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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
丑刻参り惨殺事件
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5話 呪いのサイト

 少秘警──情報処理課


 二階に陣取る科学捜査研究室を開けると、アルベルトが何かを呟きながら文字を書き連ねていた。床に散ったそれを拾うが、英語でもなければどこぞの言語とも当てはまらない文字を書き殴った跡があった。



「アル! 鑑定!」



 サマンサがアルベルトの背中に叫ぶと、彼は上半身を飛びあがらせて床に落ちた。

「ビックリしたのだ。ああ、証拠品? やっておくのだ……ああ、まだドキドキしてる」

「集中しすぎる癖、何とかしなんし。襲われたら真っ先に死ぬぞ」

「脅すなんて酷いのだ。まぁでも、考えるよ。で、どれを調べればいいのだ?」


 お菊は抱えていた杭を机の上に乱暴に置き、サマンサは細かな証拠品と現場写真を三箱ばかり積み重ねた。アルベルトからは血の気が引く。



「「全部よろしく」」



 二人でそう言い残し、喧嘩しながら研究室を出ていく。アルフレッドは証拠品を少し漁ると、力尽きてその場に倒れた。


 ***


 少秘警──主任執務室


 執務室の片隅にある談話スペースに長谷がいた。コーヒーをちゃんと三人分用意して、ホワイトボードを設置いていた。

 戻ってきたお菊たちを見るなり「情報共有」と、刑事課の行動力を発揮する。




「被害者は田畑幸司 四十五歳 男性。死因は巨大な杭による胸部貫通、失血死。死亡推定時刻は丑三つ時、まぁ二時から二時三十分の間でありんす」

「Mr.田畑は事件当夜、二丁目の居酒屋······えっとぉ············」

「椿の枝、って読みんす」

「知ってるわよ! ちょっと止まっただけじゃない! そのツバキノエダで高校時代の友人と酒を飲み、午前一時に解散したみたいよ。オカミサンの証言もあったわぁ」

「はぁい。『椿の枝』······ね」

 長谷はホワイトボードに情報を書き連ねると、被害者の写真をじっと見つめた。

 お菊は椅子に腰掛けると、袖から付箋(ふせん)を出すと大まかな情報を書いてテーブルに貼り付ける。サマンサはノートパソコンを持ってくると何か調べ物を始めた。



「サム、家族構成は?」

「妻と息子が二人。息子は二人とも都内の高校みたいよ。財布に写真が入ってたわ。奥さんはちょっと分からない」

「了解〜。田畑さんの職業は?」

「商店を営んでるみたい。『タバタ商店 店長』の名刺がありんした」


 長谷は口をへの字にする。署長に頼りきったのかとお菊に詰め寄るが、事件は今日知ったばかりで尚且つ、二人だけで対応しきれるはずもない。

 お菊は適当に長谷をあしらって証拠品のスマホを弄り出した。

 画面は割れ、電源ボタンも反応しない。メモリーカードに損傷はないが、うんともすんとも言わないならば調べようがない。

 お菊がため息混じりにテーブルに投げ出すと、サマンサは口に手を当ててお菊を小馬鹿にする。


「ププッ。やぁね、これだから年寄りは。ケータイのデータをパソコンで見る方法があるのよ? まぁ、見れるデータは少ないでしょうけど。通話履歴とメールの履歴が見られれば上々ってとこかしらぁ」

「何だ。使えない奴」

「なんですって! あーあ、やる気なくしちゃったぁ。テーコと二人で頑張って〜」

 ソファーでだらけ、ヒラヒラと手を振るサマンサに長谷は「ちょっと!」と声を荒らげそうになる。それをお菊が止めると、テーブルに貼った付箋を整理しながら「諜報課爆破の件」とぽそりと呟いた。するとサマンサは勢いよく起き上がった。



「あーやる気が出た! 後で覚えてなさいよ!!」



 サマンサはスマホから小さなカードを引き抜き、自分の机の引き出しから変換コードを持ってくるとパソコンと繋いだ。

 サマンサがデータを移行している間に、お菊は今ある情報を整理した。

 大の字に広がった遺体と上に跨る杭。それが丑刻参りを示すことは分かった。だが人間に直接打ち込む丑刻参りがあってたまるか。

「もっとこっそりやりなんし」

「事件に文句言ってんじゃないわよ。花魁ゴリラ」

「そうよぉ。そういや片手で杭を引っこ抜いてたわね。昨夜の行動白状しなさい」

「え、そんな事したの? 怪しいわね。容疑者疑惑が浮いたわね」

「二人とも正座しなんし」


 話している間にサマンサのデータ移行が終了し、取り込んだデータを見せつける。


「これが私の実力よ!」


 パソコンにあるデータは電話帳とメール、ゲームのバックアップと追加データ。

 電話帳は友人も仕事仲間も少ないのか、家族と他数人のアドレスがあるだけで、パズルゲームの追加データに仕掛けもない。メールもインフォメーションや機種変更を勧める通知くらいで、大して使用された形跡もない。



「これがお前の実力か。ポンコツメリケン女」

「うっさいわね! 頭の風通し良くしてあげるわ!」

「ちょっと喧嘩しないでよもー」



 長谷がメールを調べていると、パソコンの画面を二人に向けた。

 お菊が覗くと、そこには並んだケータイショップからの通知の他に、知らないアドレスがあった。

 何かのサイトのアドレスなのか。メールの内容も、サイトのリンクがあるだけで、文章はなし。

 長谷はそのアドレスとリンクを付箋に書き写すと、お菊に渡した。



「早期解決を心掛けましょ」



 そう言ってサマンサにパソコンを返す。サマンサはパソコンを見ると、酷く嫌そうな表情をした。

 お菊は煙管を咥え、長谷と共に執務室を出た。

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