「幻の名店」グルメレポート!
日常の文学シリーズ⑩(なろうラジオ大賞 投稿作品)
「今日は幻の名店として、テレビやユーチューバーの間で大人気の○○ラーメンさんに参りました!」
男が見ている画面の中では、大食いがウリの女性ユーチューバーが挨拶している。チャンネル登録数は10万人を超えている。そこそこ有名らしい。店内には厨房とカウンターがあり、長居しづらそうな丸椅子がいくつかおいてある。
「今日は私の撮影のために、ちょっと早めに店を開けていただいてます!なので今は私の貸し切りです(笑)いつも長蛇の列ができてる名店なので、レアな光景ですね~」
画面の女性は愛想よく笑う。
「それではさっそく!おすすめのラーメンをお願いします!」
しばらくすると、ラーメンが出てきた。
「おいしそうですね!早速いただきます!」
画面の女性は麺をすすって、その味を表現する。
「おいしい!麺はちょっと固めでコシがあります!スープに浮かぶ脂身はしょっぱめで、濃いめのラーメンが好きな人にはたまらないと思います!!」
その後も彼女はレポートをつづけた。レポートは適格で、男はその食べっぷりにお腹いっぱいになった。彼女は礼儀も正しく、食べ方もきれいだった。
そして食べ終わると
「ごちそうさまでした!おいしかったです!それでは、チャンネル登録と高評価をお願いします♡」と言って動画は終わった。男はこの動画が気に入り、チャンネル登録と高評価をした。
それから、オススメ動画や関連動画に彼女の食レポの動画が上がってきた。他の食レポを行うユーチューバーの動画も見るようになった。どのユーチューバーも「幻の名店」についてのレポートを行っていた。それぞれのコメント欄にも「行ってきました!おいしかった!」「まさに幻の名店!」などと書き込みがなされていた。批判するコメントは一つも見つからなかった。
男のスマホに届き続ける沢山の「幻の名店」への称賛を見て、男はその店のラーメンが、自分で足を運んで確かめるまでもなく、うまいということを信じて疑わなくなった。
動画内で紹介されているその店の住所がデタラメなことも、好意的なコメントを打っているのが専門業者であることも、真実を告げるコメントは全部削除されていることにも、男は気づかなかった。
男は死ぬまで、この「幻の名店」がこの世に存在しないことに気づかないだろう。でもそれはどうでもいいことだった。
節目の10本目です。今後もご贔屓に!