表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
高校生失踪事件
66/109

18話 操り人間 2

 長谷と事件の情報交換をする。隼が療の赤褐色のシミだらけのシャツを修繕しながら、昨日の出来事を報告する。長谷は茶封筒から二枚の紙を出した。


「とりあえず、薫が持ってきたクッキーの成分分析結果が出たわ」

 そう言って、情報処理課の書類を隼に見せる。専門用語の羅列に戸惑う柊馬にもわかるように説明する。


「小麦粉、卵、バター……どれも普通に使われる材料よ。でも変な成分が検出されたわ」

「変な成分?」


 書類には化学式と『異物検出』の文字しか書いていない。それでもなんとなく、直感的に理解出来た。



「麻薬…ですね?」



 柊馬の顔が凍りつく。長谷が腕を組みながら机にもたれた。

「そうよ。最近また新しいのが出てるらしいから、それかもしれないわね。事件これが終わったら売人探しね」

「また覚せい剤の類か……」


「いや、マリファナっぽいんだな」


 療が口を挟む。自分のデスクで書類を作成しながら、お気に入りのコーヒーを嗜んでいた。長谷が眉間にシワを寄せた。

「なんであんたが知ってんのよ」

「一つ食べたからだな」



 ――――は⁇



「「食べたぁ⁉」」



 隼と柊馬が同時に叫ぶ。長谷は開いた口が塞がらない。

 なぜ証拠品を口にしたのか、そもそも麻薬が入っていたのにどうして療は無事なのか。療はびっくり発言したにもかかわらず優雅にコーヒーを飲む。

「連中がありえないとか言うから、手っ取り早く証明したんだな」

「あんただから出来る芸当ね。あともう一つ変な成分が出たのよ」


 成分表の二枚目、一番下の方に写真がついていた。

 緑色の結晶。サイズは小麦粉より小さく、混ぜると見分けがつかなくなる。

 成分の表示はない。何か、さえ書かれていない。

「警部、これは?」

「私にもわからない。ただ、情処課の主任が言うには『能力片』だと言うのよね」

 ――能力片?確かに媒介を必要とする能力は存在するが……


「能力を使用したのは俺と薫だけですが……」


 ――いや、いた。能力を使った奴。


 昨日見た女の子の人形。聡明が持っていたあの人形だ。

 あれのお蔭で薫は暴走し、隼は能力を使えなくなった。

 柊馬に聞いても「知らない」と首を横に振った。

「聡明が人質に取られた後で持ってた。生徒がこの人形の力で消えちゃうんだからびっくりだよ」




「待った」




 また療が口を挟む。片手をあげて近づいてくる。

「人形?女の子の人形か?」

「そう。綿人形の」

「それが原因で暴走と消失が起きたんだな?」

「はい。目の前で起きたので」

「僕も見てたから間違いないよ」

 証言を聞いて療は額に指をあてる。小声で呟きながらデスクとベッドの間を行ったり来たり。長谷は貧乏ゆすりをして待っていたが、ついに療を止めた。

「ああもう!鬱陶しいわね!事件に首突っ込む暇があるなら、出張の報告書出しなさいよ。何日かける気なわけ?」

「人形………出張……………あっ!」



「そうだ!轢かれた時だ‼」



 ―――はい?


「「「轢かれたぁ!!?」」」


 療は目を見開く三人を放置して一人納得する。曰く、出張帰りにカフェに立ち寄った時、大型トラックに突っ込まれた。現場近くに警察がいたため、こっそり逃げたそうだが。

 ならば、その時の証拠となるものはどこにあるのだろうか。車の破片なんてものは無理だが、せめてその時に着ていた衣服──。

 隼は手にしていたシャツを落とした。長谷がそれを袋に入れた。療は気にせず話を続けた。

「だから遺体に欠損があったんだな」

「欠損?」

「ああ、文字通りの『消し炭』だからな。復元体で確認した。面白いことに皆」



「体のパーツが足りない」



 柊馬が小さく悲鳴をあげた。長谷も顔をしかめる。療は淡々と語る。

「手、足、耳、目……内蔵も無かったな。皆一部分だけがない。俺も『心臓』を盗られたからな」

「心臓っ!?なんで生きてるの!?」

「そういう体質だ。無論失ったものに興味はない。だが、心臓はだめだ。とんでもない目的だな」


 隼の頭の中でピースがハマっていく。クッキーの異物、人形の存在、体の欠けた遺体、聡明が言っていた「あと一つ」……


「分かった」


 隼がベッドから飛び降り、支度を始める。長谷は安堵したように微笑み、署長の伝言を伝えた。


「猶予は明日の日没まで。処分はその後に決めると思うわ」

「余裕です。今夜で決着をつけます。薫に連絡を……」


 薫の名を出した途端、場の空気が重くなる。通夜のような雰囲気が隼に地雷を踏んだことを知らせた。



「えっと、薫はね───」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