そこで僕は彼らに聞く事にした。part2
***
リュックを背中からまえへと背負い直し、電車の中に入る。
通勤、通学の時間帯と被っているだけあって電車の中はかなり混んでおり、座れる座席が一つもない。
何となく周りを見渡すと、かなりの数の同じ制服を着た西部高の生徒らしい学生達がいた。
「流石、西部高。この辺からも結構な数行くみたいだな」
僕が考えていたことを丁度宙も考えていたらしく、そう呟いた。
「丁度同じ事考えてた」
「お、流石十年以上の付き合いだけあるな」
僕の返答に対し、宙はリア充かつイケメン特有の何もかもを浄化してしまいそうな笑顔をこちらに向けてくる。
「やめてくれ。そんな笑顔を朝から見せられた日には魂が浄化されて両親の元へ高速郵送されてしまう」
「はは、何物騒な事言ってんだよ?」
「まあ、部活動も豊富で進学率も高いとくればね」
「あと、飲食店も多い!」
僕達のふざけた会話を無視して、真尋が説明するかのように言い、そこにやたら嬉しそうに偲が付け足す。できれば突っ込んで欲しかった。
まあ、いいか。
「お前はそればっかだな」
「私の西部高への志望理由第一ですから!」
偲はその薄い胸を張り自慢げにこちらを見上げてくる。彼女?の背後を見れば、『エヘン』という字幕が見えるのではないかと言うほど、それはもう堂々と。もしかしてこいつ、面接で本当にそんな事を話したのだろうか?とても心配になってきた。
そこからは、四人で今後への期待や休み期間中に会っていなかった時に何をしていたか等ヒソヒソと話していた。しっかりとマナーは守っていくスタイルである。
と、そんなこんなしている内に駅に着いたらしく電車は減速していく。普段ならば、減速や停車程度で体制が崩れる事などない。しかし、会話に集中し油断しきっている上に、身長的に吊革に手が届かない偲は人混みの方へと吹っ飛んで行ってしまう。
「え……賢治」
自分が吹っ飛んだ事に気づいたようで彼女?が僕の方へと手を伸ばす。しかし、その手を掴もうとした時には手遅れだった。
乗り降りの激しい時間帯の為、彼女?が僕らが居る入口の丁度反対側にある開いた入口付近へと人の波に押し流されていく。その速度があまりにも速すぎたのだ。
「私、まだ降りませんから……」
偲が諦めずに、もがきこちらへと戻ってこようと試みるが、全く進むどころか更に押し流されあと数歩進めば入口という所まで行ってしまう。
このままじゃ偲とはぐれてしまうとか初日から遅刻してしまうとかその他多くの事が脳裏を過ぎり、焦ってしまう。どうすれば良いのかと宙と真尋の方を見ると、
「え、あれ不味くない?」
「Oh……this is Japanese mannindensha……」
真尋も焦っているらしく、誰に向けたかわからない質問をし、宙に至っては、彼女?の救出を諦めたようで何故か英語で呟く。
不味いのは見れば分かるから!それと、宙のやけに良い発音とか満員電車がローマ字な事とか色々ツッコミたいところだが、今はそれどころではない。
僕は、少し空いたスペースを見つけ偲に向け手を伸ばす。彼女?もそれに気づいたのか、僕の手をしっかりと両手で握った。その事を確認し引っ張ると彼女?の体型が小さい事も幸をなし、少ししかないはずの隙間を軽々と通ってこちら側へと戻ってきた。
「無事帰って来れたか」
「あんた小さいんだから気を付けてよね」
「……はい」
宙と真尋が偲に対して言う。彼女?もシュンと更に小さくなり彼女の説教を聞く。全く彼女の言う通りだ。
「まあ、これで初日から遅刻なんて事態は災厄回避できたでしょ」
真尋が子供を叱りつける様なしかめっ面から穏やかな笑顔に表情を変え僕達に言う。
「おい、真尋それ……」
「完全なフラグじゃん!」
僕の言葉に宙が言いたかった事を続ける。
「へ?」
何一つ僕達の言葉の意味を理解していない彼女は呆けた返事をする。
もう救出活動なんて御免だ。そうなれば、とるべき行動は一つだけだ。
僕は、偲に握られたままの手を更に自分の方へと引く。
「え、ちょ……」
狙い通り、彼女?の手と一緒に本体も着いてくる。そして、僕の体にぶつかった。
「突然何するのさ?」
少し落ち着いたらしく、彼女?はムッとを頬を膨らませた。そして、普段通りの抗議の視線を下から覗き込む形で浴びせながら言う。
「そのまま傍に居て」
偲の視線を無視して顔を見て、ごく自然体で言う。
「また飛んで行ったら大変だから」と付け足そうと口を開きかけた時、彼女?の顔がカアッと赤くなっていくのが分かった。元が色白なだけにとても分かりやすい。
何故こんなにもこいつは赤くなっているのだろうか?ふと、そう思い、自分の発言を思い返した瞬間、僕の顔も赤くなるのを感じた。
「ほ、ほらあれだ。また飛んで行ったら、た、大変だからな……」
これはやばいと思い、直ぐに言葉を付け足すが、呂律が上手く回らず、所々で噛んでしまう。
「う、うん!分かってるから!わざわざ付け足さなくていいから!」
偲も何故かあたふたしながら返答した。
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