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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
39/109

39話 『物』語り

 ドアを開けると散らかった部屋が挨拶をする。

 机の上はレトルト食品やコンビニ弁当などの既製品の山。シンクは洗われていない食器で底が見えないし、タンスや押し入れは開けっ放しで乱暴に漁られた跡がある。


 床は土足の跡がびっしりと残り、窓や空いた穴からすきま風が漏れる。部屋は部屋としての使命を何も果たしていなかった。

 それくらい荒れているとなると疑うのは空き巣。でもこれは──



「夜逃げか···?」



 土足で部屋に上がって他の部屋を確かめる。すぐ隣の加齢臭が詰まった部屋。

 臭いにむせ返りながら部屋を見回す。漁られた跡もなく、暫く使っていた形跡もない。まともに掃除された様子もないとは、ほとんど帰っていなかったのか。

 その部屋の向かい側は和室になっていた。ほとんど家具はなく、生活感は無かった。布団が敷きっぱなしで放置され、部屋の隅に中学校の教科書が積まれている。

 ほぼ新品同様。どうやら学校に行ってなかったらしい。


「──まてよ?」


 本当に夜逃げなら何で桜木はここに残っているのか。そもそも父親は警察で、借金を抱えるような身分でもない。

 逃げたのは母親だけか? なら何故桜木は引越しもせず、使われなくなったこのアパートに居座り続けるんだ?

 考えれば考えるほど分からない。


 ふと、桜木の笑い声が脳裏をよぎった。面白そうに、馬鹿にするような笑い声──




『おにーさん達()超能力者!?』




 敷布団を払い除け、教科書を漁る。

 どこかにあるはずだ。あいつが隠した()()()!!

 気づくタイミングは早くにあった。コンビニの事件なんて、自分の能力をほのめかした余興に過ぎない。

 何故もっと早く気づけなかった。何故あの時あの場所で見抜けなかった。


 自分の愚かさが恨めしい──!!


 一枚だけ、僅かに畳の大きさが違う。ほんの少し隙間があった。その隙間に指をねじ込んで畳を持ち上げる。

「あった!」

 よれよれになった一冊のノート。タイトルのないノートは思っていた以上に重かった。

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