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仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
第一章 一望千里
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EPISODE7 きたアインそうげん

 道々カリエラに事情を聴いた三人。メヴァーエルは非常に激しくカリエラを責め立てたが、カリエラは適当にあしらい、それどころかしれっと、『でもあの人確実に治ったよな』とのたまってみせた。

 ペラッカはペラッカで、重大な事件だったはずなのに何も思うところがないことに恐怖さえ感じていた。無理矢理引きずり出されて、怒鳴られて逃げだして、一体あたし何やってるんだろう? まだ七日も経っていないというのに、この虚無感。

「カリエラ、あたし帰りたい」

 空気を読んで小さく耳打ちすると、カリエラは流石に歩を止めた。だがその眼は恐ろしく、一種の侮蔑さえ含んでいる。そこで言い淀んだほうが良かったのだろうが、ペラッカもやるときはやる。はっきりと行きたくないと意思表示をした。

「さっきの町のあのサマ、何? あんな恥をかく為にカリエラの無茶苦茶なお願いを聞いたんじゃないよ」

「目的は言っただろ」

「答えになってないよ! カリエラ、あたしがペラッカっていう意志を持った女の子だって忘れてるんじゃない? 嫌なことだってあるしやりたくないことだってあるよ! そりゃ確かに就職してなかったけど、あの家でやりたいこといっぱいあったのに!」

 半分ほど嘘だったが、カリエラは黙って聞いている。レラーもメヴァーエルも、サンダルフォナに押さえられて何も言わずに事の成り行きを見守っている。

「こんな危ない所に来てまであたしに何させたかったのさ!」

「………。教会の命令には従ってもらうぜ」

「答えになってないってば!」

「あの勅令は有効だ。れっきとした拘束力を持った公文書だぜ。お前の我儘一つで一族郎党追放されたいか」

 カリエラは先ほど睨んでもいなかったし、寧ろ脅してきているという雰囲気でもなかった。しかし言葉は確かに脅迫であり、行動は強要だった。カリエラは腕を組み、見下して言った。

「俺のジジイは崇敬大司教だし、お前らと違って俺はずっと教会内で生きてきた。俺の一声でお前らの家族がどうなるかくらいわかるだろ。分かったら黙ってついてこい。死にゃしないんだ」

「カリエラ、誤解を招くような言い方はしない方がいいわ」

 ここにきてサンダルフォナがフォローに出た。彼女の手の中では、レラーとメヴァーエルが至極不満そうにしている。

「逆に言えば、カリエラの言う事を聞いていれば家族みんなが誉められることもありえるんだよ。ね、そうだよね。出世間違いなしだよね」

「うん」

 何だか論点をすり替えられた気がする。しかしサンダルフォナはカリエラ側についているし、レラーもメヴァーエルも口ではカリエラに勝てないのだ。

「何であたしなの? あたしよりもっと適した人いたじゃん…」

「俺に言うな。勅令はお前に下ったんだ」

 行くぞ、とカリエラは歩きだしてしまった。

 カリエラのことが嫌いなわけではない。不信感があるわけでもない。カリエラだって学生時代は一緒に馬鹿をしたし、揃って教師に呼び出されたこともある。ただカリエラの有無を言わせない強引さはあまり好きではなかった。元々ペラッカは人にはっきり物を言わない。長い物には巻かれるし、打たれないように真っ先に引っ込む釘である。それに対して別に不満を持ったことはない。はみ出し者になるのは怖かったし、集団で行動することが求められる天使の、不適応者とは関わりたくなかった。虐められっ子がいたら、率先して不干渉勢力に回るタイプである。虐めが悪いことだとか、虐められるのは可哀想だとか、そんなことを考える子でもなかった。なぜならそれは自分には関係ないことだったし、そんなことを考えるのは偽善だとも思っていた。

 日常は平凡で、でもそれは自分と言う平凡な女の子には相当なものだった。今はいないが、その内人並に恋愛をして平凡な男と結婚して子供を産んで、ドタバタしながらいつの間にか天使になるだろうと思っていた。

