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魔力の使い方


エリオの後に続き、魔法都市を歩く燈継達。

他の都市と同じく、大通りには様々な店が展開され、大勢の人達で賑わっている。

この都市を統治者であるエリオを、この都市の民は心から慕っている。

その証拠に、エリオを見掛けた者達は挨拶を欠かさない。

そんな彼の後ろを歩いている以上、注目の的になるのは致し方ない。


「彼らも、魔導師なのですか?」

「ああ。この都市には魔導師しか居ない。といっても、一般的な魔導師の認識とは意味合いが違うかもしれないが……」

「どういう意味ですか?」

「この都市には二種類の魔導師が居る。一つは、君の様に魔法を学ぶ為に来た者。そして、もう一つがこの魔法都市にしか居場所がない魔導師達だ」

「居場所?魔導師ならいくらでも仕事があるはずでは?」

「そして、その仕事の殆どが、戦う事を求められる」

「……」

「<火球(ファイアーボール)>が使えるだけでも、一般的な兵士よりも価値がある。本人の意志とは関係なく、魔導師というだけで自然と戦場へ駆り出されてしまう」

「つまり、この都市で生活している民達は、魔導師ではなく普通の市民として暮らしたい者達だと?」

「概ねそんな所だ」


魔導師達が、魔導師としてではなく普通の市民とし暮らしたい。

燈継はそれを意外だと思いつつも、少しばかり共感も覚えた。

もはや日常になってしまった命を懸けた戦いも、初めは躊躇いや恐怖があった。

幾度の実戦経験を重ねて、そんな物はとうに消え去ったが……。


「あそこが魔法学園。魔導師達が魔法を学ぶ為の場所だ」

「学校か……」

「何か思うところでも?」

「ええ……少しだけ。私は、あそこで魔法を学ぶのですか?」

「時間があればそうしたいが、勇者である君にはその時間はないだろう?だから、私が教える。最も、私が教えるのは一つだけだが……」


エリオに連れてこられたのは、魔法学園の学園長室。

つまり、エリオの執務室だった。

この魔法都市を統治する為の行政機構は、全てこの魔法学園に集約しており、学校と政府の役割を果たしている。

広い執務室の奥にある自分の席へ着いたエリオは、高級な素材で作られたであろう客人用のソファに燈継達を座らせた。


「さて、早速本題に移ろう。今君に必要な物は何か分かるかな?」

「魔力の使い方……を学ぶ事でしょうか?」

「正解だ。君はその、膨大過ぎる魔力を使いこなせていない」

「その……具体的には、どう使いこなせていないのでしょうか?自分では、よく分からなくて……」

「そうだね。では、まずそこから話すとしよう」


燈継は息を呑んだ。

今目の前に居るのは、世界最強の魔導師。自分に戦いを教えたアーラインの師でもある。

魔法ではなく、魔力の使い方。

その言葉の意味を理解する為に、燈継は緊張の面持ちでエリオの話を聞いた。


「まず、君が魔力を使いこなせていないというのは、魔力を無駄遣いしているという事だ」

「無駄使い?」

「君は一つの魔法を使うのに対し、必要以上の魔力を消費している。結果として、魔力が溢れて消耗が激しく、魔法も最大の威力を発揮できていない」

「っ!?」


衝撃の言葉だった。

今まで、ここぞという時は最大の魔力を込めて魔法を使って来た。

しかし、それが逆に魔法の威力を落としていたという事実。

魔力を込めれば込める程、魔法の威力は上がる。

そう認識していた。それが、大きな間違いだったというのか……。


「と言うと、君は最大の魔力を込める事は間違いだったと思うだろう」

「っ!?違うのですか?」

「ああ。魔力を込める事は間違っていない。しかし、魔力の込め方が間違っているんだ」

「魔力の込め方?」

「魔力の込め方とは、つまりは魔力操作。これが、君の言う魔力の使い方の意味だ」

「魔力操作……でもそれは、魔法の基礎である身体強化の様な技術では?それが、出来ていないというのですか?」


にわかには信じられない。魔力を身に纏う身体強化は、魔法の基礎。燈継はこの世界に来て、直ぐにそれを身に付けた。

身体強化を習得した後は、ひたすらに魔法の習得に励み、実戦を想定した模擬戦を繰り返して修行していた。

そのおかげで、短期間で魔王軍と戦えるレベルまで成長できた。


「では、アーラインの修業が間違っていたと?」

「いいや、それは違う。彼のやり方は間違っていない。短期間で実戦を行える様になる為には、あれが最善だった。それに、今から君に教える魔力操作は、実戦を知らずに習得できる物ではない。特に魔導師は……」

