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人を越えた力


「少しは強くなったか」

「ああ!お前を殺す為にな!」


魔力を乗せて振るわれる聖剣を、魔王の仮面を被った<双面>ルクスは、闇の魔力で作り出した剣で受け止めた。

燈継の魔力操作が上達すると共に、当然攻撃の威力は上がっている。

ルクスはそれを受け止めながらも、反撃の機会を伺い、瞬時に攻撃に転じる。

燈継はそれを回避して、再び攻撃へ移る。


この時点で、勇者の足止めと言う役割をルクスは完全に果たしていた。

基本は防御に徹しつつ時間を稼ぎ、怪しまれない程度に反撃を行う。

魔王から与えられた使命を果たす為に、ルクスは神経を研ぎ澄ます。


(さて、勇者にここで全力を出されると、次の戦いで負けてしまうかもしれない。今はまだ、死んでもらっては困る。そうさせない為にも、この戦いは程々にしなければ……)


ルクスに下された命令は二つ。

勇者の足止めと、勇者を激しく消耗させないこと。

勇者にはこの後、別の相手と戦ってもらう。そこで全力を出させる為にも、この戦いで勇者を消耗させるわけにはいかない。


「はあっ!」

「っ!」


燈継の振るう聖剣が、僅かにルクスの腕を掠った。

聖剣から飛び跳ねた血が宙を舞う最中、追撃の動作に入る燈継に対し、ルクスは即座に足元に闇の魔力を爆発させた。

視界が遮られた燈継は、自分の身を守りつつ反撃に備える。

しかし、ルクスはその隙を突かずに一定の距離を取って、構えていた。

此処で僅かに、燈継は違和感を覚える。


(気のせいか?魔王の動きがおかしい。こちらを倒すという意志が感じられない。それに……奴は何故、十三至宝<魔剣・調和崩壊(エンドバランス)>を持っていないんだ?まさか、何か別の目的が……)


燈継がその思考に至った時、複数の爆発音が耳に届いた。


「っ!?」

「始まったか」

「契約魔将でも送り込んできたか。だが、少し甘く見過ぎてないか?ここは魔法都市だ。グランザール王国と違って、強力な魔導師が大勢居る。それに、世界最強の魔導師が居る以上、魔王軍をいくら送り込んで来ようとも……」

「お前こそ、我々を甘く見ていないか?」

「何?」

「私が何の勝算もなく、戦いを仕掛けると思っているのか?」


◇魔法都市 エリオ・リンドハルム研究室


爆発音が聞こえる少し前、魔王本人とアーネスはエリオの研究室の前に立っていた。

魔法学園から少し離れた所に、エリオの研究室はある。

研究室と言っているが、実際には魔法学園と同等の巨大な施設だった。

そこに足を踏み入れる事が出来るのは、基本的にエリオのみ。

何故なら、その研究室には危険度の高い()()が数多く存在した。

エリオが施した結界により、侵入は不可能。そう、本来であれば。


「いよいよだな」

「ああ。今日を以て、私がこの魔法都市の支配者になる。どれだけ、この日々を待ち望んだことか」


魔王は<魔剣・調和崩壊(エンドバランス)>を研究室の扉にかざして、調和崩壊(エンドバランス)の力を使用した。


「崩せ。調和崩壊(エンドバランス)


