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天使推察

作者: 阿部ひづめ


ぼくは天使だ。ノー、エンジェル? Angel?

きみ、天使ってそもそもなんだか知っているかい。ふん、頭に輪っかのついたショタのことじゃあないぜ。


天使のような顔だっていうけど、君ね、サイゼリアに飾ってある絵、わかる?

ラファエロの『サン・シストの聖母』さ。あいつらの目死んでるでしょ。

どう考えても、椅子に座りながらさりげなくオネーチャンのスカートからパンツ見えないか探ってる目でしょ、アレ。

おっと、ぼくとしたことが昭和のおっさんのような言葉遣いを……。


天使には階級っていうのがあってね、君たちが想像しているショタだけじゃあないんだよ。

西洋の名作絵画辞典に腐るほどのってるけど、とにかく色々あるんだよ。いろいろ。知りたかったらググれ。


 まあ、ぼくはちゃんと君たちが想像しているショタだけど。

 は? そもそも姿が見えないから、そんなこと分からない?

 ネカマ、ないしネショタかもしれないって?


 はん、当然だろ。これは文章なんだから。

 目に見えたら怖いだろ?

 画面凝視してたら、横から天使がコンニチワーって、おいおい。洒落にならない話はやめようか。


 まあ言葉っていうのはね、ぼくのようなものなんだよ。

 天使さ。天使。

 つまりぼく、つまり言葉。Do you understand?


 画面をなぐったって、ムダってなもんさ。

 言葉はなぐれない。言葉がなぐることはできるけどね。なぐるどころじゃない、殺すことだってできる。

 いやはや、恐ろしいもんだ。


 天使なら乙女と一緒じゃないかって?

 もちろん一緒さ。今下で待機してるから、呼んでくるわ。


 おっけー! はい、どーぞ。

 なんで見ないの?


 下、見える? あ、見えないか。

 描写した方がいい?


 白いわたあめのような雲が裂けると、草原がみえた。

 そよ風のなかに、うるわしい乙女が立っていた。


 はーい、おっけー。見えた? そよ風見えた?

 ぼく思うんだけど、そよ風って見えないよね?

 現実的に見えるのは乙女の髪の毛がそよそよ〜ってするとこじゃない? ってか、そよそよ〜ってなに? 気色悪いんだけど。

 ローマ字表記してみようか。SOYOSOYO。

 OK。BOKUSOYOSOYOWAKKATA。

 KIminaにを怪訝な顔をしているんだい?


 え、言葉が変?

 なんで日本語の間にローマ字表記いれるんだ? うるさいなぁ、読めたんだからいいだろ。

 なんなら全部アルファベットで話してやろうか。


 あの乙女はだれだって?

 気になるかい。どんな髪の色をしているのか、どんな声で歌うのか、服は着ているのか着ていないのか……ん? なに? 服を着ていない可能性があるのかって?

 ぼくがそう言ったから、君は服を着ていない乙女を想像したのか! なんてやつだ、ハレンチな! この恥さらし! 人間のクズめ!

 ふん、服を着ていないかどうかなんて、ぼくは知らないよ。勝手に決めればいいじゃないか。

 なに、ちゃんと書かれていることが大事?

 そうじゃないと、意味がない?


 あーもう、うるさいなぁ、わかったよ。

 ほら、これでいいんだろ。


 乙女は、ふと顔をあげた。その瞳はまるで大地の優しさをすべて吸いこんだかのような、深い鳶色だ。

 彼女の亜麻色の髪の毛が、むきだしの肩をそっと撫で、彫刻のような鎖骨を彩っていく。

 漫☆画太郎先生のイラストが描かれたTシャツから、すらりとした腕が伸び、


 ……はあ? なに、なんか文句あんの?

 服ないほうが良かったの? このスケベ野郎が。なに、そういう問題じゃないって?


 べつに漫☆画太郎先生のTシャツ着ててもいいじゃん。

 ぼく好きだよ? まんゆうきとか面白いよね。

 この子もきっと好きなんだよ。学校でヤなことあったときとかに、こっそり読んで雄叫びをあげていたんだよ。


 そんなの乙女じゃない? 乙女はもっと、こう、アレだろ。アレ?


 あのねぇ、指示語で解決すると思うなよ?

 ぼく、ちょっとばかし怒っちゃったよ。みんなアレコレドコソコうるさいんだよ。

 ぼくにとっちゃあね、そんなものは怠惰以外の何物でもないね。

 ちゃんと伝えなきゃわからないだろ? 察しろ、なんて最低最悪の極みさ。


 キミね、地球人だろ? ほら見ろよ。書いてあんだよ。ホモ・サピエンスって。

 日本でしょ、日本。はいはいはいはい、よく知ってるよ。言葉大好き民族ね。あいつらぼく大っ嫌い。 自分たちの言葉が繊細で優雅なもんだと思ってやがんの。

 ちょっと、見てごらんよ。ほら、見て! 目をそらさないで!

 日本語、こんなに汚いことになっちゃってるよ! 大丈夫!? 君たち日本語大好きじゃなかったっけ?


 ふう、ぼくとしたことが、ちょいとヒートアップしちまった。

 まあつまり、アレだよ。言いたいのはね、地球人は馬鹿だから、ちゃんとぼくを捕まえていろよってことさ。

 天使はかけがえのないものだからね。


 ぼくを見て、学ぶんだ。

 汚かろうが、時代に流れされて、どんどん崩れていこうが、ぼくはぼくだからね。


 なにを言いたげな顔をしてるんだ。

 なに、最後に乙女の顔が一目でいいから見たい? しょうがないなぁ。



 乙女は彼女のいる世界に感謝して、すべてを受け容れるかのように両手を広げた。

 風にあおられ、現れたそのかんばせは、まさしく柴田理恵先輩その人だ。



 はい、おしまい。


生存報告のために投稿しました。不愉快な思いになった方は申し訳ありません……サイゼリヤ様には連絡しないでください。

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