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勇者への問い掛け


思わぬ再会を果した燈継は、訓練場から少し離れた静かな場所に来ていた。

ここは人通りが少なく、落ち着いて話をするには最適な場所。

ベンチに腰掛けた燈継は、隣に居るモーフェルへ問い掛けた。


「どうして貴方がここに?ベフルース会長の代理人を務める貴方は、各地を飛び回っているかと思いましたが……」

「まあ、そうなんだが……私には少しばかり魔導師の才があるらしく、会長に魔法都市へ行けと言われた」

「という事は、会長の健康状態は良い方向に?」

「以前よりかは、少しだけ良いといえる。しかし、彼も年だ。完全な快復は難しいだろう」

「そうですか……」

「まあ、こちらの事は気にせず、君の話を聞かせて欲しい」

「私の?」

「ああ。王都で出会って以降、君は多くの経験をしただろう。それでもまだ、マルテ王女を信頼できるかという話だ」

「……」


彼はかつて、燈継に問うた事がある。

マルテの計画している革命が達成されたとして、人間種と魔族の問題は解決させるのかを。

モーフェルは一つの疑問として、政治体制が王制から共和制に移行した所で、魔族の特性が変わらない以上、問題は解決されないと指摘した。

その指摘は的を得ている。


しかし、グランザール王国で人間主義者による革命が成功すれば、間違いなく魔族に対する虐殺が始まる。

皇帝が人間主義者を名乗るロイセン帝国も、喜んで支援するだろう。

そして、その果てに連合は人間種と魔族に二分してしまう。

帝国を始めとする人間種の国家は、人間種による絶対的な支配を望んで、魔族達に対して戦争を仕掛ける。

こうなってしまえば、人間種と魔族による、種の存続を懸けた地獄の様な戦争が始まる。

その最悪の事態を防ぐ為の、マルテ率いる共存派の革命。


「はい。私は依然として、マルテ王女を支援する意向です。ロイセン帝国の皇帝と実際に話しましたが、彼は常に帝国の拡大を目論んでいます。グランザールで人間主義者が革命を成功させれば、皇帝は間違いなく参戦してきます。そうなればもう、最悪の事態です」

「そうか。皇帝か……確かに彼ならば、やりかねないだろうな」

「貴方はまだ、マルテ王女に懐疑的ですか?」

「彼女が優秀なのは理解している。可能な限り支援もするつもりだ。だが、やはり決め手に欠けると私は思う」

「ベフルース会長も、同じお考えなのですか?」

「……ああ、そうだな。会長もそう言っていたよ」

「そうですか……やはり、マルテ王女には具体的な政策を前もって提示してもらう必要でしょうね。彼女は、自分達だけで決めていい問題ではないといっていましたが……彼女の考えだけでも、聞いておきたい」

「そうだな。私も気になるよ、彼女の解決策が」


モーフェルを名乗る魔王は、優しい笑みを浮かべている。

当然、それは見せかけだけの物。その本心は、魔王本人以外には誰にも分からない。

マルテに対する信頼度を聞き出した事で、魔王は次の話題へ移った。


「それで、魔王を倒す目途は立ったのかな?」

「正直に申し上げれば、魔王を殺せる光景は思い浮かびません」

「やはり、魔王は手強いか?」

「そうですね……魔王が従える者達が、あとどれだけ居るのか。それが分からないだけでも、かなり厄介です」

「そうか。まあ、焦る必要はない。君が居る限り、希望は無くならない。君こそが、我々の救世主なのだから」

「その期待を裏切らない為に、最善を尽くします」

「ああ。武運を祈る」


モーフェルは心の底から、燈継の武運を祈った。

完全に油断している今の燈継なら、容易く殺せるだろう。

しかし、それはしない。勇者はまだ必要な存在だから。

易々と死なれては、魔王の計画が狂ってしまう。

魔王のが思い描くシナリオ通りに、勇者には戦って貰わなければ……。


「そう言えば、魔王が王都襲撃をした際は、ご無事でしたか?今見た限りは、特に大きな怪我もなさそうですが……」

「……ああ。少し危なかったが、どうにか帰れたよ」

「それなら良かった」


心の底からモーフェルの身を案じる燈継に、魔王は皮肉から来る笑みを浮かべていた。

自分を殺そうとした相手に心配されるという状況は、笑みを浮かべる以外に出来ない。

もしここで自分が魔王だと明かしたのなら、勇者は一体どんな顔をするのだろうか。

そんな有り得ない事態を起こさない為にも、モーフェルという人物を演じなければならない。

そして、勇者に僅かな疑いを持たせない為にも、万全を尽くす。


ゾクッ!


「っ!?この感覚は!?」

「ん?どうかしたのか?」

「モーフェルさん。今直ぐに安全な所へ。恐らく……魔王軍の襲撃です」

「なんだと?」


直後、燈継とモーフェルが座るベンチの前方に、黒い光が降り注いだ。

燈継は既に戦闘態勢に入っている。その少し後ろから、モーフェルが降り注ぐ黒い光を注視していた。

普通なら恐怖を抱く光景でも、当然モーフェルは何も感じない。

全ては、彼自身が仕組んだ事なのだから。

黒い光から姿を現したのは、漆黒の仮面を被り、漆黒のマント羽織った人物。

燈継はその姿を知っていた。この世界で、絶対に殺さなければならない相手。


「魔王!」

「勇者よ。我が闇に葬ってやろう」


燈継は真正面から、魔王に突撃した。

魔力操作が上達した燈継の速度は、王都で戦った時を遥かに超えていた。

燈継の攻撃を受け止める魔王と共に、勢いに乗せてその場を離れていく。

少しでも周りに被害が及ばない場所で戦わなければ、王都の時の様に甚大な被害がでる。

モーフェルと居た所から大幅に離れた燈継は、魔王を突き飛ばして距離を取った。

凄まじい勢いで飛ばされ魔王は、華麗に着地して次の攻撃に備えた。


「俺を殺しに来たんだろ!望むところだ!」

「そう熱くなるな。まだ、始まったばかりだ」

「いいや、終わらせる!」


再びぶつかり合う燈継と魔王。

しかし、それは有り得ない光景だった。

本当の魔王は、燈継の隣で会話してたモーフェルだ

では、魔王の姿をしたあの者は、一体何者なのか。


「ベストタイミングだ。我が忠実なる(しもべ)。魔王軍幹部<双面>のルクスよ。その調子で、少し時間を稼いでくれ」


魔王の姿をした者の正体は、魔王軍幹部<双面>のルクス。

彼は契約魔将とは違い、魔王に絶対の忠誠を誓う存在。

魔王が自分の姿を預ける程に信頼している。


(勇者には、モーフェルという男に対して、疑いを持つ事はないだろう。目の前で魔王が現れたんだ、横にいた私が魔王とは思わないだろう)


最も、魔王が仮面を付けて姿を晒している以上、その中身はいくらでも挿げ替える事が出来る。

もしかしたら、王都に出現した魔王すらも偽物かもしれない。

しかし、本物か偽物か分からない以上、魔王を名乗る存在は倒さなくてはならない。

何より、<双面>のルクスは、魔王としての役を完全に果たす事が出来る。

それこそが、彼の能力なのだから。


「さて、この間に私も仕事を終わらせるか」

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