その掛け声と共に、エリオの結界は崩壊した。

この崩壊は一時的な物であり、時間が経てば自動的に修復されるだろう。

今はそれで充分だった。研究室の中に入りさえすれば、目的は達せられる。


この研究室へ来た目的は二つ。

一つは、エリオが研究材料として保管している危険度の高い魔獣達。

魔獣達を魔法都市へ解き放つ事で、大きな混乱を作り出す。

魔獣達は魔王の支配下へ置く事で、自由にコントールする事が出来る。

だが、魔王にその力が備わっている訳ではない。


二つ目の目的が、それを可能にするアイテム。

十三至宝の一つ<超越の杖(オーバーワンド)>。

超越の杖(オーバーワンド)>には古代魔法が封じ込まれており、使用者が発動に必要な魔力を込めるだけで、誰でも古代魔法を発動できる。

魔導師の中でも、天才を越えた者しか辿り着けない至高の領域。それが古代魔法。


それを、魔力を込めるだけで使えるという異常性。

超越の杖(オーバーワンド)>が悪意ある者に渡ればどうなるか、想像に容易い。

そして、そうならない為にエリオが保管していた。


「これが……<超越の杖(オーバーワンド)>か」


ガラスケースに保管されていた一本の杖は、手に取ったアーネスの腕とほぼ同じ長さだった。

重くも無く、軽くも無い。一見普通の木の杖に見えるそれは、手に取った瞬間に確信へと変わる。


「間違いない。この杖は、神代の樹木が使われている。折る事も燃やす事も出来ないだろう」

「神代?神の時代の代物という事か」

「ああ。私の研究と少し通ずる所がある。間違いないだろう」


アーネスはこの魔法都市へ来て、三十年になる。

二十代の頃にこの魔法都市へ来て、ひたすらに研究に明け暮れた。

その長年の研究で得た知識。その知識が、<超越の杖(オーバーワンド)>の秘めている力に惹かれている。

一度手にすれば、二度と手放したくはない。そう思わせられるが、契約は守らなくてはならない。


「約束通り、一度だけ使わせてもらうぞ」

「ああ。しかし、何を使うんだ?」

「まあ見ていろ。私の研究に必要だった最後のピースを、この魔法で埋める」


超越の杖(オーバーワンド)>に封じ込めらた古代魔法の発動には、詠唱を必要としない。

ただ魔力を込めるだけで、自分が望む古代魔法を行使できる。

当然、古代魔法を発動するには膨大な魔力が必要となる。


魔力の保有量は、生まれ持った保有量が基本となる。魔法の鍛錬を行う過程で少しは増えるが、生まれ持った保有量から大きく増える事は無い。

魔法の才に比例して、魔力の保有量は大きくなる傾向にある。

エリオの補佐官を務めるアーネスの魔力保有量なら、問題なく<超越の杖(オーバーワンド)>を発動できた。


「今日を以て、私は生まれ変わる。<神の血(エル・ブラッド)>」


魔力を込められた<超越の杖(オーバーワンド)>に、幾つもの紋様が浮かび上がる。

同時に赤い魔法陣がアーネスの足元に展開され、その古代魔法を顕現させる。

アーネスの胸元に小さな赤い光が集約していき、それはやがて一滴の赤い雫と化した。


「それが……発動した魔法か?」

「そうだ。そして、この赤い雫を飲み込む事で……」


宙に浮く赤い雫を手の平で掬い上げても、弾ける事は無い。

アーネスは口を開いて、それを飲み込んだ。

その瞬間、全身に伝う熱と痛み。神経が焼き切れる様な抗えない強烈な痛みに、アーネスは叫び声を抑える事は出来ない。


「ぐあああああああああああああああ!」

「っ!?おい!大丈夫か!?」

「ぐっ……見ていろ魔王……これが、生まれ変わった私だ!」

「っ!?」


痛みに喘ぐアーネスの肉体の内側から、何かが飛び出そうと躍動していた。

今にも皮膚を貫いて飛び出そうな何か。だが同時に、アーネスの肉体が少しずつ巨大化していた。

筋肉の肥大化と共に徐々に大きくなる肉体から、遂に内側からから何かが突き破った。

それは、背中から突き出した大きな翼。(ドラゴン)の様な翼を広げ、雄叫びを上げる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


翼が生えたと同時に、アーネスの皮膚は鱗へと変化していく。

次第に五本の指は鋭い爪へと変わり、頭部からも角が生えだした。

三メートル程まで巨大化したアーネス。最早、人間とは呼べないその姿こそ、アーネスが長年研究していた魔法。


「はあ……はあ……」

「凄まじいな……」

「ふっはっはっ!どうだ魔王よ!これこそ、我が人生を捧げた魔法<人魂転身(ソウルブラスト)>人の身でありながら、人の領域を超えた魔法だ」


人間には、限界がある。肉体も魔力も、人の身では越えられない壁がある。

アーネスはその壁を越えたかった。

世界最強の魔導師エリオ・リンドハルムは、人の身でありながら、人の領域を超えていた。

エリオは特別な存在。エリオの真似事は不可能だ。


だから、アーネスは人の身では越えられない壁を超える為に、人を捨てる事にした。

アーネスの魔法<人魂転身(ソウルブラスト)>は、他種族の血を自身へ取り込み、魔法の発動時のみ取り込んだ他種族の力の一部を使えるという魔法だった。

研究の過程で、アーネスは特に(ドラゴン)の血を多く取り込んだ。

竜人の様な姿となったアーネスは、自身の魔法が遂に完成した事を確信した。


「<神の血(エル・ブラッド)>を取り込み、<人魂転身(ソウルブラスト)>を発動させた事で、私は神の力を手に入れた。この力があれば、エリオを除いて私に勝てる者は居ないだろう」

「そうか。では、本格的に始めるとしよう」

「ああ。魔獣を解き放つと同時に、私が反逆の合図を示す。そうすれば、私の部下達が一斉に動き出す。そちらも頼んだぞ」

「ああ。エリオと勇者は、こちらで相手する。存分に暴れてくれ」

「そうさせてもらう。私は今、この力を試したくて仕方がない」

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