13話 核心に微笑む
一ミリたりともズレのない整列で、前を見つめる。ライトで奥を照らすがいまいち見えない。仕方なくライトを借りて生徒の顔を確認しようとした。
パチンッ!
指を鳴らす音がして、壁に掛かった松明に火が灯る。後ろを振り向いた。驚く柊馬の横に手をあげた薫。
薫は申し訳なさそうに手を合わせる。
「ちょっと暗かった……」
「バレないようにやってくれ」
明るくなったその空間は体育館ほどの広さで、聞いていたより多い人数の生徒が並ぶ。その中には違う高校の生徒もいた。
「何人だ?リスト以上の数がいる」
「ざっと五十か?聞いてたのは二十だったっけな……。まぁ倍だ、倍」
「聡明!」
柊馬が青ざめた顔で飛び出した。生徒達の虚ろな目が見つめる先に、俯いて立つ聡明の姿がある。
「聡明帰ろ!?ねぇ!」
柊馬の必死な訴えにも反応しない。強く肩を揺さぶっても微動だにしない。光の消えた瞳には誰の姿も映っていない。
突然、薫が弾かれたように駆け出す。
「柊馬危ねぇ!!」
「えっ」
薫が柊馬の襟首を引いて前に出た。聡明は握りしめていたカッターで柊馬の首を狙っていた。薫が防御に出した腕を切りつけて聡明は舌打ちをする。
「欲シイ……足リナイ、足リナイ、アトヒトツ……アトヒトツダケ」
独り言を呟いて聡明は柊馬を睨んだ。
隼が二人のもとへ行こうとする。生徒の目が一気に隼に集まる。
「ヒッ………」
──素で悲鳴をあげるところだった。
「ヤレ」
腕を前に突き出してゾンビの如く襲いかかる生徒。もちろん大人しくさせることは造作もない。だが一般人、被害者にケガを負わせるわけにもいかない。
「被害者だとか生徒だとか、そんなん今カンケーねぇからな!」
抵抗できない隼に薫が叫ぶ。
そんなことを言われても、相手は前途ある学生で、事件に巻き込まれた被害者で──
「いってぇ!!?」
左腕に激痛が走る。見れば生徒の一人が思い切り噛みついていた。固い歯は服を突き破り、容赦なく肉に侵入する。頭の中で何かが切れた。
「やめろや!!!」
噛みつく生徒の眉間に拳を叩きつけて弾き飛ばす。そのままイヤリングにぶら下がる鍼を引き抜いて横一閃に振る。
強風が吹き荒れ、生徒が薙ぎ払われる。腰の警棒を薫に投げつけ、生徒たちとの距離をあける。
うめき声をあげて、腕を伸ばしてじりじりと近づいてくる。
隼はその場で軽くジャンプして手首と足首を念入りにほぐす。肺から空気を追い出して耳に集中する。
迫る足音と虚無な声。擦れる服とわずかに起きる風。目を閉じていても手に取るように分かる。後ろから迫る音がすぐそこに……。
「はぁっ!」
一人の手が肩に触れると同時に息を吸い込む。振り向きざまにみぞおちに肘鉄をねじ込む。その生徒の肩に手をかけ、体をねじって横にいる生徒の首を蹴る。遠心力で飛んだ体の衝撃を吸収するために一度しゃがみ、正面に立つ女子の顎に手のひらを叩きつける。
そのまま腹を踏み台にして周りの生徒を回し蹴りで一蹴。
「おっと、そうだ。被害者だよ」
『学校』プラス『多勢に無勢』の状況に飲み込まれて忘れていた。被害者は丁重に扱わないと。しかし、こちらが気を使っても相手は我を忘れているから、加減もへったくれもない。
──正直、めんどくさい。




