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仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
第三章 猛禽草木
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EPISODE39 ナタスのもり

 迷いに迷って、本当に夜になってしまったらしい。星の光も月の光も届かない真っ暗闇を、メヴァーエルのマジカルステッキの僅かな炎で照らして歩く。もう街道も見失ってしまった。猛獣たちの声が止んで、身を潜めることが出来そうになったので、カリエラを降ろし、サンダルフォナもチェーンソーを地面に突き立て、ぐったりと座り込んだ。

「まずいな…。砦まで、持たせねえと…」

「二人とも、休んだ方がいいよ。あたし、見張りしてるからさ」

「甘えましょう、カリエラ。ナタスは特に貴方の協力が必要なのよ」

「ああ…。ペラ、お願いできるか」

 ペラッカが首肯すると、カリエラは地面に倒れ込み、深い眠りについた。サンダルフォナも横になり、目を閉じる。只管攻撃をしてきた二人は、疲労も蓄積されているのだろう。まして前日に出産と葬儀に立ち会っている。二人の体力はもう限界だ。こんな時位、役に立たなくては。唯の傀儡で居て良い時期は、最早過ぎたのだ。

「ペラちゃんが起きてるならウチも起きてる~」

 ひょこ、とレラーが寝袋の中から頭を出す。それにつられて、メヴァーエルも寝袋の中から顔を出した。

「二人とも、よっぽど疲れてたんだね。寝袋にも入らないで寝ちゃった」

「毛布かけてあげよ~よ~」

「毛布なんてないわ。マントくらいしか…」

「あたしのマント、カリエラにかけるから、メヴィのマントはサンにかけてあげて」

「はーい」

 ペラッカがマントを外してカリエラにかけると、小さく丸まったカリエラの身体がすっぽり隠れた。そう言えばこの痛々しい衣装は皆カリエラのデザインだ。もしかしたら寝袋が使えなくなったり、寝袋でカバー出来なかったりした時のために、このマントを作ったのかもしれない。肩から掛けている時は分からなかったが、こうして見るとタオルケットの様だ。少し泥で汚れた白いタオルケットの中で、カリエラは子供の様にすやすやと眠る。何となく温かい気持ちになり、可愛らしく思って、確実に意識のないカリエラの耳元でそっと日頃の感謝を伝えると、何故かメヴァーエルに凄い眼で見られた。

「ペラ、うち、リバは許せるけどサンピーは許せない」

「は、はい? さん…?」

「カリエラはサンの嫁なの! 余計な横槍しない!」

「は、はい、スミマセン…」

 全く言っていることが分からないが、多分分からない方が良いだろう。得てしてメヴァーエルの妄想とはそう言うものだ。

「ねえねえ、次の町ってどんなところなのかな~?」

「町じゃなくて砦って言ってたよ」

「要塞みたいなところかな。何れにしろまたあたしが何かしらしなきゃいけないんだよね…」

「ヨーサイって何?」

「レラー、あたしでも覚えてる事覚えてないの? 歴史の授業で習ったじゃん。テストにも出たよ」

「歴史の時間は公的お昼寝タイム~」

「まあ、それに異議は唱えないけど…。あれだよ、『文明』時代の塀の一つだよ。塀の中に家があるの」

「塀の中?」

「ヤダー、アインってばそんなのばっかり! もっとまともな家ないの!?」

「メヴィ、我儘言っちゃダメだよ。これ以上カリエラの苦労増やしたらダメだよ」

「苦労? いつも通りのジコチューじゃん」

 そう言えばレラーとメヴァーエルは、この旅の重要性をあまり知らないのだった。カリエラは何かを遠まわしに伝えようとしている。恐らくまだ気づいているのはペラッカだけ…。そしてそれを教える場は今ではない。カリエラが全て判断している。サンダルフォナには話しても良いと言っていた。

 カリエラはアイン人なのだろうか。確かに祖父母のアンモナ夫妻はアインの末裔だが、ダアト育ちだ。アイン人としての教育は受けていない筈。否、カリエラがアイン人かどうかは別にどうでもいい。が、サンダルフォナへの信頼は、唯の学友というだけではないような気がするのだ。アイン人の生活習慣―――『墓場』『出産』に対し、カリエラもサンダルフォナも全く動じていなかった。ペラッカは単純に逃げるきっかけを失ってしまっただけだったし、レラーは好奇心で逃げなかった。メヴァーエルの反応が、ダアト人としては一番理に適っている。

 それに、何よりダアト人の出産に携わるのはパラベラム会ではない。パラベラム会は『その時』の為の儀式を執行する会であり、出産を携わる修道会は他にある。カリエラは嘘を吐いたのか、それとも修道会では一律基本的な事を学ぶのか…。

 しかし尻の穴を押していただけでも、出産が凄まじい労力と機転の速さが必要とされるということは、ひしひしと伝わって来た。俄か知識だけでどうにかなるものではない。

 カリエラが話そうとしない理由。サンダルフォナだけに話せる理由。レラーに、メヴァーエルに話せない理由…。それはカリエラの抱えるこの旅の裏の目的の事なのだろうか。

「別に、メヴィがそう思ってるんだったらいいんじゃない」

「あ! なーに、その角が立つ良い方!」

「ウチもメヴィちゃんは間違ってないと思うよ~。だってカリエラちゃん何もかもが無茶苦茶なんだもん」

 彼女を無茶苦茶にかきたてる何かがあると言う発想には辿りつかないらしい。それから二人は如何にカリエラが無茶苦茶あという事を延々と話していた。お蔭で眠る暇など無かった。

 勿論翌朝にはカリエラに全て話したので、二人は朝っぱらから猛獣を一匹相手にする羽目になった。



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