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語られる真相-3


「成程、良く分かった」

「私に思い当たるのは、これだけです」

「間違いない。それが君の鍵だ」


燈継の話を聞かされた聖王は、それこそが冥界の扉を開ける鍵だと確信した。

その話が真実だとして、ラーベには疑問が残る。

先代勇者も同じ血を引いているのなら、冥界の扉を開けていなかったのか。

五百年前は戦いに参加していなかったラーベは、率直にアーラインに尋ねた。


「アーライン。先代勇者様も、燈継の様に異界接続をしていたんじゃないのか?」

「いや、蒼義は冥界の扉を開けていない」

「何故だ?燈継に流れる血が鍵ならば、先代勇者様も……」

「ラーベ。異界接続に鍵が必須だが、鍵があれば誰でも扉を開けられる訳じゃない」

「そうなのか?」

「ああ。扉を開けるには、膨大な魔力が必要だ。恐らく、蒼義にはそれだけの魔力は無かった。だけど、燈継には我らが女王陛下の血も流れている。その膨大な魔力も受け継いでいる燈継だからこそ、扉を開ける事が出来たんだ」

「そういう事か……」


冥界の扉を開ける為の、鍵と膨大な魔力。

先代勇者熾綜 蒼義(しそう あおぎ)がこの世界に召喚され、後に女王となるエルフと結ばれ子を宿す。

今日に至るまでの全ての歯車が嚙み合わなければ、今の結果は有り得ない。

これを、運命と呼ばずに何というのだろうか。


「聖王陛下。私が冥界の扉を開けたとして、堕天使を倒す事が出来たのはなぜですか?」

「簡単な事だ。君は冥界の魂を従えた」

「た、魂?」

「そうだ。冥界に彷徨える魂を従えて、その堕天使の魂を砕いた」

「今一つ話しが掴みにくいのですが、私は魂を従える事が出来ると?そんな事が許されるのですか?」

「正確に言えば、君は魂達の無念を晴らした。堕天使に殺された魂達は、その恨みや怒りを晴らす手段がない。しかし、君が冥界の扉を開けて、その魂達を束ねた。本来、魂一つでは何もできないが、君がその魂達を束ねた事で、魂の力を引き上げた」

「その束ねた魂達で、堕天使の魂を砕いたと?」

「如何にも。魂に干渉出来るのは魂だけだ。如何に強靭な肉体を有していても、魂の一撃は防ぐ事が出来ない。外傷はなくとも、魂を砕けばその器たる肉体は意味を成さない」


どんな強靭な肉体でも、魂の一撃は防ぐ事が出来ない。

ならば、どんな敵でも一撃で屠れる。

これから先、どんな敵が立ちはだかっても、この力があれば決して敗北しない。

是が非でもこの力を物にしたい燈継だが、大きな力を扱う為には、それ相応の代償が必要だ。


「聖王陛下。この力を物にする為には、どうすれば……」

「残念だが、そう簡単な話ではない。今回君も身をもってしたはずだ、冥界の扉を開けるリスクの高さを」

「っ!?」

「はっきりと言っておくが、君は一歩間違えれば死んでいた。冥界に魂を置き去りにして、現世に戻れなくなっていたかもしれない。どんな奇跡が起きて、君が生還したかは分からないが……この力は多用するものではない」

