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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
40/109

40話 チェシャ猫と嘘 2

 階段を上がるだけ。走って登るだけ。

 それだけでも汗をかく。息が切れる。五階まで足を止めずに進めば当たり前か。


「変な······ビルだよなぁ······はぁ」


 階段の位置が階によって違い、暗いと探すのに時間がかかる。

 更に撤去されていない仕切り板やデスクなどが残っていたり、爆弾が仕掛けられていたり。

 ······いや、備品が残ってるのは分かるよ? 持ってけなかったのか、仕方ねぇな。で済むよ? 爆弾が仕掛けられてるのは何なの?

 迷宮ダンジョンかっつーの。



「流石だね! おにーさん体力あるぅ〜」



 乾いた拍手で迎えられる。階段の上には桜木が立っていた。

 おかしいな。桜木はエレベーターに乗ったはず。一階で見た時にはとっくに十階を過ぎていた。


 ──ここで降りてエレベーターを上に行かせたのか。


「すごいね〜。でもここからは難しいよ?」

「いやいや、今まででも十分ムズいから」

「おにーさん、『口裂け女』とか『人面犬』とかって知ってる?」

「知ってっけどやめろよ? マジでやめろよ? ······やめてくんねぇかな」


 そう言ってやめるとは思えないが。

 桜木はニヤニヤと笑って薫を見据える。


「都市伝説って言うけれど、本当にいるんだよ? 呼んであげよっか」

「おっと、その手にはのらないぞ」


 桜木の能力には『発動条件』がある。

 コンビニのややこしい事件が起きたのは、知らず知らずにその条件を()()()()()()()()満たしたからだ。



 能力の発動条件、それは──『嘘つき』と言うこと。

 それさえ言わなければ······




「能力を避けられるとでも?」




 パーカーのポケットに手を入れた。

 出てきたのは一つのボイスレコーダー。ああ何て便利な世の中だろう。進化した世界がちょっと腹立たしい。

 細い指が再生ボタンを押した。



『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』『嘘つき』



 老若男女様々な声で流れ出す『嘘つき』。桜木は悪戯っぽく舌を出す。

 歪に浮かび上がった──『嘘』

 声を出す前に、ヒヤリとした空気が肌を撫でた。その直後に、髪の毛が逆立つほどの寒気。

「くっ······!」


 体を回転させて避けると、人の口がすぐ横にあった。血走った目が薫をじっと見つめる。よだれの滴る口がにぃっと笑う。獣臭い体が肩を蹴った。


「マジで来たのかよ······」


 壊れた玩具のように笑う──人面犬。犬のように高いテンションでフロアをグルグルと走り回る。

 でも顔は人間。気持ち悪い。

「お前の嘘の能力って『嘘を本当にする』ことか? なら『本当を嘘にする』ことも出来んだろ」

「んー、惜しい」


 ポンと肩を叩かれた。振り向くと真っ赤な服を着た女。長い髪とマスクで顔を隠している。艶っぽい声が頭に響いた。


『ワ タ シ キ レ イ ?』

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