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紅の天才魔導師


「くそっ!魔力が留められない……」


ゼロ魔法を習得する為、ひたすらに鍛錬に励む燈継。

しかし、その道は険しく、未だに感覚すら掴めていなかった。

今までの出力で魔力を放出すれば、魔力を留める事が出来ずに分散してしまう。

一方で魔力の分散を防ごうとすると、魔力の出力が大幅に落ちる。これでは、敵にダメージを与える事は出来ないだろう。


「燈継。私がコツを教えてやってもいいぞ」

「ラーベも完全な習得者じゃないだろ」

「それでも、感覚は何となく分かるぞ。こう意識を集中して……」


燈継に指導できるのが嬉しいのか、これ以上無く嬉しそうなラーベ。

彼女もゼロ魔法の習得に励みたいと言った所、エリオは既にラーベがゼロ魔法を局所的に使用していると見抜いた。


「私がゼロ魔法を習得していると?」

「ああ。完全に習得している訳ではないが……何かしら技を使う際にゼロ魔法を使ったのだろう。魔力の流れから、一度は確実に使用したはずだ」

「特に記憶は……」

「君が持つその剣は風神剣か?ならば、その風神剣の暴風を剣に極限まで収束させるのは、ある種ゼロ魔法の要領に近い。恐らく、戦いの中でその技を使う才に無意識にゼロ魔法に至ったのだろう。鍛錬を積めば、君もゼロ魔法を完全に習得できるはずだ」


ラーベは過去の戦いを振り返り、ゼロ魔法に至る戦いに心当たりがあった。

それは、魔王軍契約魔将バウンザー・ロウとの戦い。彼との戦いの中で、極限まで風神剣の暴風を収束させる<絶閃>を習得した。

それこそが、ゼロ魔法へ至るきっかけだったのだろう。

エリオに言われて初めて意識したが、ラーベは自身の魔力がこれまでよりも滑らかで、その流れを敏感に感じ取る事が出来た。

後は鍛錬を積み重ねれば、ゼノスの様にゼロ魔法を完全に習得出来る。

一方で、ローシェは申し訳無さそうに謝罪した。


「申し訳ございません。今回は、勇者様のお役に立てずに……」

「ローシェが謝る必要なんてない。これは、単純な役割分担だ。ローシェには、俺達が出来ない事を任せてる。だから、気にしないでくれ」

「勇者様……ありがとうございます」


当然、ローシェもゼロ魔法習得に意欲を示し、鍛錬に取りかかろうとした。

しかし、エリオはローシェには習得出来ないと断言した。


「彼女の聖典魔法は……というよりもエルリア教の神官は、魔力の扱い方の根本が我々とは少し違う。祈りによって魔法を行使する神聖魔法。聖典に記された魔法を顕現させる聖典魔法。どちらも普通の魔法とは異なる」

「しかし、この魔力はエルリア教の神官になる前から宿しております。その魔力も、普通とは少し違うと言うのですか?」

「ああ。エルリア教の神官になる為の儀式を受けたと思うが、あれが君達神官を特別な存在へと変えている。別に気に病む必要は無い。君の聖典魔法や神聖魔法は、ゼロ魔法の習得とは有無に強力だ。君は、自分の道を極めればいい」


世界最強の魔導師がそう断言する以上、ローシェはゼロ魔法を諦めざるを得ない。

しかし、ローシェは聖王によって聖典魔法の新たな力を手にしている。

ラーベもゼロ魔法を感覚として掴んでいる。

今、最もゼロ魔法の習得を急ぐ必要があるのは燈継自身。それを理解しているからこそ、焦りと自分に対する怒りが湧いてくる。


(どうして出来ないんだ……身体強化はこの世界へ来て直ぐに身に付けた。最大出力を保ちながら、魔力を留める事がこんなに難しいとは……)