「そんな……じゃあこの力は、一体何の為に?」


力は使えなければ意味がない。

この力があれば、魔王軍との戦いで優位に立てる。

五百年前、誰一人倒せなかったゼノスですらも、この力があれば倒せると思っていた。

しかし、死んでいった人々の魂を従えるというのは、やはり常軌を逸している。

人ならざる力。もしこの力を使えば、次は本当に戻ってこれなくなるかもしれない。

失意に表情を落とす燈継に、聖王は優しく語り掛けた。


「そう焦るな。多用はするなと言ったが、使うなとは言っていない」

「っ!?では、安全に使う手段があると!?」

「あるにはある。しかし、君一人では無理だ。ローシェ、彼女の力が必要だ」

「ローシェ?なぜここでローシェの力が?」

「聖王様。私……ですか?」

「そうだ。正確には、聖典魔法の力を使えば、魂を正しく導く事が出来る」

「っ!?聖王様。まさか、私の聖典を……」

「察しの通りだ。君の聖典を……全章解放する」

「よろしいのですか?私などが……」

「勇者の供である君には、むしろ必要な事だ」


聖王とローシェの間で交わされる会話に、疑問を挟む余地はない。

聖典の全章解放。それは、聖王を含む選ばれた一部の神官だけに与えられる特権。

聖典魔法は、章が進むに連れて強力な魔法となっていく。

今のローシェが扱えるのは、前半の章。これを、解放の儀により後半の章も解放する。


「勇者よ。君が安全に異界接続を果たす為の全てを、ローシェに伝えておく。彼女の言葉に従い、決して無理はするな」

「ありがとうございます。聖王陛下」

「だが、一つだけ胸に留めておいてくれ。君が安全に異界接続を果たせると言っても、これは君の切り札になりえない」

「どうしてですか?この力があれば……」

「君は地上世界の生命だ。本来、冥界に足を踏み入れていい存在ではない。もし君が、その認識を軽く捉えているなら……魂は冥界に引きずり込まれるだろう」


この力は、使う事を前提にしてはいけない。たとえ、切り札としても。

しかし、それは今の燈継にとっては耐え難い事実だ。

全力を賭しても勝てない強者との遭遇、愛する人を守れなかった無念。

今の燈継には、力が必要だ。それが例え、どんな力であったとしても。


「聖王陛下。今の私には、力が必要です。それが、たとえどんな力でも。だから、私はこの異界接続を使います。この身がどうなろうとも……」

「燈継……」


燈継の言葉には、様々な感情が込めれられていた。

怒り、悔しさ、悲しみ。もう、敗北は許されない。

勇者が敗北すれば、あるのは絶望だけだ。もう二度と負けられない。

勇者としての覚悟と使命感を胸に、燈継は聖王に訴えた。


「良い覚悟だ。しかし、君は大きな勘違いをしている」

「どういう意味です?」

「君は、異界接続に頼らずとも強くなれる」

「っ!?」

「その膨大な魔力。君が扱い方を知らないだけで、凄まじい可能性を秘めている」

「では、聖王陛下がその扱い方を教えて下さるのですか?」

「私は魔導師ではない。私よりも適任な人物は知っているがな」


チラっと視線をアーラインに移す。

燈継に戦う術を教えたのは、アーラインだ。

確かに、アーラインならば燈継の事をよく知っているし、指導者として適任だろう。

燈継の思考を読み取ったのか、その視線にアーラインが応えるが、返答は意外な物だった。


「残念ながら、僕じゃないよ」

「え?違うのか?だって……」

「僕よりも適任だよ。だって、彼は世界最強の魔導師だから」

「世界最強の魔導師?」

「ああ。彼の名は、エリオ・リンドハルム。魔法都市の統治者にして、世界最強の魔導師だ」

「エリオ・リンドハルム……」


突如として告げられた、世界最強の魔導師の存在。

あのアーラインをして世界最強と言わせるという事は、その実力は疑う余地はない。

つまり、その世界最強の魔導師のもとで、燈継は魔力の扱いを覚える為の修業を行う。

この瞬間、次の目的地は決まった。


「勇者よ。君が次に向かうのは、魔法都市だ。そこで、君は新たな力を手に入れるはずだ」

「では、直ぐにでも……」

「焦る気持ちは分かるが、もう少しここで体を休めなさい。今は、それが君の役目だ」

「……分かりました」

「では、私はこれで失礼するよ。何かあれば、遠慮なく言ってくれ」

「聖王陛下。最後にお聞きしたい事があります」

「ああ。私に答えられる事なら」

「世界の意志は、実在しますか?」

「……」


その問いに、部屋の空気が凍り付くのを感じた。

聖王の雰囲気が、今までとは少し違う。

ラーベやローシェは、燈継の問いの意味が分からなかった。世界の意志という言葉を初めて聞いた。

しかし、アーラインだけは表情を崩さずに、聖王の返答を見守っていた。


「世界の意志……その言葉をどこで?」

「星界の巫女が、世界の意志に従い私を召喚したと。ですが同時に、その世界の意志が魔王も召喚したというのです。もしそれが事実ならば、私は世界の意志を討ち滅ぼす必要があります」

「……その存在自体は、聞いた事はある。しかし、明確にその存在について知っている訳ではない」

「では、星界の巫女が嘘を付いている可能性もあると?」

「何とも言えない。星界の巫女と会った事が無い以上、私が全てを断定できない。しかし、その問いは、星界の巫女を疑っているのか?」

「はい。彼女は言いました。魔王が私と同じ世界から召喚された、人間の可能性があると」

「「「っ!?」」」

「それは本当か燈継!?何故今まで黙っていた!?」

「確証が無かった。嘘でも真実でも、この情報が世界に知り渡れば混乱は避けられない。その混乱に乗じて、魔王が何か仕掛けてくる可能性もあった。だから、まずは世界の意志について暴きたい。聖王陛下なら、何か知っているかと思いましたが……」

「残念ながら、私にも明確な回答は出来ない。すまないな」


あの日、星界神殿で聞かされた言葉。

世界の意志が、魔王と勇者を召喚した。それも、同じ世界から。

魔王が人間だとしても、あの男の存在を許す訳にはいかない。奴は必ず倒す。

しかし、星界の巫女が真実を語っていたのなら、今の魔王亡き後に、世界の意志は再び魔王を召喚すのだろうか?

