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そこで僕は彼らに聞く事にした。

「そろそろ行くか」


 平常を装いつつ偲に声をかける。この一言が、僕の普段の荷物寄越せという合図になっている。


「ん」


 僕の意図を察し、短く息を吐く様な返事と共に偲は僕に背を向ける。僕は普段通りに背負われている少し小さめのリュックサックを取り、自分の背に背負い直す。


 ―自分の荷物もあるのに重いのでは?


 なんてよく聞かれる。今日みたいな日はほとんど荷物がないのと同じだから良い。


だが、重い時は重い。まあ、体は鍛えているし、いいトレーニングになるからそれはそれでいいと思っている。


 それに、偲はあまりにも華奢で大荷物を持たせた日には登校するだけでその日一日分の体力を使い切り数日間寝込んでしまうのだ。


ただ、勘違いしないで欲しい。偲は体力がないだけで運動神経は化け物級なのだ。


 ……今思えば、体力ない所とか華奢な所とか女並だな。


 マンションのエレベーターに乗り込み一階へ降りる。


 そこからは最寄りの駅まで徒歩だ。


 僕達がこれから通うのは、県立西部高校。


 僕達の住んでいる地域から何駅か先にある。


 創立から七十年以上は経過しているとのことだ。こう聞くと古そうな校舎を思い浮かべる人が居るだろうが、別にそういう訳では無い。最近、近くの高校と合併したらしく校舎は新しい。そのため、学習施設も充実しているようだ。


 それに、高校周辺の都市開発が進んでいるため、飲食店やらも多い。


 これには、偲さんも大満足。


 ちなみに、この高校に行くことに僕の意思及び思考は微塵も関与していない。


 姉の流美に飲食店等に釣られた偲が行きたいと即決し、勝手に一緒に行くことにされ、更には幼馴染全員がそこに通うという怒涛の三連コンボを叩き込まれ、強制的にこの高校を受験させられた。


 要するに、彼女?の意思により僕の高校は決まっていたのだ。こういう事は昔からよくある。


「今日から私達高校生だよ?早いねー」


 僕の少し先を歩いていた偲がこちらに半身だけ向ける。その表情は正にこれからが楽しみというものだ。


「そうだな…。お前なんて少し前まで……」


 ―男だと思っていた。


 そう続けようとして止める。まず、こいつは男なのか女なのか。この際そんな事は置いとくとしてだ、この事を本人に伝えても大丈夫なのだろうか?


 そして、深くは考えないようにしていたが、僕はこれからこいつとどう関わっていけばいい?


 男だったら今まで通り友人として。女だったら昔のように片想いの日々。


 いや、一度割り切った気持ちを僕はもう一度取り戻せるのか?


 会話を途中で切った事なんて忘れ、また頭に疑問符を浮かべていると、偲が頬を膨らませ顔を近づけてくる。呼吸する度にふわりと甘い香りがする。


「朝から様子が変なんだけど?」


「い、いやいつも…通りですが……」


 そう答えながら、自然と顔が九十度横を向く。わあ、人間ってよく出来てるなあ。不思議と体が勝手に動いたよ。


「こっち向く!」


「…はい」


 怒気を含んだ声に反射的に体が従い、再び前を向くと彼女?は少々ご立腹のようだ。これは、ふざけている場合ではないようだ。


「で、何かあったの?」


「いや……その……」


 もうこの際言ってしまうか?案外ツッコミ待ちだったりして。


 そう思った瞬間、脳で朝の映像が再生された。赤面し、数歩後ずさり、身を捩りながらスカートが似合ってないのか聞いてきた偲の姿。


 あれが、ツッコミ待ちの人間の態度なわけないだろ。アホか。


「よう、お二人さん。朝から仲が良いな」


「熱々ねー」


 切り抜ける方法を脳内で考えていた時、背後から声がかけられた。この声は―、


「宙、真尋!」


 振り返った先に居たのは、偲程長い付き合いではないが幼馴染の二人、白雲 宙(しらくも そら)大西 真尋(おおにし まひろ)だった。


宙は僕より少し身長の高いスポーツマン風のイケメン。


真尋は柔らかめの今時の女子高生という感じの偲には劣るが美少女。


 そうだ、この二人に偲の事を聞くという手段をすっかり忘れていた。これでどうにかなりそうだ。そう思い、僕は安堵する。それが表情に出ていたらしく、不思議だったのか二人は顔を見合わせ首を傾げる。


「大丈夫だよ。ただちょっと緊張してただけさ」


 すぐさま偲の方へ向き直り早口にそう言った。


「そう?ならいいんだけど」


 あまり納得していないようだが、偲はうんと一回頷くと直ぐにいつも通り微笑を浮かべる。


 僕達の話が終わった事を悟り、宙達も近づいてくる。


「偲スカート似合うわね。賢治は……ネクタイ付けたらくたびれた社畜みたいね」


「おいおい、辛辣だな……」


 真尋の言葉にダメージを喰らう。


「まあ、眼鏡な上にくまが酷いもんな」


「おい、お前今全世界の眼鏡を敵にしたぞ?」


 宙が聞き捨てならないことを言ったのですぐさま切り返す。


 これが普段の僕達だ。

 そう、普段通り。


 この時点で彼らが偲に対して何のツッコミもしないということはつまりそういう事なのだろうか。









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なお、今回出てきた高校やその近辺の地域は白達磨の理想です。

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