プロローグ 彼は彼女だったようで……。part2
世間一般で言うところのショートボブ程の長さの髪。
学校指定の女子用ブレザー。
胸元で小さく結ばれたリボン。
右で横髪をまとめているヘアピン。
どれをとっても目の前の人物が女子だということを主張している。
だが、目の前の人物はどの要素を取り出して見ても今までほとんどの時を過ごしてきた夢川 偲なのだ。
そして、偲は僕の知る限り男のはず。
何が起こっているんだ?これが所謂高校デビューと言うやつか?いやいや、流石に女装はやりすぎじゃないですかね。
「どうしたの賢治?」
「へ?」
はっと声の方を見れば、少女?が僕の顔を下から覗き込んでいる。身長が約二十センチ程度離れているからこの体制になるのは自然だし今まで通りなのだが、意識して見ると僕にはあまりにも破壊力が強すぎた。
風で更にこちらに飛んできた桜達は春の訪れを報せるどころか目の前の少女?の美しさを自重せず更に引き立てている。
本当に自重して貰いたい。色々と大変なんだよ。例えば、玄関先の掃除とか僕の心臓へのダメージとか。
「その……やっぱりスカート似合わないかな?」
更に思考を繰り返し無言でいた。
僕の反応をどう受け取ったかは分からないが、彼女?は頬を朱に染め数歩後ずさる。
この発言からして彼女?は今までスカートをほとんど履いたことがないようだ。
僕達の通っていた小中学校は、決まった制服はなく私服だった。そして、偲は記憶が正しければ、ズボンしか履いていないはず。このことから考えるにこの少女?は夢川 偲であると考えていいだろう。
「に、似合ってるよ、偲」
普段なら考える前に口から飛び出る言葉も今日ばかりは上手く出てくれない。
言ったそばから顔に火がついたのではと思うほど熱くなる。何故か眼鏡も曇ってしまう。本当に蒸気が出ているかも知れない。
そんな僕の様子には気づくことなく偲は天骨から前髪を伸ばすようにいじり、軽く引っ張った。これが彼女?の昔からの癖なのだ。そして―、
「えへへ……嬉しいな」
はにかみながらそう言葉を添えた。
その仕草は僕の心に対して絶大な破壊力を孕んでおり、比喩表現などではなく本当に意識が飛びかけた。
拝啓、雲の上の父さんと母さん。
そちらに恋愛の神なる存在が居るのでしたら僕の代わり殴っておいてくれませんか?
それから、こうお伝えください。
「お前、馬鹿かよ?」
現時点で偲の性別は判断しかねる。
どうして僕がこんな想いをしているのかも分からない。
ただ一つ確信を持って言えるのは、これから僕の学校生活は波乱に満ちている事だ。
クラつく頭でそんな事を考えつつ、これからの生活への期待で胸を膨らませる。
そして、未来の僕はこの時を振り返り、きっとこう言うのだ。
―この出来事が、僕の青春の第ゼロ章だと。
学校休みになったから更新頻度は上がる(といいな)。
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