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父の遺品


一週間前、父が死んだ。

車に引かれそうな子供を庇い、命を落としたらしい。葬儀の時に助けた子供の両親から、涙ながらに感謝と謝罪の言葉を言われた。

父らしい最後だと思う。他人の子供の命を庇う事なんて、誰もが出来る事ではない。

だから、父を誇りに思う。


涙を枯らす程泣いた後は、意外にも冷静な自分がこの先の将来について考えだした。現役高校生の自分の将来は果たしてどうなってしまうのか。

我が家は父子家庭。頼れる親戚も居ない以上、一体どうすれば良いのだろうか。


神にも縋る思いで、父の遺品を探っている。

父から聞かされた話では、それなりに我が家は歴史がある。

もしかすると、代々伝わる家宝が隠されているかもしれない。

そんな有り得ない妄想を抱きつつ押入れを漁っていると、薄暗い押入れの中で淡い青い光が点滅しているのを見付けてる。

光の発生源の細長い布に包まれた長物を手に取り、中身を取り出す。

中から出てきたのは錆びた剣。どこからどう見ても、漫画やゲームで目にする西洋の剣の形をしていた。

剣の鍔の中心には青い宝石の様な物が埋め込まれ、僅かに青い光が輝いていた。


「なんだこれ?」


父の趣味だろうか。それとも代々受け継がれてきた家宝だろうか。

後者は可能性としてあり得るが、父の趣味の可能性はもっと高い。

剣を眺め、光っている青い宝石に手を触れた瞬間。


「なんだっ!」


青い光が輝きを増し、目を開けてられない程の強烈な光を放つ。

光を抑える為、宝石を手で隠そうとした時だった。


『ユウ……カイヲ……スク……ダ……イ』


声が頭に響いた。


「なんだ!声が!」


激しい頭痛と、意識が朦朧とする感覚に襲われる。

まさか呪いの品だったのだろうか。


「父さん……こんな物を残して……死ぬんじゃねぇ……」


その言葉を最後に、熾綜 燈継(しそう ひつぎ)は意識を手放した。


目が覚めた時、最初に考えたのは自分の生死だった。

意識を失う程の光など、これまでの生涯で経験した事が無い。もしかしたら死んでしまったのではと思うのは仕方ない。

しかし、幸い死んだ訳ではなさそうだった。手も足も、頭も動かせる。


そして、感じる違和感。

自分は畳の上で意識を失ったはずだが、どういう過程があったのかベットで起床している。

恐らく病院だろう。

あの後、家の外に漏れだした激しい青い光を見た誰かが通報して、自分は救助されたに違いない。


「失礼致します。あ!お目覚めになられましたか勇者様!」


寝起きにしては完璧な推理をしたはずだが、それを打ち砕くような現実が目の前にはある。

扉を開けて入室した女性は美しかった。

肩まで伸びた金髪に、青く宝石の様な大きな目。モデルの様なスラっと伸びた長い脚。服の上からでも視線が行ってしまう大きな胸部。

絶世の美女とは、目の前の彼女を指す為にある言葉だと思う程美しい。


「あの……あまり見詰められると恥ずかしいです……」


恥ずかしがっている彼女よりも、彼女の細長い耳に視線を奪われ、頭の中に彼女を指す言葉が浮かんだが、即座にそれを否定する。

しかし、それ以外に彼女を指す言葉は見付からない。


(まさかとは思うが……ファンタジー世界の住人のエルフだとでも?いやいや、そんな訳ない……)


「あの、一つ聞いてもいいですか」

「はい。何なりとお申し付けください勇者様」


意を決して聞いてみる。答えがノーであることを期待して、どうか「コスプレです」という返答を待ち望んで。


「お姉さんはその……エルフなんですか?」

「はいその通りです。勇者様」


真顔で言えるセリフではない。

さては彼女、プロだな。


「勇者様、どうか私の事はフォーミラとお呼びください」

「え、あっはい。分かりました。フォーミラさん」

「フォーミラと呼び捨てで構いません」


初対面の人?いやエルフにしても呼び捨ては出来ない。

コスプレエルフの可能性を捨てきれない為、最後の手段を取る。


「フォーミラさん。失礼を承知でお願いがあります。耳を触らせて下さい」

「まぁ勇者様に触れていただく事は大変光栄であります。どうぞご自由にお触り下さい」


自分に顔を近づけ、どうぞと耳を差し出すフォーミラ。

現代日本ならばセクハラで一発アウトの発言も受け入れられるとは、この施設の倫理感はどうなっているのか。


(ゴクリッ)


唾を呑んで、恐る恐る彼女の耳に触れる。


「あんっ」


やたらと色気の声を出す彼女を意識しない様に心を落ち着かせながら、作り物かどうか確認する。

結果は天然の耳だった。

これでコスプレエルフの可能性は消え失せ、本物(マジモン)エルフと証明してしまった。


「ご満足いただけましたか?勇者様」

「あっはい。……あの、なんで勇者様って呼ぶんですか?」


遂に一番触れたく無かった話題に触れる。


「それは、勇者様が聖剣に選らばれたお方だからです」


彼女がスッと指さす方向に目をやると、そこには見覚えのある形状の剣があった。

自宅で見つけた時と違い、錆びが完全に取られ美しい剣身を輝かしているが、剣の鍔の中心にある青い宝石は絶対に見間違えない。


確信した。

この件には父が関係している。


「最後にとんでもない事してくれたな……父さん」

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