「それは一体……」

「究極の魔力操作にして、原初の魔法。その魔法を<ゼロ魔法>という」

「<ゼロ魔法>?」


複数の属性の魔法、精霊魔法、至高の魔法である古代魔法をも行使する燈継。

その燈継でも、その魔法の名は聞いた事が無かった。

というよりも、教えられていない。アーラインから詰め込まれた魔法の知識の中に、その魔法は無かった。

アーラインがそんな魔法を知らないはずがない。ならば、どうして教えてくれなかったのか。

その疑問に、エリオが答えた。


「先程も言ったが、これは実戦経験も無しに習得できる物ではない。数多の実戦を経て、君は自分自身で弱さを知った。そうして初めて、この<ゼロ魔法>に辿り着く。アーラインが君に教えなかったのは、実戦を知らずに教えても習得が不可能だからだ」

「……分かりました。では、早速」

「そう慌てるな。この<ゼロ魔法>は、魔法と呼んでいるが他の魔法とは違う。言っただろう?究極の魔力操作だと。他の魔法の様な認識では、習得は不可能だ」

「究極の魔力操作……」

「そうだな……まずは、魔力を身に纏ってくれ」

「はい!」


立ち上がった燈継は、言われた通りに実戦と同等の魔力を身に纏う。

無意識でも発動する程、体に馴染んだ身体強化。

膨大な魔力を持つ燈継だからこそ、纏える魔力も多い。

それを見たエリオは、席を立ち燈継に近づいた。


「では、今から君を片手で押す。君は敵から攻撃を受けると思って、防御してくれ」

「はい!」

「言っておくが、少しでも油断したらこの部屋から飛ばされるよ」

「っ!」


エリオがゆっくりと右手を伸ばしてくる。

燈継は言われた通りに、それが敵の攻撃と想定して更なる魔力で身を纏う。

燈継に触れようとする右手には、魔力を感じる。ゆっくりでありながら、確かな魔力を感じる。

そして、エリオの右手が燈継に到達した。


「っ!?」

「燈継!」


まるで何かが弾け飛ぶ様に、燈継は衝撃で後ろに飛ばされた。

場所的に受け止めやすい場所にいたラーベが、飛ばされた燈継の体を受け止める。

そして、エリオの手が触れた燈継の腕は、痺れて震えていた。


「こ、これが……」

「分かり易い様にやったつもりだが、要するに君の魔力は分散している。その膨大な魔力の放出は凄まじいが、同時に多くの魔力を無駄にしている。その状態では、魔力の消耗も激しく魔法の威力も落ちる」


(究極の魔力操作……そういう事か!)


燈継は今、完全に理解した。

エリオの右手が触れた瞬間、想定よりも重く強い魔力を感じた。

ゆっくりと近づいたあの右手には、凄まじい魔力が込められていた。

しかし、それでいてエリオの魔力は静かだった。燈継が同等の魔力を右手に込めようとすれば、凄まじい魔力を放出をする。

それが、実際には多くの魔力を無駄にしていた。最大の威力も発揮できていなかった。

究極の魔力操作<ゼロ魔法>。これは、必ず習得しなければならない物だ。


「<ゼロ魔法>を習得している者と、習得していない者には、決して埋められない差がある。君が、ゼノスに勝てなかった様に……」

「では、ゼノスも<ゼロ魔法>を?」

「ああ。原初の魔法と呼ばれても、実際は魔力操作だ。魔導師以外にも習得している者は居る。むしろ、魔導師の方がこの<ゼロ魔法>を習得するのは難しい」

「何故ですか?」

「剣士や武闘家。つまりは魔法を使わない者達は、自身の技と魔力を最大限生かすしかない。そうしている内に、技と魔力が研ぎ澄まされて<ゼロ魔法>に至る。ゼノスの様に完全に習得している者も居れば、自身が極めた技を使う瞬間のみ、<ゼロ魔法>を無意識に使っている者も多い」

「成程……」

「一方で、魔導師はその魔力を使って魔法を使う。魔力操作が拙くても、強力な魔法は使える。それが当たり前になってしまえば、<ゼロ魔法>に至る事は不可能だ。君の様に、更なる強さを求めない限りは……」

「更なる強さ……」


そうだ。この<ゼロ魔法>を習得しなければ、この先の戦いで勝つのは不可能だ。

旧魔王軍最強の幹部ゼノス。失楽の堕天使ジュトス。魔王妃ルシエラ。

魔王軍の脅威は、これに留まる事はないだろう。他にも化物が居るはずだ。


(だから……)


必ず<ゼロ魔法>を習得してみせる。もう二度と、負けない為に……。


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