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反逆する魔導師達-3


「纏めて吹き飛ばしてあげるわ!」


モレーナが手を向けると、ラーベとローシェの周囲一帯で爆発が起きる。

爆炎によって二人の姿が隠されても尚、モレーナは爆発を起こし続けた。

初撃でローシェが使った防御魔法では、この連続攻撃には耐えられないはず。


「おやおや、これでは跡形も残っていないのでは?」

「油断しない方がいいわよ。まだ手の内は隠しているでしょうから」

「その通りだ」

「「っ!?」」


聞こえるはずのない背後から届く声。

その声の主は、今にも解き放たれそうな暴風を風神剣に収束させている。

モレーナとクルルバットは、即座に背後を振り返ると同時に攻撃の動作へ移る。

しかし、二人が振り返るよりもラーベの攻撃の方が早い。


「<風天撃>」


至近距離で解き放たれた暴風は、二人をその場に留まらせる事を不可能にした。

モレーナは自身が持つ爆発の反撃(カウンター)を発動させながらも、暴風に飲まれて体を宙に飛ばされた。

クルルバットも防御に全魔力を集中しているが、足場ごと暴風に削られて大きく飛ばされた。

この時、クルルバットはラーベの狙いを察知した。


(我々を分断するつもりですか……)


クルルバットは暴風に身を攫われながらも、何とか着地を成功させた。

立っていた位置からは大幅に飛ばされてしまったが、戻れない距離ではない。

あの爆発の中、突如として背後に現れたラーベを警戒しつつ、モレーナとの合流を急ぐ。

そんなクルルバットの目の前に立ちふさがるのは、聖典を広げたローシェ。

それを見たクルルバットは、思わず笑みを浮かべる。


「おやおや。まさか、我々を分断した狙いがこの状況を作る為だったのですか?」

「はい。貴方の相手は私です」

「先に言っておきます。守護者なら、私は不利な戦いを強いられていた。しかし、エルリア教の神官に私を倒す事はできません」


クルルバットの使う毒魔法は、煙として放出する魔法も多い。

ラーベの風神剣を相手にすれば、使える魔法は限られていただろう。

しかし、エルリア教の神官なら話は別だ。


(神官共は後方支援が担当のはず。最前線で戦えるとは思えませんが……こうして私の前に立っているという事は、何らかの戦う手段を持っているという事でしょうか?)


「<聖典魔法 第六十章>聖なる騎士よ。闇を討ち、悪を討ち、この世界に光をもたらさん」


聖典魔法の輝きと共に、二メートル程の白き鎧の聖騎士が五体出現した。

聖騎士達は盾になる様に、ローシェの前方を固める。

光が収束された剣と、鏡の様に世界を映し出す盾を構えた。


「成程……自分は戦わずに、召喚したものを戦わせるという訳ですか」

「貴方は、私が倒します」

「残念ですが……それは無理でしょう<黒く世界を閉ざす霧(ダウン・オブ・ミスト)>」


クルルバットの周囲から黒い霧が一斉に溢れ出す。

やがてクルルバットの姿は見えなくなり、周囲が黒い霧に包囲された。

その瞬間、聖騎士の一体が光の剣を薙ぎ払う。


「何っ!?」


たった一振り、光の剣を払っただけで黒い霧は晴らされた。

上空から迫るクルルバットの姿を、地上に居るローシェは完全に捉える。

聖騎士の一人が、光の剣の形状を変化させて光の槍へと変化させた。

その光の槍を、上空から迫るクルルバットに向けて投擲した。


(速い!)


正確無比に投擲された光の槍は、視認してから回避できる速度ではない。

空中で態勢を変える事が出来ずに、クルルバットは地上から放たれた光の槍に貫かれた。

それと同時に、クルルバットの肉体が蜃気楼の様に消えて行く。

そう。これは本体ではない。


(一撃で霧を払った時は驚きましたが、同時に<影の道(シャドウロード)>で影に身を潜めた私の事は見付けられていない。そう、直ぐ傍の影に潜む私には……)


黒く世界を閉ざす霧(ダウン・オブ・ミスト)>で黒い霧を発生させると同時に、<影の道(シャドウロード)>で影に自分の姿を隠す。

上空から迫るクルルバットは、陽動の為の幻影。

ローシェの近くにある建物の影に潜むクルルバットは、がら空きとなっているローシェの背後を目掛けて飛び出した。


(私の魔力を毒へと変化させて、極限まで圧縮。そして、このナイフに毒を纏わせる)


クルルバットは取り出したナイフに、自分の魔力で創り出した毒を纏わせる。

そして、そのナイフとは別のナイフを同時にローシェの背後に向けて投擲した。

クルルバットの手を離れた瞬間、毒を纏ったナイフの姿は世界の景色に溶けていく様に消えた。


ローシェが自身に迫るナイフに気付き、背後を振り返る。

だが、目に見えるナイフよりも、姿を消した毒のナイフの方が速度は速い。

目に見えるナイフに合わせて防御すれば、毒のナイフは確実に当たる。

クルルバットは暗殺術を取り込む事で、自身の魔法を最大限に活かしていた。

だが、目に見えないはずの毒のナイフは、ローシェの背後に回った聖騎士の光の剣に弾き飛ばされた。


(見えているのかっ!?姿を隠したナイフを!)


