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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
5/109

5話 警察と万引きとおっさんと


「───ったく何なんだよ! 『書類書け』っつったすーぐ後に『事件だ。行け』っておかしいだろ! しかも面倒なやつだし! はーぁやる気しねぇわ」

「落ち着け。うるさいし唐辛子臭いしあんま吠えんな。やる気がないのは通常運転だろ」


 少秘警所有の車で街中を巡回する。

 街中にいた方がすぐ駆けつけられて逃がしにくい、という薫の提案だ。

 しかし、ただでさえ運転で疲れるというのに、隣で騒がれると余計に疲れる。適当になだめて運転に集中するも、どしゃ降りのため視界が悪い。ワイパーを細かく動かしても見える景色はゆがんでいた。

 先程まで······いや、現在進行形で騒いでいる薫は茶封筒の中身を確認しては文句を言う。だが、その目はどこか真剣で、隼は話しかけることを自重した。


 ──ちゃんとやるんだよなぁ。


 しばらくすると無線が入り、薫が応答するが砂嵐ばかりでよく聞こえない。


『お菊·········んす』

「お菊アリンコ?」

『その······周へ···犯············でた······』

「そのシューマイチャーハン美味しかった? 何言ってんだ?」



『しばくぞ薫』


 ──よく聞こえた。



 お菊のドスの効いた声が車内を冷たく貫き、薫が「さーせん」と軽く謝った。

 例のややこしい万引き犯が出没したらしく、しかも二人のいるところの近くらしい。

 詳しく場所を聞くと、現在地から五分で着くと言っていた。


「本当に近くだな」

「ナビするぞ。そこ右!」

「ああ!」

「二つ目の信号左に曲がって直進200m!」

「おう!」


「行きつけのゲーセンに到着」


 急ブレーキを踏んだ。



「現場に案内せぇよ!! 仕事しろバカ!」



 誰がつけたのか、運転席下から仕込まれたハリセンを薫の顔に力一杯叩きつけた。

 だからこいつは······。

 疑いもせずハンドルを切った自分に苛立ちながらもアクセルを踏む。現場はそのゲームセンターの近くのコンビニだった。


* * *


 ゲームセンターの陰にありながら、なかなかに存在感のあるコンビニ。車を停め、店内に入るとレジの前で言い争っている人が二人いた。

 一人は小柄で、少々肉付きが良過ぎる体格、鼻付近に大きなイボがついていて、黒縁の太い眼鏡をかけている。頭の髪が薄く、バーコードのようになっているところが典型的だ。店のエプロンを身につけ『店長』の名札をつけた(総評して)おっさん。


 もう一人は細身で地味な色のパーカーとジャージといった服装だが、紫色の悪戯(いたずら)に切られたような斬新なヘアスタイルの猫目の少年。おそらく年齢は高校生くらいだろうか。


 レジの上には充電器、ガム等の菓子類、飲料水等等(などなど)万引きの定番商品が山のように置かれていた。

 きっと彼が万引きしたのだろうが、バックルームで争うならともかく、店頭で争うとは·········。

 この店は犯罪に対する処罰を見直した方がいいのではないだろうか。来て早々、微妙な印象を受ける。


「あのぉ······警察のも「だーかーらぁー!」


 少年が声を荒らげレジを叩く。



「盗ってないって言ってんじゃん! 何!? おっさん頭悪いの!? 鶏なの!? 」

「やってなかったらこの商品はここに無いだろうが!」



 声をかけても二人は言い争いをやめない。それどころか口論は一層ヒートアップする。

 薫が店長の肩を叩いてようやく気付いてもらえたが、怒り顔の店長は汚物でも見るような目で薫と隼をじろじろと見た後、ふんと鼻を鳴らした。

「全く、仕事もろくに出来んクズ共め。しかしすぐ来たことは褒めてやる」


(態度悪っ!!)


 店長の性格がこの一言で理解出来たような気がする。口の中の言葉をぐっと飲み込み、冷静になろうと深呼吸をする。

「えーと、彼が? 通報の万引きですか?」


「え? おっさんじゃないの? なぁーんだ、そっち逮捕したかった」


 薫の喧嘩の早さには物理的に開いた口が塞がらない。「最初の一言くらい流せよ」と小声で肘鉄を入れる。


「よくやった」

 聞こえないように言った。

「だろ?」

 いい笑顔で答えた。


 薫は「何だっけ?」と店長と少年を見て首を傾げると店長はレジをバンバンと叩いて大声を出す。


「こいつがっ! ウチから商品を盗ろうとしたんだ! さっさと牢屋にぶち込め!」

「はぁ!? ちょっと! 僕何も盗ってないんだけど!!」


 再び始まる口論。

 来た時と違って店長はやや負け気味で、尚且つ少年の物言いに相当憤りを感じている。

 少しだけ、少しだけ耐えていたがすぐに声を荒らげた。



「黙れこの嘘つきがっっ!!」



 目を疑うような現象が起きた。自分たちの目の前で、だ。


 これは夢か、現実か。手品か、魔法か、またはた『能力』か。


 信じられなかった。信じたくなかった·········



 レジの上の商品が一瞬にして消えた──

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