その答えは、分からない。


(世界の意志に辿り着くには、まだピースが足りない。世界最強の魔導師なら、何か知っているかもな……)


魔王が人間だという可能性について協議した結果、その情報は確証が得られるまで秘匿される事となった。

帝国の皇帝は、既に国内に魔王軍が潜入していると考え、疑わしき者は即座に拘束または処刑している。

魔王が人間かもしれないと知れば、皇帝はより過激に国民を抑圧するだろう。

それが帝国に留まらず各国の王達にも波及すれば、国民はいずれ我慢の限界を迎える。

その結果、その国民達の不満を利用した、人間主義者達の革命が起きるかもしれない。

最悪の事態を想定した決定ではあるが、今はそれが正しい判断に思えた。


「ええと……僕からも一ついいかな?あの女と戦って得た情報だ」

「あの女から得た情報?」

「ああ。魔王の居城は、恐らく巨人族が統べる大地。レフィリアの大地にある」

「「「っ!?」」」


全員が驚愕を露わにする。

当然だ。何処からともなく現れる魔王の居城を突き止めたのなら、そこへ総攻撃を仕掛ければ、決着は付く。

勝つ為には膨大な準備が必要だが、それでもこの情報を知っていると知っていないのでは、大きな差がある。

一方で、その情報が果たして信用できるのか、連合軍を誘い込む為の罠の可能性もある。


「罠じゃないのか?普通、そんな簡単に居城は明かさない」

「普通ならね。でも、あの女は馬鹿だったから、巨人族を滅ぼして自分達が支配している事を明かして、僕を恐怖させようとしていたんだ。確証を得る必要はあるけれど、確かめるだけの価値はある」

「しかし……レフィリアの大地か。それは何とも、厄介な場所だ」

「聖王陛下の仰る通りです。魔王もよく考えているようで……非常に厄介です」

「ともあれ、その件に関しても、確証を得るまでは伏せるのが良いと思うが……勇者である君の意見はどうだ?」

「賛成です。魔王がこちらの動きに勘付いて、拠点を変えられても厄介です」

「よし。では、協議はこの辺りにして、我々もやるべき事をしよう。行くぞ、ローシェ。儀式の間にて全章解放を行う」

「はい!では、勇者様。何かございましたら、何時でもお申し付け下さい」

「ありがとう。ローシェも頑張ってくれ」

「はい!」


聖王はローシェを連れて部屋を出て行き、儀式の間へ向かった。

聖王達が去った後、聞かされた真実を噛み締めて、燈継は自分の手の平を握り締める。

異界接続。冥界の扉を開けた事は、聞かされたとしても信じられない。

しかし、その力も決して真っ当な力ではなく、大きなリスクがある。

本当の強さを手に入れなければ……この先の戦いには、勝てない。


(エリオ・リンドハルム……世界最強の魔導師か)


「じゃあ、僕はそろそろ失礼するよ」


燈継が新たな決意を胸に刻んだ時、役目を終えたアーラインが立ち上がった。

女王からの命令を果たし、燈継を安全に送り届けた上に、大きな土産まで手に入れた。

自分が育てた燈継の、更なる成長を見届けたい所ではあるが……早く帰らないと女王自らこの国に来てしまう。


「アーライン。来てくれて助かった」

「女王陛下のご命令だからね。まあでも、君が無事でよかったよ」

「母さんには、心配かけてごめんって言っておいて」

「ああ、伝えとくよ。ついでに、ラーベが燈継のファーストキスを奪って話も」

「はあ!?な、何を言っているんだアーライン!?あ、あれは燈継から私にっ!?」

「適当に言ってみたけど、本当にしたんだ」

「っ!?き、貴様!」

「相変わらずのお馬鹿さんだね。じゃあね燈継、武運を祈るよ!」

「……」

「まったく!あの男は、何時か本当に痛い目に合わせてやる!」

「なあ、ラーベ」

「な、何だ燈継?」

「あれ、カウントするのか?」

「……」


沈黙。ラーベの頬が赤く染まる。

戦場では頼れる仲間でも、今は一人の乙女。

凡そ普段の振る舞いでは想像できないか弱い声で、ラーベは訊ねた。


「したら……ダメなのか……?」

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