表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
丑刻参り惨殺事件
98/109

8話 呪いのサイト 4

 主任執務室──談話スペース



 お菊とサマンサがこじんまりとした捜査本部を設置していると、長谷が帰ってきた。

 買ってきたコーヒーを一気飲みして机の足元のゴミ箱に捨てる。そのまま持って帰ってきた情報をホワイトボードに殴り書きした。


 お菊はサマンサと目配せし、サマンサにアルベルトを呼びに行かせる。お菊は長谷の後ろにそっと寄ると、その背中に問いかけた。


「何かありんした?」

「あったわよ、面倒臭いのがね。二人は収穫あったの? 早く行動しないとまた犠牲者が出るわ」

「わっちは少し。サムは知らん」

 お菊は少し、苛立ったように煙管をかじった。


 ***


「遺族や友人との関係は良好。バイトの女性とはややトラブルがあったものの、動機にはならない可能性が高い。なお、田畑幸司にはやや嘘をつく傾向がみられたそうよ」

「杭には犯人のものと(おぼ)しき指紋は検出されず、付着していた服の繊維や血痕は全て被害者のものと結果が出たのだ」

 長谷とアルベルトの報告を聞き、サマンサはふぅん、と相槌を打った。


 お菊は二人の報告を付箋にまとめ、頬杖をついた。長谷はアルベルトと鑑識結果を共有する。


「犯人は家族・友人関係とは関係ない人間に殺されたのだ?」

「それならもっと雑か、証拠の残る殺し方はしないでしょ。わざわざ杭で心臓を一突きしてくれてんのよ。恨みはあったはず」

「自己承認欲求があったとかは? 大昔にありんした。手間のかかる殺人を繰り返した事件が······」

「でも今の時代、セキュリティも技術も進歩したわ。どこぞの暴力オカマも太刀打ちできないような最新技術がわんさかあるのよ」

「口閉じなんし。存在自体が目障りなのに喋られたら余計うるさい」

「こンの······ッ!」


 お菊はサマンサと睨み合う。

 ことある事に突っかかってきては、すぐに感情的になるサマンサがうざったく、適当にあしらうと喧嘩に発展する。

 お菊は煙管を肺いっぱいに吸うと、水蒸気の煙をサマンサの顔にかけようとした。だが、長谷がお菊の口を塞ぎ、二人の喧嘩を強制的に止めた。

「はいはい、喧嘩しないの。サム、サイトの件の報告をしてちょうだい」


 サマンサは不満げにパソコンを開いた。

 長谷はお菊に「喧嘩するな」と威圧的な視線を送り、お菊は不完全燃焼ながらも承諾し、鼻から煙を吐いた。アルフレッドが顔を隠してこっそり笑っていた。

 サマンサはキーボードを叩きながら報告をする。


「サイトは特定の時間にしか開かないようにプログラムされていて、ちょっと言えないやり方でこじ開けたわ」

 そう言ってサマンサは皆に見えるようにパソコンの画面を見せる。

 そこにはサイトの説明もなく、名前の入力欄と送信ボタンしかなかった。

 それでも、背景は黒に近い紫で、ロウソクと藁人形のイラストが恐ろしさを助長する。お菊は何とも言い難い怖さを感じた。

 サマンサは報告を続けた。


「サイトは開けたけど、見ての通りよ。何も書かれてない。名前の入力欄は記入出来ない。管理人特定や利用者名簿の入手にはもうちょっと時間がかかるわぁ」

「分かったわ。引き続きサイトの調査よろしく。お菊は?」


 お菊は長谷に話を振られ、煙管をしまう。腕を組み、悩ましげに残りの煙を吐いた。



「──そのサムがこじ開けたサイトが、殺人代行サイト()()()ってことくらいでありんす」



 それに長谷が食いついた。

 髪を乱し、お菊の鼻先にまで顔を近づけた。



「なんだって······っ!」



 怒っていない。殺気がないと知っていながらも、お菊は反射的に短刀に手を伸ばしていた。無意識で防衛本能が働いたのだ。それだけ長谷の顔は恐ろしかった。

 関係ないアルベルトが悲鳴を上げ、お菊は「近い」と長谷を押し返す。


「噂しか流れていんせん」


 民間の殺し屋や政府と繋がっている暗殺者は大勢いる。しかし、殺人代行のサイトとなると極端に数が少なく、見つけたとしても警察に踏み込まれて閉鎖されていたり、それを利用した詐欺だったりと本当に殺しを請け負うことはない。


 だが骸は言った。

『半年足らずで急激に成長してるサイトだって聞いた。しかも、足のつかない殺しで関東圏を範囲としてる。同じ手口のが七件あったよ』と。


 それを伝えると、アルベルトはすぐに執務室を出ていった。「別の方法で調べ直す」と長谷に伝えて。長谷は返事をしなかった。


 サマンサは特に突っかかるような真似はしなかった。腕を組み、ソファーに深く持たれただけ。

「猫ちゃんの情報はそれだけ?」

 お菊にそう尋ねるが、お菊は首を横に振った。


「管理人の情報までは掴んだ」

 大枚はたいて手に入れた管理人の居場所。ただ、そこには大きな問題が立ちはだかっていた。

 サマンサは目を輝かせ、逮捕を急かすが長谷は渋い顔で動こうとしない。

 お菊はまた煙管を筒から出した。


「ちょっとぉ、何で行かないのよ。管理人分かってんなら早く逮捕しましょうよ」

「それは無理よ。私達は逮捕状持ってないのよ」

「裁判所で発行してくれるんでしょ? すぐにでも行けば被害者は増えないわ」

「証拠がありんせん。それに、管理人が犯人とも限りんせんし、そのサイトが本当に殺人代行なのかも確認取らないと······」

「ああもう、面倒だわ! 盗聴でも侵入でもして証拠取ればいいじゃない!」

「サァム、これは刑事事件で刑事課(わたし)の管轄 。これが諜報課(あなた)の所ならそれでいいけど、私の領域である以上、勝手なことはしないでちょうだい」


 サマンサは不満そうに返事をした。

 お菊は煙管をふかしてサマンサを鼻で笑う。サマンサが机ごとお菊のスネを蹴った。

 両方のスネに走る激痛に悶えていると、長谷がお菊から煙管を奪い取る。

「管理人の住所、もしくは名前は? ちょっと任意同行願うから」

「もうちょっと労わってくんなんし。今わっち悶えてるんだけど」

「知らん。自業自得でしょ」


 長谷はお菊から住所のメモをもぎ取って執務室を出ていった。サマンサは堪える気がない笑いをお菊に浴びせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