自身の大きすぎる魔力の制御の難しさを、初めて理解した燈継。

そもそもの魔力量が少ない魔導師なら、魔力の出力も低く魔力操作は行い易い。

しかし、この膨大な魔力量と、類稀なる魔法の才を持っていたからこそ、短期間でこれ程までに成長できた。


此処へ来て、燈継は初めて大きな壁に直面している。

燈継の苛立ちを感じ取ったラーベは、燈継に何とかして感覚を伝えようとするが、魔導師ではないラーベでは感覚の共有は難しい。

エリオが付きっきりで燈継に指導しないのは、エリオ曰くゼロ魔法は自分で感覚を掴むしかないという事らしい。

そう、自分で掴むしかない。誰でもない、自分で感覚を掴まなくては、ゼロ魔法には辿り着けない。


「ふーん。あんた達が勇者一行?大した事なさそうね」


燈継達が鍛錬している場所は、他の魔導師が邪魔しない様にエリオが特別に用意した場所。

そんな場所に、見知らぬ人物が立っていた。

紅い長髪を左右二つに束ねて、彼女が歩くと同時に左右の髪は揺れている。

近づいてくる彼女の瞳は、髪色と同じく美しい紅い瞳。

整った顔立ちは僅かに幼さを残し、美しい女性と呼ぶより、美少女と形容させるだろう。

燈継に近寄ると、僅かに目線が下にある彼女は、上目遣いで睨みつけた。


「……誰だ?」

「私はアテラ・リッテンノーグ。エリオ様に天才と言われる魔導師よ」

「その天才魔導師が何か用か?用が無いなら、出て行ってくれ」


アテラの態度が好意的な物ではなかった事に加え、燈継自身に募る苛立ちから、燈継の語気を強めた。

燈継に冷たい態度を取られても、アテラは態度を変えない。

あくまでも自分が上の立場として、燈継を挑発する。


「勇者がどの程度か見に来ただけよ。まあ、期待外れだったけど」

「そうか。じゃあ、満足したなら消えてくれ。こっちは忙しいんだ」

「ゼロ魔法の習得も出来ない貴方に、世界を救えるのかしら?」

「貴様、いい加減にしろ!これ以上燈継を侮辱するなら、私が許さないぞ」

「おばさんは黙ってないさよ」

「おばっ!?」

「あら違った?どうせ数百歳のおばさんなんでしょ?」


ラーベは確かに五百歳以上の年齢を重ねているが、長命種のエルフなら若い部類に入る。

見た目も若く、これから先もその美しさを維持し続ける事が出来る。

そんなエルフに対して、アテラは嫌味たらしく言葉を紡ぐ。


「さっきから言っているが、用が無いなら消えてくれないか?」

「用なら今できたわ」

「は?」

「私が貴方より強い事を証明して、私が勇者として魔王を倒すのよ」

「「っ!?」」


燈継は呆れて言葉が出ない。ラーベとローシェは、驚愕のあまり言葉が出ない。

勇者の称号を奪い取ろうとする彼女は、自身に満ちた笑みを浮かべてそのを宣言した。

彼女がどの国の人間かは知らないが、外交問題に発展しかねない発言。

恐れを知らないこの少女は、更に言葉を続ける。


「もし私が勇者になったら、目の前で誰も死なせない。全員救ってみせる。それが貴方に出来るかしら?」


どうやら、アテラは相手の神経を逆撫でするのが得意なのだろう。

燈継はアーラインに育てられる過程で、アーラインからこれでもかと散々な言葉を言われた。

大抵の挑発は、アーラインの言葉に比べれば何も感じない。

しかし、それは普段の燈継だったらの話。

今の燈継は苛立っていた。何よりも不甲斐ない自分自身に。

そんな燈継の心情を知らず、これまでの戦いも知らず、好き勝手に言葉を並べるアテラに、燈継の怒りは一線を越えた。


「いいだろう。お前が俺に勝ったら、勇者の聖剣をくれてやる」

「燈継!?何を言っている!」

「そ、そうです勇者様!落ち着いてください!」


ラーベとローシェが、慌てて燈継に駆け寄った。

何とかして燈継を宥めて冷静さを取り戻させたいが、燈継の体に触れただけで分かる。

怒りから放出される魔力には熱が籠っていて、もう二人では止める事が出来ない。


「言ったわね?負けた後に懇願しても、その言葉は取り消せないわよ」

「ああ。契約書でも何でも持ってこい。その代わり、お前が負けたらラーベに謝罪してもらうぞ」

「え?」

「は?」


思わぬ提案にアテラは理解できず、名前が出されたラーベも驚いていた。

燈継は悪い笑みを浮かて、反撃に出る。


「どうせ唯の嫉妬だろ?あと数十年でお前はババアだが、ラーベはどれだけ経っても美人だからな」

「ひ、燈継!?な、何を急に!?」


突然美人と褒められたラーベは顔を紅潮させ、嬉しさと照れ隠しで顔を両手で覆う。

これまで燈継に直接的に褒められた記憶がないラーベは、心臓の鼓動が自分でも聞こえる程に高鳴っていた。

一方、思わぬ形で反撃を受けたアテラは、燈継の挑発に乗らない様に反論をぐっと堪えて、冷静さを保つ。

が、言葉以上に自分を見下す燈継の目に、アテラは我慢出来なかった。


「上等じゃない!謝罪でも何でもしてあげるわ!」


こうして、燈継とアテラの戦いが決まった。

勇者の聖剣の譲渡を賭ける等、普通では考えられないが、意外にもエリオが許可を出した事により順調に準備が整えられた。

魔導師同士での模擬戦を行う訓練場を抑え、二人の決闘が行われる。


エルフの女王の血を引き、天才的な魔法の才を持つ燈継。

世界最強の魔導師であるエリオに、天才と認められたアテラ。

二人の天才がどの様な戦いを繰り広げるのか、エリオは楽しみにしていた。


「さあ、この戦いで二人は何を得るかな?」


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