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待ち構えた強者


「良い作戦だな」

「え?」

「帝国軍の事だ。ここまでされたら、普通は勇者一行の特定は出来ない」

「しかし、魔王様は全てを支配するお方。たとえ帝国軍といえども、魔王様から逃れる事は出来ません」


魔王はザキエルの言葉を聞き流し、頭の中で思考を巡らせていた。

勇者一行は、既に特定している。こちらに優秀な()が居る以上、勇者の動向を把握するのは容易い。

しかし、ここで本命の勇者だけに攻撃を仕掛ければ、帝国軍を始め勇者達に魔王軍の潜伏を教えているも同然。

それは避けるべきだ。今ここで魔王軍の諜報員を徹底的に探られると、こちらの仕込みが露呈する可能性がある。

ならば、ここはある程度魔王軍の潜伏を匂わせつつ、少しばかり疑心暗鬼にさせるくらいが丁度いい。


「ザキエル。待機している三人に通達。当初の予定通り、攻撃を開始せよ」

「かしこまりました」


◇帝国軍第六軍 勇者一行


「まずいな……」


魔王の攻撃命令が下ると同時に、帝国軍には魔物の集団が襲い掛かる。

四足歩行の獣型の魔物は、個体毎の脅威は少ない。

帝国軍の突破力なら、いとも容易く蹂躙できる。

だが、問題はその数。

初めは勢いよく中央突破をしていた帝国軍だが、次第に手数の多い魔物集団に勢いが失われていく。

前後左右から包囲を受けた状況で、失速して止まる訳にはいかない。


「アグエス将軍!このままでは!」

「くそっ!……致し方ない。守護者殿のお力を借りるとしよう。彼女の風神剣ならば、突破口を切り開ける」

「分かりました。守護者殿に伝えて参ります」

「頼んだ!」


ラーベには援護不要と伝えたアグエスだが、予想以上の魔物の数にラーベの風神剣を必要とした。

そこに、アグエスは違和感を感じた。

この魔物の集団は、恐らく魔王軍の差し金。

ここに勇者一行がいると分かっているのなら、なぜ契約魔将等の強力な敵が襲ってこないのか。


「……まさか!?」


守護者は必ず勇者と共に居る。

その守護者が持つ風神剣が振るわれたのなら、その集団こそが勇者を護送している本命。

つまり、この魔物の攻撃は、守護者を炙り出す為の……。

アグエスがその答えに辿り付いた時、前方の魔物集団が暴風によって薙ぎ払われた。

それは、風神剣が振るわれた証。


「っ!?遅かったか!帝国軍兵士に告ぐ!戦闘に備えよ!我々が本命だと露呈した!」


その言葉を聞いて、帝国軍兵士は僅かに困惑の表情を見せる。

他の兵士は、アグエスの様な解答に辿り着いていない。

しかし、軍を率いる帝国軍将軍が命令したのなら、彼らは従うまで。

全身全霊で周囲を警戒して、速度を上げる。


「奴は!?」


アグエスの視線の先に、一つの人影が見える。

遠くから見ても、その巨体は窺える。

迫り来る帝国軍を前に、避ける訳でもなくただ立ち塞がる人影。

アグエスは瞬時に理解した。


「魔王軍襲来!契約魔将だ!正面から圧し潰す!」


契約魔将の恐ろしさは、帝国軍の誰もが知っている。

だからこそ、その恐ろしさに勝利する為に備えて来た。


「全軍!魔剣解放!簡易魔防壁展開!」

「「「はっ!」」」


帝国軍の精鋭に与えられた二つの武器。

威力と切れ味を上昇させる魔剣と、身を守る簡易魔防壁。

純粋な身体強化では無しえない、武装による強化。

魔剣も簡易防壁も、十三至宝や高価な魔剣等に比べれば劣っている。

しかし、これを軍単位で用意できる生産力こそが、帝国軍の強さ。

無敗の帝国軍は、もう終わった。

それでも、ただ敗北を享受する事は無い。敗北の中から、次の勝利を掴み取る。


「正面からくるか……そう来なくてはな」


腰を落とし、足を大地に固定する。

右腕を引いて、その拳は矢を放つが如く引絞られた。

向かって来る帝国軍の軍勢を前に、拳に魔力を込める。

そして、その拳は帝国軍に向けて、勢いよく突き出された。

直接触れた訳ではない。拳は何も無い空間を突き破る。


「っ!?」


そして、アグエス率いる帝国軍は、凄まじい威力の衝撃波に吹き飛ばされた。


「うっ……燈継!?無事か!?」

「あ、ああ。何とかな」


突如として目の前から襲い掛かった衝撃波。

前方の帝国軍が吹き飛ばされた瞬間、ラーベは即座に燈継の守りを優先した。

燈継を抱きかかえ、馬車を飛び出した。

勢いよく外に放り出された燈継だが、ラーベが力強く抱きしめてい為、特に外傷はない。


「ローシェ!居るか!?」

「はい!私は大丈夫です!」


少し離れた所で、ローシェの無事も確認できた。

神官の戦闘能力は低いと言われているが、ローシェは意外にも身のこなしは悪くない。

司教ともなれば、魔物討伐等でそれなりに実戦経験は詰んでいるのだろう。

自分の身は自分で守る程度には、ローシェも動く事が出来る。

ならばここは、ローシェに燈継を任せて、自分は自分の使命を果たさなければならない。


「その佇まい。分かるぞ。お前が守護者だな」

「如何にも。私が、クリスタル王国の守護者ラーベ・ルシスだ。貴様は一体何者だ」


ラーベの視線の先に居るのは、大きな獣人。

赤い血の様な毛並みに流れる縞模様。口から見え隠れする鋭い牙。

鋭い目つきは、ラーベを獲物として捉えている。

赤い虎の獣人。その男の名は……。


「魔王軍契約魔将が一人。『剛拳』バウンザー・ロウ。守護者と、手合わせ願いたい」



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