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仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
魔女異聞 河梁之吟
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証言Ⅵ ニタ・アンモナ

 元アイン七家族が一家アンモナ家長男、魔女カリエラの実父ニタ、この件についてこう証言していました。

 妻がおかしくなったのは、娘を産む直前です。

 妻は元々神経質な所がありました。潔癖とでもいうのでしょうか。私は両親の所に行くのは止めた方がいいと何度も止めたのですが、跡継ぎになる子だから、と、妙な所で意地を張って、結局私が折れたのです。

 案の定、私の実家と妻は関係が悪くなりましたが、何とか出産まで漕ぎつけました。しかし私の母が用意した病院と医者は信用できないと言って、実家の方から産婆を呼んでしまいました。不愛想な夫婦で、特に産婆で妻のほうの女性は、私とは碌に話も挨拶もしませんでした。

 娘は元気に生まれましたが、暫くして死んだと言われました。先天性の疾患があり、出産されて外に出れば、数時間しか生きられない奇病にかかっていたと説明されました。奇病の研究の為、遺体を引き取らせてほしいと言われ、私は流石にと拒否しました。しかし股を開き、羊水でどろどろになった姿で、生きた娘を探す妻の姿を見て、遺体を手元に残しておくことは出来ないと、それに同意しました。せめて抱かせてほしい、と言いましたが、次の子供を産んでもらう気が無くなるくらいに酷い状態だから、と拒否されてしまいました。

 私は娘を失った悲しみに、喪に服そうと思いましたが、妻は産褥が明けるとすぐに籍を入れるといいました。妻の心が落ち着くまで、と思ったのですが、妻があんまりにも強く言うので、言う通りにしました。もしかしたら妻は、私が妻に愛想を尽かすことを恐れたのかもしれません。こういう感じで、夫婦生活は、私がショックから立ち直るよりも早くに始まったのです。

 子供を喪ったからか、妻は子供を授かる事に酷く熱心で、私が辟易として拒むこともありました。しかし妻の執念は凄かった。出産から半年余りで、妻は再び身籠りました。今度は、無事出産することが出来ました。この時の子供が、カリエラです。

 娘の養育方針を巡って、私の母と妻は激しく対立しました。それと同時に、妻はだんだん気がおかしくなっていきました。カリエラは誰かに誘拐されそうになっていて、街を歩く時は勿論、家にいる時でさえ、視線を感じる、引っ越したい、と、ずっと言っていました。それでも娘が入学して子離れが出来れば、変わると思っていたのです。それに、私も働いていましたから、引っ越しをするのは憚られました。

 けれど、小学校に入る直前、妻はアインにいた時の伝手を使い、北アインのヴィアナルス村に逃げてしまったのです。私は娘と離れる事は本意ではなかったので、すぐに追いかけ、説得しました。けれども無駄でした。私は結局、仕事を捨て、妻のいるヴィアナルス村に行きました。

 村での私の扱いは、心地よい物ではありませんでした。それでも外に行かなければ、家族を食べさせて行けません。私は村での信頼を勝ち取る為に、様々な仕事をかけもちました。その疲れは日に日に溜まって行き、安らぎの筈の家が、辛くなっていきました。というのは、毎月私の家には、母からの手紙と、知育玩具が送られてきたのですが、妻はそれを嫌がっていました。妻は、何でもかんでも私の母の悪意だと言って効かず、私がそれを否定すると、口汚く私を罵りました。

 私は、妻は病気ではないかと気づきました。そこで、村の外にある、療養を主とする病院に連れて行きました。

 結論から言うと、妻は心の病のようでした。妻は否定していましたが、被害妄想や誇大妄想が重なって、私の母が娘を奪おうとしていると主張しているのだという結論に達しました。医師は薬を処方しましたが、妻は私が病院に連れて行ったことも咎めました。娘が可愛くないのか、と、私を毎夜毎夜詰るので、私は耐え兼ねて、医師に入院の相談に行きました。妻は嫌がっていましたが、暴れ出すかもしれない、と医師が分かってくれたので、入院することになりました。この頃、新薬が見つかったらしく、それを使ってくれるとのことでした。娘は渋りましたが、お母さんは病気だから、というと、笑って家を護ると言ってくれました。カリエラが十歳の時です。

 いつまでも入院しているのは、経済的にも不可能です。私の給料では、妻をいつまでも入院させておくことは出来ませんでした。妻が入院した時と退院した時、村から見舞金が出ましたが、その組み合わせを使っても、妻が毎日飲む薬代を賄えません。私が働けば働く程、妻は娘に執心するようになりました。娘は娘で、家の経済状況を分かっているのか、よく外で狩りをしてきて、私達に肉料理をふるまってくれました。しかし、娘が家のことをやる度に、同世代の子達の間から孤立していることも知っていました。

