないか?」

「別に良いではありませんか。仲睦まじい事は良い事です」

「しかしだな、燈継は我が国の王太子であり、万が一にでも二人が婚約したいと言うのなら……大問題だ!」

「ま、まあ。アテラ様もイースランド王国の貴族様ということなので、そう簡単に婚約には至らないかと……」

「二人で駆け落ちするかもしれないだろう!」

「それは少々飛躍しすぎかと思うのですが……」

「いいや。私は燈継を守る騎士として、それら諸問題にも対処しなければならない!」

「そ、そうですか」


一人で熱く語り始めたラーベに、少しばかりローシェは引いている。

兎にも角にも、勇者一行の新たな旅が始まった。

アテラを新たな仲間に加えた一行は、グランザール王国へ向かう。

この時、燈継はまだ何も知らなかった。

グランザール王国がかつて訪れた時とは、大きく変わっている事に……。


(マルテ……計画が順調な事を祈るよ)


◇魔法学園 執務室


魔法都市での一連の戦いで、執務室は完全に崩壊していた。

通常なら再建に数ヵ月掛かるが、世界最強の魔導師に掛かればその日の内に建物の修復は完了した。

しかし、面倒な後始末が山積みになっている。そればかりは、魔法では片付けられない書類作業。

世界最強の魔導師でも、面倒な書類作業は憂鬱だ。

新しい補佐官でも採用して、書類作業を任せるのもいいかもしれない。

そんな事を考えながら、エリオは執務室の扉を開けた。


「おや?ご客人かな」

「招いたのはそちらだろう」


扉を開けると、エリオが座るはずの椅子に一人の男が座っていた。

彼はこの魔法学園では見かけない顔だった。

黒い髪に黒い瞳。彼はこの世界でも珍しい容姿をしている。


「すまないが記憶にない。何かの間違いでは?」

「そうか。では、名を名乗れば思い出してくれるか」

「一応聞かせてもらおう」

「エンドルフ。魔王エンドルフだ」


彼は自らを魔王エンドルフと名乗った。

仮面を被らず、素顔を晒した状態で魔王だと明かした。

世界最強の魔導師を前にして、自らを魔王と名乗る行為。その自殺行為は狂人に他ならない。

しかし、エリオには理解できる。彼の言葉に嘘はないと。


「これはこれは……魔王自ら私を殺しに来たのかな?」

「私が本気で殺しに来たとして、殺されるとは思っていないだろう?」

「さあ、どうだろうね」

「あの老人は常軌を逸した化物だった。しかし、そんな彼でも倒せなかった以上、私一人では到底勝てないだろう」

「では、何故私の前にやって来た?」


魔王は自らの実力では、エリオに勝てないと言っている。

それを理解した上で、魔王はエリオの前にたった一人で向かい合っている。

エリオがその気になれば一瞬にして命を落とす状況で、魔王は冷静沈着に問い詰める。


「私は実力で貴様を殺せない。だが、貴様は私を殺せるはずなのに殺さない。いや、殺せないのか」

「……」

「やはりそうか。目の前に居る魔王を殺せば、世界が平和になるというのに……それでも、私を殺す事が出来ない」

「まさか、私では魔王に勝てないさ。魔王を倒せるのは、勇者だけだからね」

「成程。やはりそれがお前の……いや、()()()の望むシナリオか」

「……何を言っている?」

「まあいい。ここに来たのは他でも無い。お前達に宣戦布告をしに来た」


魔王は椅子から立ち上がり、ゆっくりとエリオの横を通り過ぎる。

そして、執務室の扉に手を掛けた。

魔王はエリオに振り返る事は無く、背中を向けたままエリオに告げた。


「私はこの世界に抗い、必ず運命を覆す。震えて眠れ、エリオ・リンドハルム。私こそが、この世界に勝利する最初の人間だ!」


その言葉を最後に、魔王は執務室を出た。

静寂の中残されたエリオは、先程まで魔王が座っていた椅子にゆっくりと腰を下ろした。

天を仰ぎ目を閉じる。

そして、瞼に思い浮かべるのは一人の女性。彼女は、エリオにとって最愛の人。

全ては、彼女の願いの為に……。


「君を信じるよ。エルリア」

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