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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
高校生失踪事件
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8話 事件目撃

 とうの昔に習った勉強を繰り返し、薫を呼び戻す放送に耳を塞いで昼休みを迎える。

 ちょうど一宮先生が通りかかり、廊下の男子を注意する。

「あの、一宮先生」


 生徒指導室に移動した。もちろん話を聞かれても問題はない。だが変に噂が広まっては逃げられる可能性がある。念の為だ。

「一宮先生は校内の噂を知ってらっしゃいますか? 生徒が突然居なくなるって、密かに騒がれてるんですが」

「いや、聞いたことが無いな。どうした?噂を流した奴でも見つけたか?」

「いえ、そうではないんですけど。転校してきたばかりですから不安なもので」


 ······一宮先生も知らないか。


 安心したフリで様子を見る。しかし、一宮先生も安心した表情だ。

 容疑者から除外すべきか? 考えはより複雑になる。


 一宮先生の携帯が鳴った。携帯の裏にはプリクラが貼ってある。少し幼さは残るが、高校生くらいの少女だ。



「······娘さんですか?」



 一宮先生は電話が終わると、プリクラを見て頬を緩めた。

「そうだ。歳は16だったか。ここの高校ではないが立派な娘だぞ」

「そうですか」


 用は済んだ。さっさと次の教員に話を······


「あ、そうだ」


 最後に一つ、聞かなくてはならない質問があった。



「以前、別の学校でも似たような()()があったそうですけど、ご存じですか?」

「いや、ないな。ここで同じことがあったとしても、奪われることはないだろう」


 知らないか。なら話は終わりだ。

「ありがとうございます」

 生徒指導室を出て二年の教室に向かう。何かが胸につっかえている気がした。


 * * *


 階段を上っていると、柊馬と聡明に出会った。面倒くさそうについてくる薫もいる。柊馬に昼食同行の誘いを受け、断りきれずついていくことに。

 向かったのは自動販売機コーナーに設けられた購買部。昼食を買いに来た生徒達でごった返していた。

「すげぇ。初めて見た」

「ああ、テレビの中だけだと思ってた」


「購買は初めて?」

 柊馬が顔をのぞきこむようにして尋ねた。返答に困ったが、深く聞かずオススメを教えてくれた。


「人気なのは焼きそばパンで、新商品はオムライス弁当だね。僕のオススメは家庭科部特製のクッキーと鮭おにぎり」

「何でおにぎりシリーズで鮭だけピックアップしたんだ」

「塩加減がいい感じで美味しいから」


 聡明が渋い顔をして柊馬とごった返す生徒の群れに突っ込んだ。さっと食料を買うと無駄のない動きで戻ってくる。感心したが、さすがに黙って見物しているだけだと昼食を食べ損ねる。今日は弁当を持ってない。ピンチだ。


 人波の引けた隙間に割って入り、適当におにぎりを掴んで食料を確保する。会計をしている横で、薫がクッキーを掴んでまじまじと見つめていた。薫は惣菜パンとそのクッキーを買った。

 怒涛の勢いで押し寄せる人の群れから逃れてようやく柊馬たちの元に戻った。ちょっと買うだけで使う体力は普段の訓練以上。予想以上に疲れた。

 購買······侮っていた。

「じゃあ中庭行こっか。結構いい席が······」



「あ〜······悪ぃ。オレらちょっと用事」



 柊馬のお気楽進行を遮って薫が遠くを見つめる。その先には虚ろな瞳でふらふらと歩く男子生徒がいた。買った食料を聡明たちに押し付けるように預けてその生徒を追いかける。



 様子がおかしい。足はおぼつかないし、声をかけても反応しない。更にいえば、その背中を走って追っているのに一向に差が縮まらない。


「誰かわかるか!?」

「わかんねぇ。隣のクラスの田山······だと思う」

「そういやお前サボり魔だったな」

 無駄な質問だったか。後で調べよう。

 職員室を右に曲がって長い廊下を走る。田山らしき生徒は廊下の先を左に曲がった。

 確かそこは使われない倉庫があったはず。他に道はない。

 追い詰めた。これで逃げられない。


 より一層加速してあとを追う。廊下を滑るように左に曲がったが──



「なっ──!!」



 誰もいなかった。南京錠のかかった倉庫の扉があるだけ。鍵はしっかり閉まっていて開けた後はない。



 田山が消えた。



 ありえない状況に出くわして薫が壁を殴った。周りになにか残っていないか探すも、努力は虚しく何も出てこない。


「またかよ······っ!!」


 行き場のない怒りと悩みが扉から放たれる冷気に潰された。

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