 というのは、親御さんたちから私の所に苦情が入っていたからです。遊びなのに本気になる、遊びになってない、子供のためにならない、…などなど。

 私は娘に、狩りと家事を止めるように言い諭しましたが、娘はそんなことは気にも留めませんでした。何度言っても、娘は私の言う事を聞いてくれませんでした。それなのに、友達が遊んでくれない、話をしてくれない、と、泣くものですから、私も参って行きました。娘は次第におかしくなっていって、自分も気がおかしいかも知れない、お母さんと同じ病院に行きたい、と言いましたが、私は連れて行きませんでした。だって、娘の頭がおかしくなる理由が無いのですから、そんなことは嘘に決まっています。理由がないのですから。

 娘が十三歳の時、事件が起こりました。

 その時、妻は戻って来ていたのですが、娘が妻の『気分を落ち着ける薬』を飲んでいたのです。好奇心だったのか、間違えたのか、それとも自分も気がおかしいと思い込んでいたのか…。何れにしろ、その時はこっぴどく怒って、家の外に放り出しておきました。夏とはいえ、山の上の村は冷えます。泣いて謝る娘を家の中で温め、私は薬の管理をきちんとしていなかったことを咎めました。妻がそれを医師に伝えると、医師は娘が薬を盗むなら処方できない、と言って、妻を一枚のカルテと一緒に病院から追い出してしまいました。

 家では頭のおかしい妻が、一月も二月も風呂に入らず、時々水を飲むばかりで、家の中は垢臭くて、兎に角堪らなく臭かった。娘もそれを真似して、家の掃除をさぼりがちになり、自分も風呂に入らなくなり、一日中、私の仕事道具や、家伝の書を読んでいるだけになりました。料理も中途半端になり、私はよく娘を連れて料理屋に連れて行きましたが、臭う私達がいると、客の目を引きます。私は気まずくなり、次第に娘とも妻とも距離を取っていました。

 ある時、村長が私に客がいると言って、何だかお金持ちの男性を紹介しました。この国で生まれ育ちましたが、見たこともない不思議な服装でした。一目で、私は彼が外国からの人であることに気付きました。しかし、名前を聞くと、私はその名前に覚えがある事に驚きました。いえ、知っていたのですが、まさか実在するとは思っていませんでした。

 彼はアヴァリチア公爵。アヴァリチア公国の君主であり、我がアンモナ家から見ると分家にあたる人でした。アヴァリチアとは、アンモナ家の始祖の名前です。彼女の子孫が私達の訳ですが、父から伝えられた所によると、『アヴァリチア』は、家の名前にもなっているとのことだったのです。アヴァリチア・アンモナの一族がダアト国で生活できるように、外国に拠点を構えた家、それがアヴァリチア家でした。

 公は、自分の国の領土には優れた薬と病院があるので、妻を療養のために入院させないか、と仰いました。私はこの期に及んでも妻と離婚するつもりはなかったのですが、妻の悪臭を放つ生活からそろそろ解放されたいと考えていました。私はすぐに快諾したものの、すぐに妻を外国にやるのはあまりにも不安で、公に、先に国を拝見したい旨を伝えますと、同胞だからと公は私の旅の面倒を見てくれることになりました。私はとにかく、家から離れられることにホッとしていました。その間、娘と妻が迷惑をかけないようにと、村長が郊外の静かな家を紹介してくれたので、二人をそちらに引っ越させました。周りに人家はありませんが、自然が豊かな場所です。狩りの上手い娘であれば、生きていけると思いました。

 ところが帰ってくると、村は大騒ぎになっていました。娘が人を殺したというのです。

 私は真っ白になり、娘に初めて手をあげました。今までは物を投げたり、大声を上げるくらいはしましたが、手をあげるようなことは―――虐待は絶対にしませんでした。

 もう限界でした。せっかく妻を外国の病院に入れられたというのに、私はもう疲れました。娘を置いて、下山し、両親の家に行きました。娘を預かってもらうためです。村長からは、恐らく村にいる事は出来ないから、今の内から物件を探しておくように、と言われたのです。

 元々両親は、娘を跡継ぎにと意気込んでいたので、私の申し出を快く引き受けてくれました。私は村に戻り、被害者の親でもある村長に土下座をし、村での贖罪を頼み込みました。私はダアトに居場所が無いのです。娘がいますから。外国にも居場所はありません。妻が居ますから。私がいられるのは、アインしかなかったのです。


 ―――質問をして宜しいでしょうか。

 はい、なんでしょうか。

 ―――国境とはいえ、ヴィアナルス村はダアト国の一部です。祖先が同じとはいえ、どうしてアヴァリチア公は村に来れたのでしょうか。

 それが、分からないのです。村長には、私の家の事は相談してあったので、もしかしたら村長がコンタクトを取ったのかもしれません。

 ―――アヴァリチア公国は、この件について『守秘義務がある』と完全な黙秘をしていますが、心当たりはありますか。

 それは、私の家庭内事情のことだからではないでしょうか。史料として残すからと言われなければ、私も話したいとは思いませんでしたしね。


 記録の再生を終了します。


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