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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
高校生失踪事件
62/109

14話 核心に微笑む(薫視点)


「いったぁ!!?」


 いきなり風が吹いたかと思えば、後頭部に鈍器のような衝撃が走る。その直後に硬いものが落ちる音。数歩よろめいた足下に、隼の警棒が落ちていた。


 ──あンの野郎……っ!!


 文句を……と思ったが、隼は一人で全生徒を相手にしている。楽しそうだが余裕がないのは見てわかる。

 我慢することに決めた。


「聡明やめて!酷いことしないで!!」


 柊馬が聡明の腕を掴んで悲痛な叫びをあげる。だが聡明は耳を貸さず、見向きもしない。それどころか柊馬を冷たく払いのけ、カッターを振り回す始末。


 ──全く、なんて奴だ。


「親友の話くらい聞いてやれよな!」


 薫が警棒を蹴り上げ、聡明の頭を撃ち抜く。横からの攻撃に揺らぐ聡明だったが、態勢を立て直して落としたカッターを拾おうとする。カッターを足で払いのけ、襟を掴んで遠くの壁にぶん投げた。

 柊馬は腰を抜かして地面に座り込む。震える手を握って涙を堪えていた。



「足リナイ、足リナイ……アトヒトツ、ソレガ大事……一番……大事」



 弱々しく起き上がる聡明の瞳には薫が映る。壊れた人形のように言葉を繰り返しては、虚ろな目で薫を見据える。警棒を拾って薫はガムを膨らませる。

 聡明が走り出した。真っ直ぐに薫を狙ってきた。

 拳が顔面に飛んできた。しゃがんで避けると膝が額を狙っていた。


「ぐっ……」

 腕で防いで後ろに転がる。前を向くと聡明のひと蹴りが頭を当たった。

 昏倒しそうな痛みと目眩。収まるまで待つ時間はない。飛ばしたカッターを握る聡明は躊躇なく歩いてくる。


「聡明って、なんか武術とかやってたか?」

 柊馬に尋ねた。柊馬は首を横に振った。怯えながら薫に答える。

「柔道とかならやってないよ。やってたのはサッカーくらいかな」


 ──あっそ。どうりで強いと思ったよ。


 聡明はカッターで薫の眉間を突く。後ろに下がって攻撃から逃れ、警棒を刀のように構えた。

 目を閉じて呼吸を整える。かつて師匠に教わった剣術を思い出す。習ったものは基礎の基礎だ。古びてしまっても使い道はある。

 聡明が再びカッターで突きを放つ。その瞬間を見極めて──



「せぇぇい!!」



 一瞬の抜刀術。

 見えぬ速さでカッターの刃を砕いた。聡明も膝をついて倒れる。柊馬が聡明に駆け寄った。聡明の体を揺すって声をかける。

 薫は警棒を回して深呼吸した。首を回して呟く。



「あーぁ、失敗した」



 聡明の目が開き、「足リナイ」とこぼす。

 ──おかしいな。普通なら全身を叩かれて起き上がれないはずなんだけど。つーか、三十分は気絶するはずなんだけど。


 聡明は痙攣する体を無理やり起こす。

「足リナイ……足リナイ……足リナイ……」

「こりゃきっちり気絶させたほうがいいな」

 じぃっと睨む聡明に睨み返して、薫は警棒を手の内で回す。しっかり握り直して聡明に歩み寄った。しかし警棒を振るうことはなかった。




「やめて紅夜くん!聡明を傷つけないで!」




 庇うように両手を広げ、精一杯の怖い顔をする。

 薫の前に柊馬が立ちはだかったからだ。

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