EPISODE31 パラベラムかいフィールド
レラーと時を同じくして、ペラッカはイシュに連れられて芝生のある道場のような場所に連れてこられた。
「ここで、最後の訓練をするッス。但し、今回使う銃はこれッス」
ひょい、と渡されたのは訓練用の銃だ。弾倉を確認すると、今までのような鈍色ではなく、鮮やかな弾が入っている。ペイント弾という奴だろう。
「このペイント弾が当たると、血みたいに赤くなるッス。んで、―――」
バシュ!
イシュが何か言いかけた時、突然二人の頭近くを何かが吹き飛んで行った。驚いて振り向くと、弩を構えたカリエラと、お付のイシャがいた。壁を見ると、小さなダーツのような物が壁に三本刺さって燃えている。
「おっしゃー! 改良成功!」
「か、カリエラさん? な、何してんの? 怪我は?」
「ようペラ、お久ー。なんだイシュ、何も言ってねえのか?」
「いや、これから話そうと…」
まあいいや、と、カリエラは弩をペラッカに押し付けた。
「その弩改造してな、拡散発射と三連射と、あとついでだったから発火装置も付けた。マッチが沢山飛んでいくような感じ。これ、お前の武器になるからな。あとベレッタ」
「あ、ドーモ」
「んで、最後の訓練だけど、俺と手合せだ。喜べ」
「あ、ドーモ。………ええええ!!」
思わず奇怪なポーズをとるペラッカ。イシャが笑いをこらえている。
「病み上がりとはいえ引けは取らねえぜ。そのペイント弾で俺に三発キメろ。分かったな?」
「う、うん…」
「もし俺に武器を奪われたら、何とかして取り返すか、弩に切り替えて応戦しろ」
「う、うん…。…って、攻撃してくるの!?」
「当たり前だろ、訓練なんだから。これからの旅は北勢力との戦いになるからな。甘い考えじゃ全滅だ」
そう言うと、カリエラはぐーっと伸びをして、軽やかに芝生の上に立った。イシュに促され、渋々カリエラも弩を背中に背負い、ベレッタを構える。カリエラは音を立てながら一番奥まで歩いていき、振り向いて巨大な回転式銃を構えた。あれがスミスというものだろうか。疑問に思っていると、カリエラが答えた。
「コイツはパラベラム会大司祭以上のみに許される、対人以上の威力を誇るスミスだ。一発でも当たれば人間は勿論、強い加護のある天使見習いでもお陀仏だぜ。これは訓練用だからペイント弾が入ってるが、一発でも当たればそこで俺への攻撃のカウントはゼロ、早い話がやり直しだ。…だが今のお前なら、こいつを避けられる筈だ」
ペラッカとて、毎日毎日撃ってばかりいたわけではない。敵を知るにはまず自分から、銃の性能、構造、限界、技術、全てを短期間でイシュに叩きこまれた。初めて触れる知識に興奮しながら、貪欲にそれらを吸収したのだ。
銃の威力と命中精度は比例する。大きな銃であればあるほど、高火力であればあるほど、命中精度は下がる。だから銃弾を躱すためには、相手の眼を見て、銃の恐怖に打ち克ち、例え当たったとしても怯まず突っ込み、銃を奪う事。それが出来なければ、確実に相手を沈める。これしかない。
「い、行くよ!」
「おう!」
カリエラが両手でスミスを構え、腰に力を入れる。先ずはどれくらいカリエラが精密な射撃をするか見なければならない。ペラッカはその場から飛びのき、音速の弾道を見切る。勿論本当に見える訳ではない。が、間違いなくカリエラのペイント弾はペラッカの頭を打ちぬける位置を飛んで行っている。しかしその後のポジショニングの時間が長い。ペラッカの意図に気づいたカリエラが、病み上がりとは思えない勢いで飛びのき、もう一度照準を合わせてくる。そのまま前に転がると、ペラッカの居た地面が抉れて真赤に染まった。まるで自分の身体の一部が削り取られたようだ。練習用とはいえ威力はそれほど変わらないらしい。確かにこんなものが当たったら即死だろう。ベレッタを腰のホルダーに差し、背中の弩を構える。遠くに居るカリエラを狙うには、『点』の攻撃であるベレッタよりも、『面』の攻撃である弩の拡散発射の方が効果的と考えたからだ。原理は銃と同じ、しっかり狙って引き金を絞る。
まずは一発、僅かな反動が返ってくる。カリエラの身体には当たっていない。カリエラはこちらに突進しながら、スミスを一発撃ちこんでくるが、走りながらでは当たらないのは自明の理だ。恐らく焦らせるのが目的だろう。続いてもう一発、先ほどよりも強い反動が返ってくる。今度は一発カリエラの肩を掠めた。
