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仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
第三章 猛禽草木
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EPISODE38 ぎょうしょうかいどう

 その翌日、一行はシルファーの村を出た。見送りに来てくれた村人たちは、感謝を叫んでいたが、あの変わり身の早さを見ていると、あまり嬉しくない。

 村長の話では、ヴィアナルス会の二人が来て周囲の猛獣を狂わせ、村人たちを威圧している間、外には出ていなかったと言う。猛獣の巣に村長ら村の名士を案内させ、狂わせると、さっさと村に帰ってきて、反乱分子がいないか、念入りにチェックし、如何に自分達に力があるか誇示していたらしい。森の奥のナタスは、元々獣から身を護るために砦になっている。故に、恐らく猛獣の被害はないだろうとのこと。それでも念には念を入れて、シルファーとナタスを繋ぐ街道を歩くことを進められた。そこは猛毒植物も全て刈り取ってあるし、多少の獣なら弾けるだけの小さな柵があるし、節々に猛獣対策の仕掛けもあるとのことだった。

 そう言う訳で、一行は原生林の中にある石畳の凸凹道を歩く羽目になった。毎週使っていると言っていた割に、かなり荒れている。石畳は割れ、黒いシミや白っぽい丸いシミもある。おまけに動物のものらしき引っ掻き傷まである。しかも獣避けの筈の柵の低さと言ったらない。カリエラ曰く、猛獣が身を潜めた時の目の高さと同じらしいが、飛び越えるどころか跨いで来そうなくらいに低いのだ。朝出たはずなのに、ほんの数時間しか歩いていない筈なのに、もう暗い。元々暗い森なのだろうけども、何にも増して、樹が多い。どんどん森が深くなり、枝が空を覆い、岩を貫く草が轟々と唸っている。

 否、これは獣の声だろうか。時折どこかで獲物を仕留めるのを主張するかのように、鴉や鷹の類が叫ぶ。サデュソンの病院とは別の不気味さと、沈黙の島とは別の静けさとがあり、ペラッカは怖くなってカリエラにしがみついた。

「ヤベェなぁ…」

「な、何が?」

「スミスの弾、一発も残ってねえ。シルファーの獣で全部使っちまった。あんな田舎に弾なんか売ってねえし」

「だ、だから何?」

「俺、疲れてたし、…やっちまったなあ」

「だ、だから何!?」

「お前、墓穴掘る天才」

 すっとカリエラが目の前を指差す。闇の中に、何か白い半月状の模様のような物が浮かび上がっている。カリエラはすーっとその指先で周囲を見渡した。

「え、え、まさか…」

「カリエラ、やっちゃったわね…」

「ああサン、お互いやっちまったなぁ…」

 ぐるりと一周すると、同じ模様が全ての方向に浮かび上がっている。大小の違いさえあるが、確かに同じ模様だ。ガチャ、とカリエラがモーニングスターを構える。カリエラも、最低限の手入れしかしていないチェーンソーを二つ構える。チェーンソーの唸り声に呼応する様に、半月状の模様が吼えた。畏縮する一向に向かって、カリエラがモーニングスターを振り回しながら発破をかける。

「正面強行突破ァー!!!」

「後方は任せて!!」

「そんな連係プレイしないでーっ!」

「突っ走れぇぇぇぇ!!!」

 雄叫びを上げながら走るカリエラに必死について行く。彼女には道が見えているらしく、ひょいひょいと獣を避けて行くが、ペラッカ達にはそれが出来ない。カリエラが後ろから後頭部を砕き、強引に轍を作る。捌き切れなかったサイドの獣は、サンダルフォナが切り殺した。

「カリエラちゃ~ん! 方向これで合ってるの~?」

 レラーがダイヤシールドで獣の爪を受け止めながら聞いて来る。

「街道沿いに歩く暇なんてあるか、とにかく薄いとこから突破突破突破ー!!」

「ちょ、止めて! 遭難フラグ止めてー!」

「早く走りなさい! チェーンソーだってそんなに持たないんだからね!」

 只管只管走った。獣は種を変え色を変え襲いかかって来たが、カリエラは自分が血まみれになる事も白い欠片を纏うことも厭わず、力付くで包囲網を食い破る。


 二人の息が上がって、まともに立っていられなくなっても、どんなに疲れていても、絶対に獣たちをペラッカ達には触らせなかった。サンダルフォナも、カリエラの疲労を考慮し、激しく舞うようにチェーンソーを振り翳す。

「は…っは…っは…っ。め、メヴィ!」

「ひゃ! な、なに!?」

 こっちこっち、と、カリエラが手招きをする。落ちてくる獣の首をマジカルステッキで弾いて駆け寄ると、マジカルステッキを奪われた。

「ちょっと借りるぞ」

「ど、どうするの?」

 カリエラは何も言わず、メヴァーエルのネックレスからナタナエルの粉を一本引き抜くと、袋を切って遠くに投げた。サラサラと粉が落ちて行く。何をするのかと黙って見ていると、カリエラはそのままマジカルステッキを翳した。その途端、真っ直ぐに炎が走り、森が火の光によって炎の道を赤々と照らした。炎にすら怯えなくなったカマエルのペットたちが、次々と飛び込み、勝手に火達磨になる。

「メヴィ、俺が指示する。今の要領で道作れ。もう限界だ…」

 そう言って、カリエラはふらりとその場に倒れ込んだ。サンダルフォナが一瞬気を取られるが、珍しく空気を呼んだレラーがカリエラを背負う。

「ペラちゃん! メヴィちゃん! ウチ、頑張ってカリエラちゃん運ぶから、道作って!」

「う、うん! 分かった!」

 疲労で朦朧としながら、カリエラはレラーの耳元で囁く様に道を切り開く。ペラッカも銃弾が無く、弩の矢も無く、レラーから借りた重たいスペードソードを振り回す事くらいしか出来なかった。



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