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反逆する魔導師達-1


「<天刻の(ルール・オブ・)支配(サイン)>」


研究室に保管されている魔獣達は、合計百二十体。

どれも凶暴で危険な魔獣達だが、その中でも十体の魔獣が桁外れに危険度が高い。

この魔獣達は、かつて世界各地で甚大な被害をもたらした魔獣達であり、一体でもその脅威は計り知れない。

そんな魔獣達が、一斉に放たれる。


「さあ、暴れてこい」


解き放たれた魔獣達が、研究所を内側から突き破った。

魔王が<超越の杖(オーバーワンド)>を使用して発動した古代魔法<天刻の(ルール・オブ・)支配(サイン)>は、対象の存在を完全に支配する事が出来る魔法。


支配できる数は、魔法発動者が込めた魔力と、支配する対象の魔力保有量によって決まる。

魔王は、特に危険度の高い十体の魔獣を対象に絞り、魔法を発動した。

本来、魔王の魔力保有量なら、この十体の内の一体しか支配出来ない。

しかし、支配段階を浅くする事で、十体の魔獣を支配する事が出来た。

支配段階が浅い分、簡単な命令しか与える事が出来ないが、魔獣達の役割を考えればそれで十分だった。


魔王が魔獣に与えた命令は、魔獣達同士で争わない事。

この命令は特に危険度の高い魔獣達にしか与えていないが、その十体に比べると他の魔獣達は大きく劣っている。

他の魔獣達は、野生本能でその十体の魔獣達に敵わないと理解しているはずだ。

ならば、その十体だけを完全に抑えておけば、攻撃してくる魔導師達を優先して狙うだろう。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!」


魔法都市へ解き放たれた魔獣達は、目に見える全てを破壊しようと暴れ始めていた。

特に危険度の高い十体の魔獣は、その殆どが桁外れの巨体。

歩くだけでも街を破壊する。

四足歩行の巨大な狼が動く獲物を狩れば、空を羽ばたく怪鳥が地上へ向けて強襲を掛ける。

魔獣達が解放されて五分も満たない内に、魔法都市は阿鼻叫喚となった。


「良い眺めだ……」


自らの魔法で人を捨てたアーネスは、その背中から生えた(ドラゴン)の翼を羽ばたかせ宙に浮いている。

魔法都市を見下ろし、魔獣達が暴れている姿に高揚感を覚えた。

アーネスが野望を抱いて以来、少しずつ種を蒔いてきた。

それが今、一斉に咲き誇る。


「さあ、我らの力を示す時だ!」


鉄をも切り裂く鋭利な爪、全てを握りつぶす強靭な握力。

(ドラゴン)と化した右腕を天に掲げる。

その右手に収束される魔力は、今までの体では耐えきれない程の魔力。

人を越えた力。今だからこそ放てる最高の一撃。


「これこそが、真の力だ!」


魔力が収束した右腕を、地上へ振り下ろす。

その瞬間、尋常ではない揺れが魔法都市を襲った。

アーネスが狙いを定めた場所は、居住区の一画。

そこに住んでいたのは、魔導師として求められる戦いを拒否し、魔法都市で平穏な暮らしを望んだ者達。

この魔法都市にしか居場所が無い彼らを、アーネスは許さなかった。

魔導師としての才がありながら、それを自ら放棄するなど、アーネスからすれば愚の骨頂。

だから、()()()()()()()()()()()