「上等! どんな弾でも一発は一発だ!」
カリエラが獣の様に吼え声をあげる。身体が鈍って鈍って仕方がないのかもしれない。深追いせず、左へ飛ぶ。スミスがその場の地面を二か所抉った。もう一歩ずれていたら直撃していた。
「どうした、あと二発だぜ!」
「あ!」
いつの間にかカリエラは目と鼻の先にいて、眉間にスミスを突き付けてきていた。だがまだだ。まだ引き金は引かれていない! ペラッカは両腕をカリエラの腕に押し当てて弾道をズラす。耳元で凄まじい音がした。これで六発。スミスの中に最早弾はない! ベレッタを逆にカリエラの額に押し当て、そのまま片手で引き金を引く。例えペラッカの腕が細くとも、ゼロ距離では外しようがない。ペイント弾はカリエラの額で弾けた。だがこれで引くようなカリエラではない。その読みは当たり、薬莢を握り目つぶしに投げてきた。臭い。一度距離を取ろうと背中を向けると、がちゃん、と装填される音がする。不味い! と思って咄嗟に今度は右へごろごろと転がる。危なかった。泥だらけになりながらも更に距離を取り、弩を構える。しかし弩が被弾し、弾け飛んでしまった。
「安心しな、武器への攻撃はノーカンだ!」
カリエラが迫る。残るベレッタの弾の事も考えると、ここで決めなければ。カリエラもそれを分かっているのだろう。両手で狙いを定めながらにじり寄ってくる。ならここが―――勝負!
「たあああああああ!!!」
自分自身を奮い立たせ、低い腰でカリエラに突進する。開けていた距離を一直線に詰めると被弾する。ステップを交えながら、少しずつ、しかし確実に距離を詰める。弾倉を抜き取り、それを手元に投げつける。弾道が大きくズレる。その隙に、小さな体を最大限に生かしてカリエラの上に跨り、銃を握った手を押さえつけながら再び眉間に銃口を当てる。
パァン!
「はぁ…っはぁ…っはぁ…っ」
「………。オーケイ、上出来だ」
ニヤリと笑ったカリエラの口の端に、どろりと液体が流れる。ぽた、ぽた、とペラッカの額からペイントが流れ出ている。
「で、でもカリエラ、あたし―――」
「うるせえ、三発は三発。オメーは二発急所に当ててるし、銃に対する免疫も出来てる」
ごそ、と身をあげて、カリエラはにかっと笑い、ペラッカの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「文句なしの合格だ! よくやったな、ペラ」
「………うん!」
「うっしゃ! 分かったらそのドロッドロの身体綺麗にして、出発の準備だ! 安心しろ、今回は衣装も全部新調したからな。もう肩身の狭い思いはしなくていいぜ!」
「うん、カリエラも、一緒にシャワー行こ」
「おうおう、オメーも腰が抜けたか? あっはっは! 俺もだ! おーいイシュ! 車椅子二つ!」
シャワーを浴び、支給された修道服に身を包んでパラベラム会を出ると、私服になったレラー、メヴァーエル、サンダルフォナが待っていた。
「おうサン、皆修業は上手く行ったみたいだな」
「ええ、ばっちりよ」
「ウチ、すっご~いレベルアップしたんだから~!」
「マジカルステッキの扱いは任せてー!」
元気いっぱいの二人はペラッカに抱きつき、聖女の修業内容を聞いている。新しくなった弩と、正式に与えられたベレッタに興味津々の様だ。そんな微笑ましい光景を見て、カリエラは優しく笑っている。サンダルフォナはそっと忍び寄り、カリエラにハーヤーからもらったアルミケースと、小さな銃を見せた。
「………ハーヤー婆さんか」
「ええ。心配していたわ」
「サン、お前には本当の事を言っておく」
カリエラはお転婆三人衆を見ていた、天女のような笑みを悪魔の様に細め、懐から透明なケースを見せた。中には小さなアンプルが入っている。
「『天使』はあと二体が限界だ。そして俺は、今までの旅でこいつを一度しか使ってない」
「それだけね?」
「ああ、そうだ。そしてその一回は自力で乗り越えた。俺はそこまで進化してる」
「わかった。貴方を信じるわ、カリエラ」
「おうよ。―――じゃあオメーら! 聖女一行復活、打倒ヴィアナルス! 目指すは西、シルファーの町だ!」
かくして聖女一行は、再びダアト国を後にしたのであった。




