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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
8/109

8話 捜査前夜

 刑事課───事務室

 建物同様にボロボロな備品の中、唯一生きているパソコンを起動しUSBを差し込む。数秒でデータは読み込まれ、一つのフォルダが表示される。


 時刻は夜の八時二十七分。

 太陽もカラスもとっくに家に帰り、外を照らすのは青白く光る月と点滅する街灯。事務室を照らすのは今にも落ちそうな裸電球。

「被害者リストと事件の周辺地図のみ。っかぁ~! どうしようもねぇな」

「三年前だっけか? あの事件は」

「そうだよ。懐かしいなぁ」

 そう言って薫は穴だらけの棚から三年前の事件資料を取り出し、隼の隣の机に投げ置いた。


 ──が、机は音を立てて壊れ、ただの廃材と化す。壊れた瞬間の薫の驚いた表情と壊れた机の上でなに事もなかったかのように置かれた資料が妙に笑えて思わず吹き出した。

「笑うな」と言う薫も笑っていて説得力はない。必死にこらえているようだが口角が下がらない。笑いながら拾い上げてパソコンの横に優しく置いた。

 丁度その時、音に気付いて駆けつけたお菊が姿を見せた。


「お菊警部だ。もう警護課でもいいからさぁ刑事課直してくんね?」

「まだ居たんかい······。直せったって『奇襲だ』『テロだ』ってなるのはここだけでありんす。直しても意味ありんせん」

「そりゃあ、『少秘警で一番物騒な課』だからな!!」

 薫は誇らしげな顔をするが、誰も褒めていない。

 隼もお菊も無反応を決め込んだ。


「そういえば、ややこしい事件(ヤマ)はどうなりんした?」

 隼が口を開きかけた時、薫が口の中のガムをゴミ箱に吐き捨てる。見事に命中したゴミ箱は少し溶けていた。

「ほらよ」と薫が報告書を提出すると、数日前のものだと思っていたお菊が驚いた顔をする。だが静かに読み始めた。


 桜木 骸 十七歳 男性

 コンビニに到着時、既に店長(そっぷるたん)と口論していた。

 レジには盗品と思われる充電器や菓子類などがあったが途中謎の消失。その間誰もレジに近付いておらず、隠滅(いんめつ)は不可能。

 もし、可能になるとしたら──



「「「桜木骸が何らかの能力を所持し、使用したとされる」」」



 口を揃えて最後の一文を読む。

 空気が張り詰め、暗い雰囲気に変わる。

「······桜木がもし、能力者であったなら筋が通るんです。本当にあったとしても能力は不明ですが」

「その可能性があったから逃がしたけどよ、何かあったらすぐ動くから」

「承知しんした。『消えた』としたら、『消去』の能力かもありんせんな。上に言って······あ、そうそう、これを言いに来たんだった」


 お菊は真顔で「帰れ」と言い放つ。

 これに反応するのは薫しかいない。

 頭の後ろで腕を組み、これまたなんとも言えないような良い顔をして「嫌だ」と返す。

 お菊の眉がかすかに動いた。


「もうとっくに八時過ぎんした。子供は早く帰りなんし」

わりィな。こっちはどーしてもやんなきゃいけない仕事があるんだよ」


「聞きわけなんし。髪の毛真っ赤っか」

「も少し尊重してほしいね。青のりみたいな顔」


 どんな顔だ! ············と、ツッコむ前に薫の頭が机にめり込んでいた。

 笑顔で拳をさするお菊に恐怖を抱きながらも薫の体を起こす。

 薫は額から血を流してもなお「腕力ゴリラ」「クソジジィ」と悪態をつく。

 お菊の長い指が額を弾くと薫は椅子ごと床に倒れた。


 ············きじも鳴かずば撃たれまいに。


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