「始まったみたいだな」

「ええ。今の凄まじい揺れは、アーネス様の反逆の合図」

「ようやく暴れられる。ザーゼッシュが居ないのは残念だが、仕方ない」

「闘技場で奴隷に負ける魔導師なんて、アーネス様の部下に相応しくないわ。私こそが、アーネス様の右腕に相応しいと証明してみせる」


赤い制服を身に纏う二人の男女が、窓の外から広がる光景を見ていた。

魔法学園の制服は白を基調としているが、彼らは赤い制服を身に纏っていた。

それは、反逆の証。

アーネスと共に世界最強の魔導師に抗い、魔導師による世界の支配を望む者達だった。


「さあ、アーネス様に続け!」


アーネスの合図と共に、魔法学園から反逆者達が一斉に動き出した。

数では劣っている以上、初動でどれだけ敵戦力を削ることが出来るかで勝敗が分かれる。

魔法都市の主戦力。つまりは優秀な魔導師は、魔法学園に集中している。

真っ先に学園の魔導師達を片付けなければ、次第に劣勢に陥るだろう。


「魔法学園の魔導師達を狩れ」アーネスからそう命令された反逆者達は、視界に入る魔導師達に襲い掛かる。

紫紺の瞳を輝かせた彼は、目の前にいた学生の心臓を貫いた。

響き渡る悲鳴。その悲鳴を聞いて笑みを浮かべる彼は、次々に襲い掛かる。

まるで、獲物を狩る獣の様に。


彼の名は、クルルバット・ポルーグ。

アーネスが最も信頼する部下の一人で、その実力も魔法学園の中で上位に位置する。

返り血を浴びた紫紺の髪を掻き上げて、目の前で怯える獲物の首を刎ねた。


「弱すぎる。こんなにも弱い者が、魔導師たる資格はない」

「クルルバット!貴様一体、何をしている!」

「おや先生。てっきり魔獣の対処に行っているのかと」

「貴様は、この私が止める!」


突如として襲い掛かる赤い制服の魔導師達に、多くの生徒達は怯えて逃げ惑う。

その混乱の中でも、教師達は冷静さを求められる。

魔法学園の教師に選ばれた者は、魔法都市の中でも最上位に位置する魔導師。

そんな彼らの相手は、決して油断出来ない。


クルルバットの前に立ちはだかった男の名は、クォーズ・デルトリア。

かつてはとある王国で魔導師として仕えていたが、ロイセン帝国に祖国を滅ぼされ、魔法都市へ亡命して来た男だ。

戦場では<要塞>の二つ名を馳せて、帝国軍にすら警戒されていた。


「先生では、この私を止められない<毒の(ポイズン)息吹(ブレス)>」


クルルバットの腹が膨れると同時に、それを全て口から吐き出した。

目に見える紫色の息吹は、周囲の壁や床を腐食しながらクォーズに迫る。

クルルバットの使う魔法は、毒魔法。元々闇属性の魔力を持つクルルバットは、その闇属性を変質させて毒魔法へと進化させた。

極めて殺傷能力の高い魔法。肌に触れるだけでも致命傷のその毒の風を、クォーズは真正面から浴びた。

クルルバットが吐いた毒の空気が充満する中、クォーズはそれをものともせず間合いを詰める。


「この程度か」

「ちっ!」


瞬く間に間合いを詰めたクォーズは、魔力の込めた右拳をクルルバットの顔面目掛けて突き出した。

一切自分の魔法が効いていない事に驚いたが、クルルバットは何とかその攻撃を防ぐ。


「くそっ……流石は<要塞>か」

「この程度で、私はやれんぞ<大地(グランド)……」


クォーズが魔法で追撃をしようとした瞬間。

その背後に、巨大な影が現れた。


「クォーズ。貴様の防御と私の攻撃。どちらが上か試してみよう」

「っ!?貴様は!?」


クォーズが目の端で捉えたのは、(ドラゴン)の牙を剥き出しに笑うアーネス。

頭上から振り下ろされる拳は、クォーズの頭から胴体にかけてを圧し潰しながら、学園の床を突き抜けた。

幾つかの床を突き抜けて地面へ着地した時、拳の下ではクォーズだったであろう肉片が飛び散っていた。


「ありがとうございます。アーネス様」

「お前とクォーズでは相性が悪いからな。それに、この力を試したかった。<要塞>と呼ばれる程の防御力を誇るこいつと、私の今の力。どちらが勝っているかと思ったが……圧倒的に私の力が上回っていたようだ」

「お見事です。アーネス様」

「それで、戦況はどうなっている?」

「はい。教師陣の殆どは、魔獣に引き付けられているようです。おかげで、学園の戦況は優位に立っております。ただ……」

「エリオと勇者は放っておけ。魔王が対処する」

「リストの魔導師はどうなさいますか?」


アーネス達は今回の計画を実行するにあたり、予め要注意人物をリストアップしていた。

このリストの魔導師達は、魔法学園の教師陣は勿論、飛び抜けた才能を持つ生徒達も含まれている。

<要塞>のクォーズもリストの魔導師だったが、アーネスは一撃で仕留めた。

これは、クォーズを相手にクルルバットでは時間を要すると考えた事もあるが、自分の力を試したかった思いもある。

結果としては、その両方が満たされた。


「リストの魔導師は私が相手しよう。教師陣が魔獣に引き付けられている間、学園内のリストの魔導師が現れ次第、私が対処する。今の私なら、強力な魔力は正確な位置まで感知できるからな」

「承知しました」

「お前とモレーナは、このまま学園の制圧を目指しつつ、出て来るであろう勇者の供の相手をしてもらう。既に勇者との分断は成功している。モレーナと二人で仕留めろ」

「お任せください。必ずや、仕留めて見せます」


アーネスは再び上空へ飛び立った。

そして、崩壊していく魔法都市を眺めては喜びが溢れ出す。


(いくら学園の教師と言えど、無傷で勝てる魔獣達ではない。むしろ、これらの魔獣を相手に死傷者の方が多くなるだろう)


だからこそ、理解出来ない。

この状況においても、世界最強の魔導師が姿を見せていない。

既に魔王が引き付けているからなのか、それとも何処かで身を潜めているのか。


少なくとも、後者は考えられない。

何故なら、世界最強の魔導師が身を潜める意味が分からない。

恐れる物等ないはずだ。それなのに何故……。


(まあ、あの男は存在その物が理解出来ない。故に魔王に託した訳だが……ここは魔王を信じるとしよう)


そう。反逆は始まったばかりだ。

この圧倒的力を以てして、全てを破壊してみせる。

新たな支配者となる為に、今ある全てを……。

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