 それがいったい何がどうしてこんなところで、しかも恥をかき捨ててきたというのだ。

「カリエラ」

「まだ文句あっか」

「お嫁に行けなくなったら修道院クチキキしてよね」

「おう任せろ。聖女を引きこんだとあらば俺の株も上がる」

 いつものカリエラだ。少し悩んだのが馬鹿馬鹿しくなった。このままでも別によかっただろうが、何となく、もう仲直りをしたと言う証拠が欲しくて、ペラッカは尋ねた。

「新しい町、なんていうの?」

「サデュソンの町だ。フェルゴルビーよりは都会だぞ」

「どんな町?」

「行ったことねえからよくわかんねえや」

「お店あるかな?」

「おう、鍛冶屋もあるだろうし、多分薬屋もあるんじゃん?」

「薬屋? 道具屋とは違うの?」

「薬屋には化粧品とかあるんだよ。まじないを描く為の道具とか、あとアクセサリーなんかも…」

 すると、突然レラーが黄色い声を出し、飛び上がって喜んだ。色気のない旅で嫌気が差していたのだろう。今から無駄遣いをしそうなので、カリエラが釘を刺した。

「ただーし! 今お金もってない。五キンだけ」

「あーん、そんなのないわ! せっかくお洒落なお店があって入らないなんて人生の八割損してるわ!」

 お嬢様であるメヴァーエルなど、家に帰ればいくらでもアクセサリーや宝石があるのだろうが、そう言う問題ではないらしい。ペラッカは生憎お洒落にはあまり興味がないので、そう言う実感がわかない。サンダルフォナはそこそこ着こなすが、カリエラ程ではないにしても、やはりあまり興味がないようだ。

「寧ろ宿賃もねえよ? 野宿すっかも」

「いやーっ! 女の子が物騒よう」

「まあ、それを考えて、俺ズボンつくったんだけどな」

 どっかの馬鹿がミニスカにしやがったからな。結構カリエラは根に持っているらしい。

「いざとなったら着火剤があるから、それだけで随分安全だと思うけど」

 サンダルフォナは野宿に抵抗がないらしい。カリエラも彼女も、男として生まれればよかったのではないだろうか。


 結局夜になってしまった。まだ町の灯りは見えない。着火剤で焚火を起こし、丸くなった。まだ外は少し寒く、レラーとメヴァーエルは寒いと言って喚いたが、その内疲れたらしく、寝入ってしまっていた。逆に一番遅くまで起きていたのはカリエラで、『俺が寝たら誰も敵の気配に気づかない』だそうだ。

「でもカリエラ、この数日間ずっとそれだったでしょ? 少し休まないと体がもたないんじゃない? 体弱い方なんだし」

「ああまあ…。うん、そうなんだけど、ペラを危険な目に会わせるわけにもいかないし」

「皆と交代でもいいじゃん」

 サンダルフォナも起きていた。いや、起きたと言う方が正しいだろうか。声は寝ている。

「レラーとメヴィに見張りなんて頼めねえよ…」

「私が見張ってるよ? 動物が来たら追いかえして、変な人が来たら皆起こしたらいいんでしょ?」

「んー、まあ、そうだけど…。じゃあ頼む」

 カリエラはベレッタを押し付けると、自分もころんと体を横たえた。そして大きく息を吐く。余程疲れていたのは事実らしく、すぐに寝入ってしまった。

「ペラも寝なよ。多分明日は一日歩くんじゃないかな」

「なんで?」

「町の灯りが見えないから」

 辺りを見回すとそれは確かに事実で、何もない草原では、獣の唸りが遠く聞こえるくらいだ。途中獣に襲われたりもした。追い払うと仲間を連れてくるかもしれないからと言って、可哀想だとは思ったが、カリエラは全て撃ち殺していた。当分肉はいらない………。

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