クルルバットは思わず立ち止まる。

聖騎士の動きを見れば、偶然姿の見えないナイフを弾いた訳ではないのが分かる。

見えていた。姿を見えないはずのナイフを確実に捉え、弾き飛ばした。


「何故私が、貴方の相手になったのか。それは、貴方から闇の魔力を感じたからです」

「闇を払うのが神官の役目だと?素晴らしい信仰ですね。ですが、信仰で我らの野望は破れない」

「いえ、次で終わらせます」


ローシェの言葉に、クルルバットは全神経を集中させる。

確かに、ローシェを囲む聖騎士は厄介な存在。

だが、神官は接近戦は不慣れなはずだ。聖騎士を掻い潜り、ローシェの懐に入ればナイフは届く。

毒のナイフは、掠りでもすれば十分な致命傷となる。


「<|黒く世界を《ダウン・オブ……っ!?」


クルルバットが再び<黒く世界を閉ざす霧(ダウン・オブ・ミスト)>を発動しようとした瞬間、聖騎士の一体が瞬く間に間合いを詰めた。

光の剣が薙ぎ払われ、クルルバットは回避を余儀なくされる。


この瞬間、クルルバットは瞬時に魔法を発動させた。

一つは、上空へと回避した様に見せるクルルバットの幻影。

もう一つは、<影の道(シャドウロード)>で本体の姿を隠した。


それは、聖騎士に視界が無い事を前提とした行動。

聖騎士に視界があれば、その目の前でこんな筒抜けの行動しても意味が無い。

聖騎士によってクルルバットの姿が隠れ、ローシェから見えないからこその判断だった。

しかし、クルルバットは根本的な事を誤解している。


「捉えました」


ローシェの言葉に呼応して、聖騎士の一人が即座に光の剣を光の槍へと変化させる。

そして、ローシェの前方にある影に向かって光の槍を投擲した。

光の槍は影に突き刺さると同時に、影から盛大に赤い血が噴き出した。


「ぐはっ!?ば、馬鹿な!?何故こちらの動きを……」


影から姿を現したクルルバットの腹部を、光の槍が貫いていた。

止めどなく流れる血を抑えながら、クルルバットはローシェを睨みつける。

そして、ローシェの瞳の中にある光を捉えた。


「まさか……初めからずっと見えていたのですか……」

「はい。以前よりも、はっきりと闇の魔力を捉える事が出来ます。貴方がどれだけ姿を隠しても、その闇の魔力は隠す事が出来ない」

「成程……」


聖王によって新たな力を得たローシェは、クルルバットの持つ闇の魔力を常に正確に捉えていた。

たとえクルルバットが姿を隠そうとも、ローシェには全て見えていた。

ローシェがクルルバットとの一騎打ちを望んだのは、モレーナの爆発と同時に相手にするよりも、一騎打ちに持ち込んだ方が確実に勝てるという確信があったから。


「で、貴方は私を殺すのですか?貴方は神官であり、処刑人ではない。魔王軍でもないただの人間である私を……殺せるのですか?」


クルルバットは悪い笑みを浮かべて、ローシェに問うた。

悪魔なら喜んで殺すであろう神官も、人間を殺す事は出来ない。

その確信があるからこそ、クルルバットは余裕の笑みがある。

ここは一時撤退して、治療すればいいと。


そう考えていたクルルバットは、ローシェの揺らぐ事の無い眼を見た。

その瞬間、心臓の鼓動が一際大きく飛び跳ねた。

彼女の覚悟は、決して揺るがないと理解したから。


「<聖典魔法 第二十八章>聖なる監獄よ、神の眼の下に邪悪なる者を繋ぎ止めよ」

「っ!?」


空中に出現した光の束が、クルルバットの肉体を貫き身動きできない様に固定した。

肉体を貫く光の束は、光の槍と違って痛みはない。

しかし、指を動かす事も出来ない強い拘束。


「じ、慈悲深きエルリア教の神官よ!どうか私をお許しください!もう二度と、この様な悪事には手を染めないと誓いましょう……だから!」


この状態で出来る事は、ただ許しを請う事だけだった。

心からの言葉ではない。だが、今は僅かな希望に縋り慈悲を乞う。

これがローシェ一人の戦いなら、彼を許したかもしれない。

しかし、今は違う。勇者の危険になりえる存在は、全て消し去れなければならない。


「悪しき者よ。汝の魂が浄化された時、それが汝の罪が許された時となるだろう。世界を裁く神の名の下に、悪しき者への裁きを下す<裁きの光(ジャッジメントライト)>」

「っ!?」


神への祈りを実現させる神聖魔法。

ローシェは願う。目の前に居る罪人への裁きを。

その願いは神へ、つまりは創造主エルリアへと聞き届けられる。

天より落とされた神の鉄槌は、光となってクルルバットを圧し潰した。


「ぐああああああああああああああああ!」


神の裁きを受けるクルルバットの肉体は、光によって焼けていく。

皮膚が、肉が、そして骨までもが裁きの光に焼かれて消えて行く。

耐え難い苦痛を受けながら、その肉体が全て裁きの光に焼き尽くされた時、クルルバットの存在は跡形も無く消えた。


裁きの光が降り注いだ大地は激しく焦げており、黒く変色していた。

知らず知らずのうちに呼吸を止めていたローシェは、肺に溜まっていた空気を一気に吐き出した。

そして、新鮮な空気を取り込んで思考を切り替える。


「よし。急いでラーベ様の方へ向かいましょう。今もまだ、戦闘が続いているはずです」


クルルバットとの戦いの最中にも聞こえていた爆発音。

それは今も聞こえている。

あの二人の戦いは、ますます激化するだろう。

ラーベを援護する為にも、爆発でこれ以上被害を増やさない為にも、ローシェは急いで爆発音に向かって走り出した。

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