39話 『物』語り
ドアを開けると散らかった部屋が挨拶をする。
机の上はレトルト食品やコンビニ弁当などの既製品の山。シンクは洗われていない食器で底が見えないし、タンスや押し入れは開けっ放しで乱暴に漁られた跡がある。
床は土足の跡がびっしりと残り、窓や空いた穴からすきま風が漏れる。部屋は部屋としての使命を何も果たしていなかった。
それくらい荒れているとなると疑うのは空き巣。でもこれは──
「夜逃げか···?」
土足で部屋に上がって他の部屋を確かめる。すぐ隣の加齢臭が詰まった部屋。
臭いにむせ返りながら部屋を見回す。漁られた跡もなく、暫く使っていた形跡もない。まともに掃除された様子もないとは、ほとんど帰っていなかったのか。
その部屋の向かい側は和室になっていた。ほとんど家具はなく、生活感は無かった。布団が敷きっぱなしで放置され、部屋の隅に中学校の教科書が積まれている。
ほぼ新品同様。どうやら学校に行ってなかったらしい。
「──まてよ?」
本当に夜逃げなら何で桜木はここに残っているのか。そもそも父親は警察で、借金を抱えるような身分でもない。
逃げたのは母親だけか? なら何故桜木は引越しもせず、使われなくなったこのアパートに居座り続けるんだ?
考えれば考えるほど分からない。
ふと、桜木の笑い声が脳裏をよぎった。面白そうに、馬鹿にするような笑い声──
『おにーさん達も超能力者!?』
敷布団を払い除け、教科書を漁る。
どこかにあるはずだ。あいつが隠した計画書!!
気づくタイミングは早くにあった。コンビニの事件なんて、自分の能力をほのめかした余興に過ぎない。
何故もっと早く気づけなかった。何故あの時あの場所で見抜けなかった。
自分の愚かさが恨めしい──!!
一枚だけ、僅かに畳の大きさが違う。ほんの少し隙間があった。その隙間に指をねじ込んで畳を持ち上げる。
「あった!」
よれよれになった一冊のノート。タイトルのないノートは思っていた以上に重かった。




