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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
高校生失踪事件
49/109

1話 ???

 豆を挽く音が耳に心地よい。

 淹れたての芳しい香りが鼻孔をくすぐる。

 店内を包み込む淡い光がより一層味を引き立てる。

 やはり仕事の後の一杯は格別だ。飲み慣れたコーヒーも特別に感じる。

 男は白い陶器にあるコーヒーを飲み干して席を立つ。カウンター席近くのレトロなレジに向かうと、ヨーロッパ系の外国人店主が難しい顔で帳簿をつけていた。

 男に気づくと帳簿を戻してレジを打つ。


「百二十円です」

 流暢りゅうちょうな日本語で話し、男から丁度の金額を受け取る。


「今日はまた一段といい味だったな」

「良い豆が入りまして。一番に味わって頂きたかったものですから」

「そうか、気遣いありがとう。また来る」

Please(またお) come(越しく) again(ださい)!」

 店主と短い会話をして店を後にした。明るいレンガの壁の前をたった数歩、歩いただけの距離だった。

 耳に迫るブレーキ音。体の片側だけに熱が当たる。反射的に動いた目の先に、猛スピードで突っ込んで来る大型トラックの姿。



 ───車が悲鳴をあげた直後には店の壁が破壊されていた。



 レンガとトラックに押し潰された体。全身の骨は砕け、筋肉や内臓に突き刺さる。ぶつかった際に剥がれたトラックの部品が左腕を喰いちぎった。周囲を赤で派手に飾って男の体は元居た店内に投げられる。


 青白い顔で飛び出す店主と悲鳴を上げてトラックを降りた運転手が瓦礫と血溜まりの中から必死に男の体を探す。

 騒ぎを聞きつけ集まる野次馬を避け、男は数本の血管で辛うじて繋がった左腕を抱えた。左腕の傷口を重ねると傷は瞬く間に癒え、自由に手が動く。服の埃を落とし、口元の血を袖で拭う。


「やはり『いつも通り』が一番だな」


 晴れ渡る空の下、男は血だらけの服で何事も無かったかのように散歩に出かけた。

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