45話 桜木と本心
生まれついての『能力者』だった。『嘘を操る』能力だった。
だから家族は僕を嫌った。
母さんは僕を召使いのように扱ったし、父さんは僕の能力を自分のために使ってた。
顔を合わせれば喧嘩ばかりの両親。『あなたのため』なんて嘘を何度聞いたことか。
嘘をついた時、口から溢れる黒いモヤを見たことある?それが本音に形作るから僕は嘘を見抜けるんだよ。
ずっと独りぼっちだった。だから家に帰らず外を歩いて、知らない人にこっそり情報を教えてた。
気づいたら僕は『裏社会の情報屋』なんて呼ばれてた。ハートの女王に『チェシャ猫』の名前を貰ってた。
家に帰る度に増えるアザを、心に刻まれる傷を消すために女王に尽くした。
でも、能力者は五人だけ。女王が欲しいのは『能力』だけ。
やっぱり僕は要らないのか───
そう思ったら、黒い感情が湧き上がった。初めての経験だった。こんな狂気じみた感情を知ったのは。
だから、テレビで騒がれてた事件にほんの一つ、足跡を残してみた。気づくか気づかないかくらいの薄く小さな足跡。それが組織の殆どを逮捕するような大きな騒動になるとは思わなかったけど。
ふと脳裏を過ぎった父さんの顔。初めて褒めてくれた父さんの微笑み。
──そうだ。その手があった。
犯罪者を沢山捕らえよう。裁かれない悪者を僕が沢山捕らえよう。
その結果が家族のいない、荒れた家だった。互いに僕を押し付けて消えた両親の、残した僕の帰る場所。なんてちっぽけなんだろう。
僕が『能力者』だから、『化け物』だからダメなんだ。どんなに頑張ったって、『化け物』なんじゃ意味が無い。
それでも僕は止めなかった。
父さんの職場で聞いた『異端組織』の話。もし彼らがいるのなら、もし僕と同じ『能力者』がいるのなら、その人たちにかけてみよう。
その人たちならきっと僕を殺してくれる。
そうしたら僕は──
──『愛されますか?』
* * *
自分の見ていたものが、走馬灯だったことに気づくのは屋上から足が離れる一瞬だった。体を抱き上げるように風が吹いて、今は地面を目指している。
──走馬灯なんて、初めて見た。
体は全く動かない。人形のようにだらしなく投げ出された四肢。袖から現れるアザだらけの腕はどこにも手を伸ばさない。
そりゃそうだよね。予想外の形とはいえ、これが僕の計画の最期。僕が望んだ結末。
鉛のように重くなる瞼と聞こえなくなっていく聴覚。全てが初めての感覚に感動を覚えた。だが、もう必要ない感情。
──本能的に気絶するって本当なんだ。何だか眠るようだなぁ。じゃあこのまま眠ってしまおう。
地面に着いた時、痛くないことを祈りながら目を閉じる。最後の街明かりが消えた。それと同時に、桜木の目に入ってきたのは闇でもよく見える赤い髪と────
桜木に伸ばす大きな手だった。




