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仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
第二章 白砂青松
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EPISODE28 ヨナのへや

「うー…疲れた」

 その日のプログラムを全て終え、ペラッカはベッドに沈み込んだ。ベッドでぐったりするなど久しぶりな気がする。銃の特訓は思ったよりも楽しい。未知のものに触れる喜び、久しく経験していないものだった。

 そう言えば、ここにカリエラも住んでいる筈なのに、とんと見舞いに行っていない。カリエラの部屋をペラッカが使っている現状、カリエラはどこか別の、救護室のような場所にいるのだろうか。それに、教会の敷地内で毎日のように凄い量の煙が立っている。空にそのまま昇って行くのに、教会の外にいるときは気づかなかった。それについてもカリエラに聞いてみたい。

 とはいえ、カリエラは現状イシュにくっついて移動しているし、単独行動は禁じられている。修道服が統一されていない分、多少知らない修道会員とすれ違ってもある程度は誤魔化せるが、突っ込んだ話をされたら部外者とバレてしまう。

 どうにかして、カリエラの所に行けないものだろうか…。それか気分転換になるような場所。

「あ、そだ」

 ペラッカはふと、真夏の青春を思い出した。早速内線番号を調べて、目的の部屋に電話をかける。

「あ、もしもし。今お暇ですか? 暇だったら、お部屋にお伺いしてもいいですか? お茶でもしません?」


 むっふっふ、とペラッカは悪い笑みが堪えきれない。今、ペラッカはカリエラの想い人ヨナの部屋にいる。ヨナは何だが不気味がっているが、疲れの所為だと割り切っているようだ。涼しい顔をして、ミルクピッチャーにミルクを注ぎ、レモンと角砂糖をテーブルに置く。

「何かすみません、司祭様の多忙も知らず」

「いえ、今は儀礼の当番ではないので」

「えっとぉ…。出来ればその、フランクにお話したいなあって…」

 しかしヨナは首を振った。

「以前は知らなかったとはいえ、法王様の勅令の下った方に、俗語を使う訳には行きません」

「そうじゃなくって! た、例えばさ、カリエラの話とかさ?」

 すると、ヨナは傾けていたティーカップで顔を隠す様に煽った。

「ラファエラ修道女ですか…。ああ見えて、彼女はいい子ですよ」

 ぶふっと紅茶を吹き出しそうになったが堪える。

「例えばどんなところ?」

「良く気のつく子です。心に傷を負った人を放っておけない…」

 無理矢理旅に出されたことは黙っておこう。

「正義感に溢れ、理想に燃え、その為に命を賭けています。………愚かな娘です。そんなことをしても、目的は成し遂げられないのに」

「目的?」

 失言した、という顔つきになったが、ペラッカがじっと見つめていると、観念したのか、話し始めた。

「彼女は…ご両親を探しているんです」

「両親って…。カリエラの親、やっぱり生きているんですか?」

「はい、御健在です。現状はどうか知りませんが…。彼女の中では、今でも生き続けている」

「…あたしたちには、帰る場所はお爺ちゃんとお婆ちゃんの所しかないって…」

「確かに、アンモナ崇敬大司教様の孫として、養護施設での待遇も厚く、パラベラム会にもあの体力で入会できたのは崇敬大司教のお力添えによるものであると噂されています。…しかしそれもこれも、実の両親に会いたいがための行動ではないかと、私は思うのです」

「ヨナさんから見たカリエラって…どんな感じ?」

 カリエラの恋路が叶うと良いのだが。しかしヨナは溜息を吐いて、答えた。

「………とても悲しい子だと思います」

「そ、そうじゃなくて、好きとか、嫌いとか…」

「恋愛感情という事ですか?」

「そ、そうそう! カリエラ、ヨナさんの前ではスッゴク可愛いじゃない? 普段あたし達にそんな姿見せないもん! ヨナさんが特別だから、そうなんだよね?」

「そんなことは無いでしょう。僕と彼女は故郷も境遇も似ているから、兄のように慕ってくれていることは知っています」

 すっぱり否定された。

「故郷…?」

「僕、幼い頃に両親を亡くしまして」

「ご両親を? じゃあヨナさんは年を取ってからの子供なんですね! ヨナさんが子供の内に『その時』が来たから天使様になったんでしょ? いいなあ、うちからはまだ天使様出てないよ」

「………。まあ、同意義です」

 何だかパッとしない解答だ。

「僕も養護施設で育ちました。その時一緒にいたのがラファエラ修道女―――当時はカリエラですね。カリエラはあの当時は僕より年下でありながら施設の子供達の遊び相手として奉仕していました。…もっともあの頃、アンモナ崇敬大司教様はアインの血筋でありながら大司教にまで昇進し、凄まじい批難と称賛の嵐の中に居ましたから、恐らくカリエラの面倒を見ることは出来なかったでしょうが」

「カリエラって、いつごろダアトに来たの? カリエラの部屋でこんなモノ見つけたんだけど、これ、ダアトじゃないよね」

 ペラッカはヨナに、カリエラの部屋で見つけた雪国の写真を見せる。ヨナはそれを手に取り、僅かに眉間に皺を寄せたが、溜息を吐いて首を振った。

「残念ですがよく分かりませんね」

 ヨナにはそれからも色々カリエラの過去について聞いてみたが、するすると躱されてしまい、本当に世間話しか出来なかった。



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