その永い夜に何を想うのか
幸せのカタチって、何でしょうね。
その長い夜に何を思うのか。スーパーマーケットに並んだ柚の実を見て、ふと考えた。冬至が近い。世間的にはクリスマス一色。せっせと西洋の文化取り入れているんだなぁ。となんだか複雑な気持ちになる。どうして、僕はこのクリスマス一色の世間に、冬至なんていう和一色の文化を思い出したのか。いまいち思い出せない。
何気なく柚を手に取る。なんだかとても懐かしい気がしてそれを買った。子供の頃はお風呂に入れた柚の実を食べていた事を思い出して、なんだかくすぐったい気持ちになる。子供の頃は良かった。なんにも考えずに外で遊びまくって。遊びまくって。泥だらけになって帰って来た。今は働いて。働いて。ぼろぼろになって帰ってくる。だけれど、それが不幸せかって言われたら、僕はそうは思わない。僕には仕事もあるし、帰る家もあるし、彼女もいるし、そんな、居場所がある。何が幸せか、なんて分からない。下を見ればいくらでも不幸せな人はいるし、上を向けば、底抜けに幸せな人もいる。でも、不幸せに映る人が本当に自分を不幸せだと嘆いているか?幸せに見える人が毎日大笑いしているか?そう聞かれると分からない。
家に帰った。なんだかもやもやする。果たして自分は幸せなのかなんて、考えても答えは出ないのに、何故か考え込んでしまう。むしょうに自分が孤独に思えた。彼女でも呼んで鍋でもつつこうかな。
「もしもし、菜緒、今夜暇かな?鍋するんだけど来ない?」
「おお!行かせてもらおうかな!寒いし。」
「わかった。準備しとく。」
そうと決まれば。土鍋に出汁を取り、肉と野菜と、ああ、つくねも入れよう。それから今日買ってきた柚の皮をすりおろして入れる。大根をおろして、みぞれ鍋の完成だ!蓋をして、煮込む。それと同時に、家のインターホンが鳴った。
「お邪魔しまーす。ん!柚のいい香り!」
「今日はみぞれ鍋。外寒くなかった?」
「さっむいさむい!でも鍋で温まりますよーっと。」
小さな机を二人で囲む。そして、会話もそこそこに、全部たいらげんばかりに二人でほくほく言いながら鍋を食べる。
「うーん!美味しい!やっぱ冬は鍋に限るね。あ、七味とって。」
「ほいほい、あ!最後の豚肉が!」
「ふふん、早いもん勝ちだからね!」
鍋が美味しい。冬で、暖房も付けてないのに、僕の心はとても温かい。幸せってこういうことなんだろうな。理屈では分かる。自分は幸せだって。でも、なんかつかめないというか。いつかは必ず終わる幸せに、こうやって毎日縋りついてる。なんでそんな事、僕らはしてるんだろうか。
「菜緒、幸せってなんだと思う?」
「幸せ!?どうしたの?急に。」
「なんとなく、気になってさ。幸せってどんな形なんだろうって。」
「ふーん、えーっとね。私は、幸せっていう概念はあっても、それは今の世の中みたいにマークになったり、そういうものじゃないんだと思う。例えば、私は今すごく幸せ。冗談とかじゃなく、幸せを噛み締めてる。そんな幸せのかけらなら、いっぱい周りに落ちてるものだよ。」
「でも、ずっとなんてある訳ないじゃん。僕らだって、いつまでもこの幸せを続けられる訳じゃないんだし。いつかはさ、なんでも,,,」
「うん,,,それも幸せだよ。幸せっていうのは、絶対綺麗なものじゃないから、その悲しさ。寂しさ。全部幸せの形なんじゃないかな。幸せの形があるとしたら、想像できないくらい、美しくて儚い。壊れやすいものだと想うな。」
もちろん、私はいなくならないし、まだこの幸せに縋っていたいけど。なんてね。と、その後彼女は付け足した。
「うん,,,」
「ふふ、もたもたしてると最後のつくねも貰っちゃうよ。」
「うわわ、それはちょうだい!」
彼女が帰ったあと、彼女の言葉の意味を想いながら、お風呂に鍋の残りの皮と柚を浮かべてみる。すぐにふやけて、実がしなしなになってしまう。湯船に浸かった。湯がすこし溢れた。幼少期はこうやって柚を食べていたっけな。なんて、童心に帰って柚をすこしかじってみた。
「何だこれ、まず。」
かじって後の実が、壊れてふよふよと湯船に浮かぶ。壊れて,,, はっとした。急いで湯船を飛び出す。食べかけの柚を手にしたまま体を拭いて服を纏う。そして、携帯電話を手に取った。
「もしもし、菜緒?」
「ん?どうしたの?」
「愛してる。それだけ。」
「ふふ、急にどうしたの、さては寂しくなったな〜」
冬至の夜長はクリスマスより、確かな幸せを、幸せの形をくれたんだ。ありがとう、と言おうとして辞めた。彼の手には幸せの形がしっかりと、しっかりと。
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