カルテ03
「本日、10時入院1名。中谷宏樹さん28歳、男性。原発は胃癌、全身転移により……」
新しい入院患者様についての申し送りをスタッフ全員で行っていた。消化器科病棟から引き継がれた看護記録を開き、患者様情報を隅々まで目を通す。
ふと、手が止まる・・・・・・ 。
患者様を看取るたびに、新しい患者様を迎えるたびに、違和感のようなモヤモヤした気持ちを感じていた。わたしは患者様の死を、赤の他人の事だと思ってはいないか?患者様が亡くなって退院され、すぐに次の患者様を受け入れるためベッドを整えることになんとも表現できない気持ちがあった。
ドアを軽くノックして、病室に入った。
「中谷様、こんにちは」
明るく笑顔で声をかけベッドの上の彼を見た。懐かしい面影に息を飲んだ。彼のベッドに心配そうに寄り添う女性の視線を感じ慌ててナースの顔を貼り付ける。
「中谷様、看護師の碓井と申します」
挨拶をして血圧計を手に取った。
「入院したばかりでお疲れでしょうけど、血圧と脈拍を計らせてくださいね」
久しぶりに彼の手に触れた。昔わたしに触れたこの大きな手の拍動は弱々しい。血圧計と聴診器をワゴンに置いてから、彼と隣の女性に向き合う。
「安定してますね。何かありましたらナースコールしてください」
そう伝えると彼は頷き、付き添う彼女は彼へ布団をかけ直した。それを確認して病室を出た。