プロローグ 彼は彼女だったようで……。
初めてただの青春系に手を出します!
個人的に春の訪れは物語の始まりの合図でありスタートラインだと思っている。
僕こと柴田 賢治はそんな事を考えつつ今日から三年間通うことになる高校の制服に身を包む。
この瞬間、いや、今日という日が訪れたときから僕もまたそのスタートラインに立っているのかもしれない。
「しまった寝過ごした!」
丁度ネクタイを締めたところで姉、柴田 流美の慌ただしい声が扉越しに聞こえてきた。
「こうなると思って朝ごはんはおにぎりにしといたから学校で食いな。あと、弁当はいつもんとこ」
部屋の扉を開けながらそう言うと、すぐそこで流美は靴下を履いていた。
身内のひいき目が入っているかもしれないが、僕の姉、流美はかなりの美人だと思う。だが、生活力があまりにもなさすぎるのだ。このままじゃ僕、この人の面倒一生見ないといけないのではと最近そんな未来を想像し恐怖する。
「ありがとう!おにぎりの具は?」
「鮭と昨晩の残り物……。生徒会はやっぱり大変なんだな」
掛け時計を見てみると七時と数分が指し示されている。我が家から学校までの距離から考えてみても明らかに早い。
「まあね。生徒会長ですから、私!あんた達の入学式は立派な物にしないとね」
そう言う流美の姿は正に一校を背負うに値する風格があった。
シャンと伸びた背筋に整えられた長い黒髪がそれを更に引き立てる。
やだこの子、いつからこんな立派に…と感極まって泣いてしまいそうになる。……普通は逆なんですがね。
複雑な気分を噛み締めつつ、
「リボン曲がってる」
僕はきっちり彼女を身だしなみを直すのだ。
「あ、ありがとう」
「じゃあ、行ってきます。あんたも早くでなさいよ!偲ちゃん待たせちゃダメだからね!」
その言葉を最後に玄関の扉は閉ざされた。姉がうるさかったのも相まって静寂が辺りを支配するのが分かった。
***
姉が言う偲とは、僕の幼馴染の夢川 偲のことである。
昔、僕は偲に片想いをしていた。だが、偲の性別は男なのだ。何故か姉は彼のことを昔からちゃん付けで呼んでいる。
一時は、自分にそんな趣味があったなんてと絶望していた。しかし、今では吹っ切れ良き友人と思うようにしている。
今日は、僕にとっての始まりなのだ。
偲への想いを完全に吹っ切り、彼との友情を深め、あわよくば彼女を作る。高校では女子を好きになり、普通の青春を過ごすんだ。
そう決意を固め、彼との待ち合わせ時刻より少し早めに鞄を持ち玄関に出る。
偲の部屋は僕の部屋のすぐ隣。つまり、同じアパートに住んでいる。
靴に足を入れ扉のノブに手をかけ回す。
扉を開けた途端、春の眩しい位の日差しと暖かい風が僕を包み込んだ。
テレビで放送されていた通りに桜は満開らしく、四階の我が家にまで風に乗り春の訪れを自重せず報せに来た。
新たな人間関係に対する不安や胸の高鳴りを抑えつつ、普段偲が立っている場所に目をやる。
だが、そこには……
「おはよう、賢治」
彼と同じ声で同じアクセントでいつもの挨拶をする彼と同じ顔をした美少女が立っていた。
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